#04
そんなこんなで、ひかりは宏樹達に導かれるままゲームセンターにやって来た。
「何で、デートなのにゲーセン……?」
そんな疑問が浮かんでくる。今時は普通なのだろうか。ひかりには理解不能だった。
「あれ? ひーちゃん入んねーの?」
中に入ろうとせずドアの横に立っているひかりを不思議に思ったのか、宏樹が声をかけてくる。ひかりは、宏樹の言葉に何度も頷いた。それを見た宏樹達三人は、ゲームセンターの中へ消えていった。
一人になったひかりは、ふぅと一息つく。ふと、ゲームセンター全体を見上げた。
(……何で私、こんな所にいるんだろう。帰っちゃお)
そそくさ、と立ち去ろうとするが、あることを思い出した。未だにスマートフォンを返してもらっていない。大きくため息をつき、先ほど歩いてきた道を戻った。その時。
「よぉ、お嬢ちゃん。一人か?」
気づくと、四、五人のヤンキーに囲まれていた。確か、この人達はゲームセンターの前で座っていた人達だ。目をつけられてしまったらしい。
「身長たけぇな」
「足なげ~」
「髪サラサラじゃん」
ヤンキー達は、ひかりを頭から爪先まで見回す。終いには、ひかりのその漆黒な髪まで触ってきた。ひかりは、その手を振り払う。
「っ、やめてください」
すると、何を思ったのか、そのヤンキーは突然ひかりの腕を掴んだ。ゴツゴツの男の手で、強く掴まれた細いひかりの腕。今度は、先程のように振り払うことはできなかった。まぁまぁそんなこと言わずに、と腕を引かれる。どこかに連れていかれる、と思ったその時、違う手がひかりの腕を掴んだ。
「すいません。こいつ、俺の女なんで」
その声と共に、ひかりの腕は後方にスッと引かれた。その力で、声の主の胸の中に引き込まれる。暫く動けなかった。
「あぁ? なんだよ、イケメンのカレシ持ちかよ」
「早く言えよな~」
ヤンキー達は、相手を間違ったと言いたげな顔で、この場を去っていった。
彼らが見えなくなると、突然掴まれていた腕を離された。
「……ちょっと、私はいつからあんたの女になったの?」
フリーになった途端、ひかりは不満をぶつけた。すると、相沢湊は無表情で返した。
「……なんだよ。不満でもあんのか?」
「ありまくりだよ!」
死んでもごめん! と、ひかりは付け足す。それを聞いた相沢湊は、珍しく薄く微笑んだ。
「……じゃあさ、今からなれよ」
「はっ?」
「俺のカノジョ」
意味がわからない。何故彼は、急にこんなことを言い出したのだろうか。
「俺さ、女が嫌いなわけ。だから、お前はあいつらを排除する『虫除け』になれ」
「は? 意味わかんない。嫌」
突然自分勝手なことを言い出す彼の言葉に即答する。そして、キッと睨み付けた。
「っていうか、女子のこと虫扱いなんて失礼よ。それに、私だってスプレーじゃないんだし」
自分で何とかして、とひかりは言いつける。彼はひかりを物珍しそうに見詰めた。すると、彼はなにやらポケットの中をあさり始めた。
「……じゃあ、こいつはいらないみたいだな」
彼が取り出したのは、ひかりのスマートフォンだった。ひかりは、未だに返してもらっていなかったそれを久々に見た。
「私のスマホ! ちょっと、返して!」
ひかりは、彼の持つそれに手を伸ばした。だが、ひかりの手は虚空を掴み、体は彼の胸の中に飛び込んだ。その瞬間、物凄い勢いで飛び退く。
「返してよ! 波瑠から連絡が来てるかもしれないじゃない!」
「波瑠? あぁ、あのやたらメール送ってきた」
「ほら~~っ」
やはり、既に波瑠から連絡は来ていたようだった。安堵と罪悪感が同時にのしかかる。ひかりは、彼に同じ言葉を繰り返した。だが、全く聞いてくれる気配は無かった。
「……だから、俺のカノジョになれば返してやるっつってんだろ」
「それはっ……」
それは嫌だ。だけど、今すぐ返してほしい。ひかりは、この二択に迫られる。いろいろ考え抜いた末、ひかりは結論を出した。
「……返してください」
彼はひかりの言葉の意味を理解し、微笑みながらひかりにスマートフォンを返す。ひかりは、やっと返ってきたピンク色の星形のキーホルダーが付いている、彼とお揃いのスマートフォンを握りしめた。
「……お前は、今日から俺の『仮』のカノジョだ」
この日から、彼との『イツワリ』の関係が始まった――