#34
そんな、ある日のことだった。
珍しく、元父と母の会話が聞こえてきた。
「――最近の生活はどうよ? 充実してる?」
「……」
なんて、他人行儀な言葉だろう。勝手に俺達を見放して、そのわりには勝手に金を持っていって。いいんだ。こんな男、身内だと、父だと思いたくない。他人でいい。俺と姉の存在だって、きっと忘れている。いや、忘れていてほしい。俺は、苛立ちを覚えた。――だが、次の言葉は思いもよらないものだった。
「あの二人は、元気にしてるか?」
「「――っ」」
息を呑んだ。すぐ、『あの二人』が俺達のことだとわかった。ドキドキと、鼓動が速くなる。それは、母も同じだった。
「湊は十二で、妃は十六か。どうだ、いい女になったか?」
「あ……あの子達は元気よ。もう、いいでしょ」
「いいじゃないか、気にしたって。仮にも、俺の子供達なんだから」
そう言って、男は立ち上がった。そして、俺達がいる部屋に歩み寄ってきた。それに気がついた母は、男を止めに入った。
「なっ、何すんだよ。放せっ」
「ダメっ。あの子達だけはダメっ!」
そんな母の抵抗も愚か、男は俺達がいる部屋のドアを開け放った。
「「――っ!」」
しゃがみこむ俺達を、男は見下ろした。俺達は、固まってしまい何もできなかった。そんな俺に、男は手を伸ばしてきた。咄嗟に、姉が俺を庇うように身を引かせ、男の手から身体を遠ざけた。それを見た男は、お怒りの様子だった。
「……小娘が。生意気なことしやがってっ!」
そう言って、男は無理矢理姉の腕を掴み、立ち上がらせた。
「いや、いやっ。放してっ!!」
「ほぉ。俺に似て、なかなかいい顔してんじゃねぇか。これは稼げるぞ」
抵抗する姉に、男は顔を近づけた。そんな男に、母は飛びかかった。姉の為になのだろう。俺も母に次いだ。
その後、男は俺達に傷をつけるだけつけ、やはり金を持って逃げていった。乱闘になっただけあり、部屋はぐちゃぐちゃ、身体は傷口がヒリヒリした。
「……大丈夫。つらいことの後には、幸せが待ってるよ」
姉が呟いた。今日できた傷は、やはり痛かった。




