#31
「湊、今日も休みなの?」
窓から顔を覗かせている宏樹に訊ねる。
学校祭の準備が始まって、数週間が経った頃。各クラスは一ヶ月半後の学校祭に向けてせっせと準備をしているというのに、最近湊は学校を休みがちだった。
「そうなんだよなぁ」
「何でだろうね?」
全く理由がわからない。湊は、学校祭が近くなると急に休み始めた。それは、休む理由と何か関係しているのだろうか。
何故だかすごく気になる。最近徐々に仲良くなれてきたのに、突然あんな態度をされたら、気になっても仕方がないだろう。あの突き放すような冷たい態度の意味は、何なのだろう。
悶々と考える日々の中、久し振りに湊が学校に姿を現した。
「湊っ! 今までどうしてたの!?」
湊を見つけた瞬間、ひかりは走り出す。湊のもとに駆け寄ると、湊は冴えない顔をしていた。
「……わり。体調不良」
そう言って顔を逸らす湊は、本当に体調が良くなさそうだ。
――だが、その裏側に、別の理由がある気がしてならない。
体調不良だけではすまされないような理由が、ひしひしと伝わってくる。だが、今の湊には訊くに訊けなかった。
一年生のフロアとは違う空気が漂っている。
二年生のフロア。ひかりがここに来たのは、もちろん理由がある。
目的の彼女を待っているだけで、何故かドキドキする。近づいてくる足音に、自然に顔をあげた。
「あっ、花凛先輩ですか?」
「そうだよ。あなたが湊のカノジョのひかりちゃん?」
宏樹から聞き出した、宏樹曰く『湊と仲良しな先輩お姉さん』の桃園花凛。仲良しということもあり、湊のたくさんの悩み事を聞いているという。彼女に訊けば、今朝感じた違和感の真相もわかるのではないだろうか。そう思い、花凛を訪ねた。
「先輩にお訊きしたいのですが……湊は何故、最近休み続けているのですか? 先輩なら知ってますよね?」
早速訊いてみると、花凛は「単刀直入だね」と微笑んだ。その後、花凛は微笑むだけで口を開かず、教えてくれなそうだった。だが、ひかりも諦めずに黙って待つ。すると、ずっと微笑んでいた花凛の口角が下がる。
「……そっか、湊はカノジョのひかりちゃんにもあの事を言っていないんだ」
あの事、という言葉に反応する。どの事だろう。ひかりは、花凛の次の言葉を待った。
「湊にはね、誰にも言えないつらいつらい過去があるの。普段は無表情で何も考えていなさそうに見えるけど、きっとその事で頭はいっぱいなはずよ。最近は、特に」
「どんな……過去を……?」
「残念だけど、それ以上は私からは言えないな。そんなに気になる? カノジョだもんね。湊のこと好き?」
突然の問いかけに、ひかりは戸惑った。普通の人相手になら、関係を隠すために「好き」と答えて嘘をつく。だが、今回の相手は花凛だ。湊は、花凛に『イツワリの関係』のことを話したのだろうか。話していると考えるのが妥当だと思うが、もし違ったら……と考えると、キリがなさそうだ。
「……好き、です」
花凛相手にも、嘘をついた。花凛は、知っているのか知らないのかわからない、曖昧な表情でそっか、と踵を返す。立ち去る花凛に、「花凛先輩は、湊のこと好きですか……っ!?」と問いかける。すると、花凛は振り向き、ニッコリと微笑んだ。
「……うん。好き」
目を見開き、何も返す言葉が見つからなかった。
(結局、私は何をしたんだろ)
真相は訊けなかったし、嘘はついたし。花凛が湊のことが好きだという情報はゲットできたが、それが何の役に立つ? 無駄なことをしてしまった。花凛から真相を訊けなかったら、この先誰に訊けばいいのだろう。
(……つまり、本人に訊けってことね)




