#41
湊の過去を聞いた。あの無愛想な顔の裏側に、酷な過去があったなんて。今の湊からは想像できない。
自分から聞きたいって言ったのに。湊の話を聞いていると、時折涙腺が緩みそうになった。
(湊の心の傷を、私が癒せるの……?)
思ったよりも深い深い心の傷に、どうしても怯んでしまう。軽口をたたいてしまった。
「……で?」
「……『で?』?」
うつむくひかりに、湊は自分から口を開いてくれた。でも、『で?』とはどういうことだろうか。
「何か思ったこととか、ねぇのかよ」
そんなのたくさんある。楽しそうな家庭からの、急な悲しみ。同情することだってたくさんあった。あったけれど――
「……湊が、女々しくてムカついた」
「は……?」
「女々しすぎるって言ってんの! そりゃあ、お母さんが亡くなったのは物凄く悲しいけどさ。だからって女がうざいとか、大切な人は作らないほうがいいとか、全然関係無いから!」
ひかりは、ただ思ったことを口にした。急なひかりの行動に、湊は目を丸くするばかりだった。
「学校祭だって、トラウマになるのはわかる。けれど、そのトラウマを克服しようと思わないの!? っていうか、私が克服させるから! たまには――」
ひかりは強い眼差しで湊を見つめる。そして、最後の言葉を出しきった。
「――たまには花凛先輩じゃなくて、私を頼ってよ……!」
ひかりは、自分の拳を強く握りしめた。伝わっただろうか。ひかりの心からの言葉は、閉ざされた湊の心に、届いただろうか。
すると突然、湊の右手がこちらにのびてきた。きっと、ひかりの生意気な態度に怒ったのだろう。叩かれる、と思ったのも束の間、その手は後頭部に添えられ、そのまま、湊の体に引き寄せられた。
「ちょっ、湊……っ」
顔をあげて、湊の顔を確認しようとすると、「見るな」と囁かれ、さらに後頭部を押しつけられた。その声は、若干震えていたような気がした。
(湊、泣いてる……?)
ひかりを抱き締めるその手も、小刻みに震えている気がする。大声で泣きたいのを、押し殺しているかのように。
湊は強がりだ。泣き顔だって、女子には見せたくないに決まっている。そう気付いたひかりは、湊の顔を無理矢理見ようとせず、黙って抱きしめられていた。
「……今日は、ありがとな」
玄関で靴を履き替えるひかりに、湊は背後から声をかけた。どういたしまして、とひかりは立ち上がる。
「俺さ、学校祭出るわ」
「えっ、本当!?」
よかった、とひかりは胸を撫で下ろす。
「克服させてくれるんだろ?」
「そうは言ったけど……って、何これ?」
ひかりは湊から渡された物を見つめる。それは、どこかの鍵だった。
「俺ん家の鍵。やるよ」
「いやいやいや、何でよ?」
「だって、お前は俺のカノジョだろ?」
そう言って、湊は悪戯をするかのような笑みを浮かべた。裏がある。いや、裏がなくたって、ひかりは大声で言い返した。
「『仮』ですけどね!?」




