#42
ついに、学校祭がやってきた。
数々の教室が華やかに装飾され、各々決めた出し物をしている。ひかりの教室も、事前の話し合いで決めた『メイド喫茶仕様』になっていた。――そう、メイド喫茶仕様に。
「メイドの格好するの忘れてた~~~!」
「ちょっとー、ひかり? うるさいよ」
ひかりは学校祭でメイドのコスプレをすることになっていた。そのことを学校祭当日に思いだし、ひかりは嫌々着替えさせられた。
「……っていうか、スカート短すぎない? スースーするし見えそうだし、私ジャージ穿くね」
「ダメダメダメ! メイドはこれくらい短くなくちゃ! ジャージなんて穿いたら、その細くてながーい脚が見えなくてもったいないよ?」
「べつにいいよ、そんなの……」
よくないよっ、と千歳はひかりからジャージを奪い取る。湊のことですっかり忘れていた。何故、メイドのコスプレを了承してしまったのだろう。
(……っていうか、湊、来てるかな)
前日の説得で、湊の心は揺らいだはずだ。本人も来ると言っていたし、むしろ来なかったら、今までのひかりの努力が水の泡である。今すぐ湊の教室へ行って確認したいものだ。
そう思い、足を一歩踏み入れたところで、千歳に腕を掴まれた。どこいくの? と、問われる。
「もうすぐで始まるよ! 教室戻ろっ」
千歳に腕を引かれながら、嫌々教室に戻った。
「いらっしゃいませー!」
学校祭が始まって数十分後。隣からは、千歳の軽やかな声が聞こえてくる。何故、そんな高いテンションでいられるのだろうか。さっきから周りの目線は脚に行っているのがわかるし、いつ見えてしまわないかドキドキだし、そんなテンションではいられそうになかった。
(まだ数十分しか経ってないはずなのに、疲れた……)
はぁ、とひとつため息をこぼす。今すぐジャージを穿きたい。制服に着替えたい。湊がいるか、確認したい。
すると、隣から今までとは違う明るい声が聞こえてきた。
「ヒロ君っ!」
どうやら、千歳が愛してやまない宏樹が姿を現したようだ。ということは、湊も……?
ひかりは、勢いよく俯けていた顔を上げる。その目の前には、湊の姿があった。
「湊っ……!」
ひかりも、先ほどの千歳のような明るい声を放つ。そして、湊のもとへ駆け寄った。
「湊、来てくれたんだね」
「そりゃ、あんだけ説得されて来ない奴いねーだろ」
「そうだよね」
どれだけ文句を言われたっていい。来ないと言っていた学校祭に来てくれただけで嬉しいんだ。
「……つーかさ」
「?」
「短すぎ」
一瞬、何のことだかわからなかった。だが、すぐにスカートのことだとわかり、咄嗟にそれを押さえた。
「わっ、私だってそう思ったし! 自分の意志でやってることじゃないからね!?」
どうせ似合ってないだろうし、と呟く。すると、湊は首の後ろに左手を添え、顔を逸らした。
「……似合ってんじゃね」
「……え」
なんとも湊らしくない言葉に、耳を疑ってしまう。それと同時に、なんだか恥ずかしくなってきた。顔に熱が帯びるのを感じる。
「……わっ、私戻るから、宏樹君と適当にその辺座っててねっ」
そう言い捨て、ひかりはその場を去った。
前、浴衣を見られた時は「似合わない」ってはっきり言われたのに、何故今回は、あんなに素直なのだろうか。メイド服だって、似合ってないはずなのに。湊なら、「似合わない」ってはっきり言うはずなのに。
その謎は、解明されなかった。




