#29
「もうすぐで学校祭だね」
とある日の帰り道、ひかりは湊にそんな話を持ちかけた。
「湊のクラスは出し物決まった?」
「……知らね」
そう言って、湊はそっぽを向いてしまった。知らね、でいいのだろうか。いや、よくないだろう。
約一ヶ月半後に開催される学校祭。その為に、学校全体が各々準備をし始めた。生徒達は、クラスで何かひとつ出し物をしなければならない。それで、ひかりのクラスは今日出し物についてを決めた。
「私達のクラスはメイド喫茶なんだ。よくわかんないけど、メイドやれって言われちゃってさ」
クラスでの会議を思い出す。最初はなかなか決まらず、誰かが適当にメイド喫茶を提案したのが始まりだった。本人もきっと、採用されると思っていなかっただろう。他にやることもないので、それに即決定された。続いて、誰がメイドで誰が料理を作るかというのを決めに入った。その時、千歳がひかりをメイドに推薦したのだった。勿論猛反対したが、他のクラスメイトも、ひかりは脚が長いから似合うだろうと次々と賛成していき、決定されてしまったのだった。唯一の救いは、千歳も一緒にメイドをやるということだろうか。
「私なんかが似合うのかな?」
「似合うんじゃねーの」
素っ気なく、適当に返されてムスッとする。興味がないことくらいわかっているが、態度というものがあるだろう。
湊に何か声をかけようと思っても、かけづらい雰囲気だった。むしろ、湊から『話しかけてくるな』という思いが伝わってくる。何故だかわからないが、とても機嫌が悪いようだった。
「千歳とひかりちゃん達、メイド喫茶やるんだって?」
宏樹が廊下側の窓から、ひかりの教室へ顔を覗かせる。最近は、宏樹がこのようによく顔を出していた。だが、いつも、隣に湊の姿は無かった。湊は、こんなところに来ると大変なことになると考えているのだろう。べつに気にならないし、問題ない。
だが、今日はなんだか気になって仕方がなかった。昨日あんな態度をとられてしまったら、気になっても仕方がないだろう。今更な気もするが、宏樹に訊いてみようと思った。が、それよりも早く、千歳が口を開いた。
「ずっと気になってたんだけどさぁ、湊君はここに来ないの?」
なんと、先に千歳が訊いてくれた。ひかりは千歳と一緒に、宏樹の答えを待った。
「あー、来ない来ない。湊、休み時間はいつも、先輩お姉さんのところにいるから」
「「先輩お姉さん?」」
ひかりと千歳は口を揃える。『先輩お姉さん』とは、誰のことだろうか。
「二年の、湊と仲良しの人。湊が色々悩んでるとき、相談に乗ってくれるんだとさ」
(湊に悩み事なんてあるんだ)
咄嗟にそう思ってしまった。少し経って、女子達のことだとわかった。
「えー? どんな悩みなの?」
「それは、いくら千歳にでも言えないよ。ただ――」
千歳が笑いを混ぜながら問う。宏樹も最初は笑って返したが、不意に、顔を下向きにさせた。
「――二人が思ってるより、過酷な悩みだよ」
そう言う宏樹の顔は、悲しみに溢れていた。その言葉の意味を、ひかりは理解できなかった。




