#37
そんなこんなで、なんとか文化祭の前日まで過ごしてきた。
日に日に、母の酒の量は多くなり、話しかけづらくなってしまった。最後に話したのはいつだっけ? それほどだった。
姉によると、母が働いていたスーパーが最近つぶれてしまったらしい。少し前から経営難で、今まで続いていたのがすごいくらいらしい。だが、ついにつぶれてしまい、母は無職となってしまった。
母が職を失ってから、俺が家につくのが一番ではなくなった。母がずっと家にいるからだ。母は今、新しい職を探している真っ最中だ。
そんな文化祭の前日、明日に備えて準備を終え、母の待つ家まで走って帰った。
「ただいま!」
勢いよくドアを開ける。が、家は変なくらいに静まり返っていた。
「母さん?」
呼んでみても、返事がない。不思議に思いつつ、リビングまで向かった。
すると、リビングで見慣れないものを見つけた。テーブルの上に置かれた、ひとつの白い封筒。そこには、『妃と湊へ』と書かれていた。それも、母の字で。
不思議に思い、それを手に取る。それと同時に、玄関のドアが開く音がした。母かと思い、手に取った封筒をテーブルの上に戻し、玄関へ向かった。その途中に、少し開いたドアの隙間から、二つの人影が見えた。姉と、母の。
玄関に着いた時には、もうドアが閉まっていた。靴に履き替えようとすると、再びドアが開き、姉が入ってきた。
「姉ちゃん! 母さんは?」
「それが、よくわからないんだよね~……」
姉は、自分自身の手の中にある手帳を不思議そうに見る。よく見るとそれは、母の預金通帳だった。
ここで俺は、テーブルの上に置かれていた封筒のことを思い出した。すぐさま姉をリビングへ連れ、封筒を渡した。
「何、これ……」
そう溢すと、姉はガサガサと荒々しく封筒を開けた。中には、一通の手紙が入っていた。姉は、それを読み上げた。
「『――妃と湊へ。急にこんなことをして、ごめんなさい。自分勝手なことだと、十分にわかっているわ。だけれど、お母さん、疲れちゃったの。でも、あなた達二人は、お母さんみたいに弱い人になっちゃダメよ。堂々と、生きなさい。あなた達を愛しているわ。お母さんより』――何よ、これ……」
「……っ」
たったそれだけの言葉なのに、泣き出しそうになってしまった。母は今、いったいどこで何をしているのだろうか。嫌な予感が、異常なまでにした。
「……母さんの居場所に心当たりは?」
「そういえば、通帳貰った時、『どこか波の音がよく聴こえる、涼しい場所に行きたい』って――」
姉の言葉を最後まで聞く前に、身体は動き出していた。




