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イツワリ  作者: 柏原ゆら
41/43

#41

 湊の過去を聞いた。あの無愛想な顔の裏側に、酷な過去があったなんて。今の湊からは想像できない。

 自分から聞きたいって言ったのに。湊の話を聞いていると、時折涙腺が緩みそうになった。


(湊の心の傷を、私が癒せるの……?)


 思ったよりも深い深い心の傷に、どうしても怯んでしまう。軽口をたたいてしまった。


「……で?」

「……『で?』?」


 うつむくひかりに、湊は自分から口を開いてくれた。でも、『で?』とはどういうことだろうか。


「何か思ったこととか、ねぇのかよ」


 そんなのたくさんある。楽しそうな家庭からの、急な悲しみ。同情することだってたくさんあった。あったけれど――


「……湊が、女々しくてムカついた」

「は……?」

「女々しすぎるって言ってんの! そりゃあ、お母さんが亡くなったのは物凄く悲しいけどさ。だからって女がうざいとか、大切な人は作らないほうがいいとか、全然関係無いから!」


 ひかりは、ただ思ったことを口にした。急なひかりの行動に、湊は目を丸くするばかりだった。


「学校祭だって、トラウマになるのはわかる。けれど、そのトラウマを克服しようと思わないの!? っていうか、私が克服させるから! たまには――」


 ひかりは強い眼差しで湊を見つめる。そして、最後の言葉を出しきった。


「――たまには花凛先輩じゃなくて、私を頼ってよ……!」


 ひかりは、自分の拳を強く握りしめた。伝わっただろうか。ひかりの心からの言葉は、閉ざされた湊の心に、届いただろうか。

 すると突然、湊の右手がこちらにのびてきた。きっと、ひかりの生意気な態度に怒ったのだろう。叩かれる、と思ったのも束の間、その手は後頭部に添えられ、そのまま、湊の体に引き寄せられた。


「ちょっ、湊……っ」


 顔をあげて、湊の顔を確認しようとすると、「見るな」と囁かれ、さらに後頭部を押しつけられた。その声は、若干震えていたような気がした。


(湊、泣いてる……?)


 ひかりを抱き締めるその手も、小刻みに震えている気がする。大声で泣きたいのを、押し殺しているかのように。

 湊は強がりだ。泣き顔だって、女子には見せたくないに決まっている。そう気付いたひかりは、湊の顔を無理矢理見ようとせず、黙って抱きしめられていた。




「……今日は、ありがとな」


 玄関で靴を履き替えるひかりに、湊は背後から声をかけた。どういたしまして、とひかりは立ち上がる。


「俺さ、学校祭出るわ」

「えっ、本当!?」


 よかった、とひかりは胸を撫で下ろす。


「克服させてくれるんだろ?」

「そうは言ったけど……って、何これ?」


 ひかりは湊から渡された物を見つめる。それは、どこかの鍵だった。


「俺ん家の鍵。やるよ」

「いやいやいや、何でよ?」

「だって、お前は俺のカノジョだろ?」


 そう言って、湊は悪戯をするかのような笑みを浮かべた。裏がある。いや、裏がなくたって、ひかりは大声で言い返した。


「『仮』ですけどね!?」

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