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イツワリ  作者: 柏原ゆら
27/43

#27

「千歳? さっきのはさすがに勝手すぎるよ」


 膝を抱えて小さくなる千歳に、ひかりは言う。『勝手すぎる』という言葉が少しカチンときて、「何が?」と訊ねた。


「だって、宏樹君、『浮気』って言葉にピンときていなかったみたいだったよ? そういうつもりはないんじゃないかな」

「だとしても、カノジョの前であんな行動は酷いでしょ」


 まぁ、そうだけど……とひかりは黙り込んでしまう。千歳は、頬を膨らませた。


「……あの璃架ちゃんって子、可愛かったし、気移りしちゃったんだよ」

「そうかなぁ? あの宏樹君が、簡単に気移りする気がしないけどな」

「ひかりに何がわかるの!」


 千歳の怒鳴り声に、思わず肩がビクリと震える。その様子を見て千歳は、ごめん……と呟いた。


(私……なんか変だ)


 自分でもわかる。いつもは滅多に怒鳴ることなんて無いのに、宏樹が浮気したとわかると、人が変わってしまったかのようだ。


「私は、ヒロ君が好きなだけなんだけどな……」


 無意識に出た言葉に、ひかりはクスリと微笑む。教室に戻ろうと言われ、縮こまった身体を起こした。




 全ての授業を終え、生徒は皆帰る支度や部活に行く準備をしている。いつもなら宏樹のいる隣のクラスへと飛び出す千歳であるが、今日は違った。

 はぁ、とひとつため息をつき、ひかりのもとへ歩み寄った。


「ひかり、あのさ、今日一緒に帰ってもいい?」


 ひかりにそう訊ねると、何やら悩むポーズをとった。何を考えているのだろうか。不思議に思っていると、ふとひとつの考えが浮かんだ。


「……あ、ごめん。やっぱりいいや。湊君と帰るよね?」

「うん。まぁ、そうだけど……」


 邪魔しちゃ悪いから、と踵を返す。そのまま、独りで昇降口を出た。

 真っ青な空を見上げる。雲ひとつ無い青空の下、たった独りで歩く惨めさに涙が滲みそうだった。

 そんな思いも振り払い、歩きだそうとしたその時、背後から聞き慣れた声がした。自分を呼ぶ声。この声は、まさしく大好きな宏樹の声だった。


「千歳~!」

「ヒロ君……」


 こちらに駆けてくる宏樹。千歳まで辿り着くと、何で先に行っちゃうんだよと息を切らしながら言った。


「……だ、だって、ヒロ君が浮気するから」

「そのさ、『浮気』ってのがいまいちよくわかんねぇんだけど、俺、何かした?」


 ケロッとした様子で問いかけてくる宏樹。その姿に、無性に怒りが込み上げてきた。抑えよう、抑えようと思ってもそれは爆発してしまう。


「だからっ! ヒロ君は、あの璃架ちゃんって子が好きになっちゃったんでしょ!? 正直に言ってよ!」


 宏樹は、またもや首をかしげた。それに反論しようとするが、宏樹の言葉によって遮られた。


「どうして千歳がそう思うかわかんないけど、璃架は俺の従姉妹(いとこ)だよ」

「従姉妹……!?」


 宏樹の口から出た思わぬ事実。千歳は開いた口が塞がらない状態だった。


「え……じゃあ、二人で保健室に入っていったのは?」

「璃架さ、実は身体が弱くて、度々保健室に通わなくちゃいけないらしいんだ」

「手を繋いでいたのは……?」

「璃架をフォローする為。従兄弟(いとこ)だから面倒見てやれって、親父に言われてさぁ。『神楽璃架』って、聞いたことあるだろ?」


 そう言われれば、確かに聞いたことがある。宏樹の言葉に、うんと頷いた。

 とんでもない勘違いだった。身体が弱い従姉妹の璃架を助けている宏樹の優しさを、浮気だなんて。心底自分を恨んだ。


「ごめん……。ごめんなさい、ヒロ君。ごめんなさい……っ」


 勝手にポロポロと零れ落ちてくる涙。宏樹は目を丸くし、千歳を抱きしめた。


「俺こそ、何も伝えなくてごめんな。でも、千歳がそれだけ俺のことが好きってわかったから、嬉しいよ」


 ちゅっ、と二人の唇が触れ合う。二人、顔をあわせて笑いあった。

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