#17
部屋に入り、ひかりと湊はテーブルの周りに座った。あかりはといえば、お茶を置くや否や、湊の正面に座り、上目遣いで問いかけた。
「湊先輩はぁ、クッキーとチョコレート、どっちが好きですかぁ? それとも、あかりがいいですかぁ?」
「ちょっと、なに訳わかんないこと言ってんの!」
変なことを言い出すあかりを、ひかりは制する。湊は怪訝そうな、でもどこか嫌そうな顔をしていた。
ひかりはあかりを連れて、部屋の外に出た。
「ちょっと! 何してんの!?」
「何って、アプローチだよ? あかりは湊先輩のことが好き。だから普通でしょ?」
当たり前だよ、と当然のように言うあかり。そんなあかりを見て、ひかりは深くため息をついた。
「……でも、湊は私のカレシなんだよ?」
「勿論知ってる。その上での行動だよ。相手にカノジョがいようと関係無い! あかりは、お姉ちゃんから奪っちゃう勢いでいくからね」
覚悟しとけ! と宣戦布告をすると、あかりは勢いよく一階へ駆け降りていった。そんなあかりの後ろ姿を見送り、ひかりは部屋の中に戻った。
「……湊、大丈夫?」
どことなく疲れはてている湊に、そう声をかける。湊はひとつ深呼吸をして答えた。
「なんか、お前の妹……疲れる」
「これからはもっと大変かもよ? 湊のこと好きになっちゃったみたいだし」
「……え」
ひかりが悪戯をするように笑うと、湊の顔は一気に青ざめた。大きなため息をつく。
「……まぁ、一応私のカレシだからって念を押したつもりだから。『仮』だって、何回か突っ込みたかったけれど」
「そうだよな。お前は俺のカノジョだもんな」
「『仮』のね!? 忘れないでよ!?」
肯定させまいと、ひかりは何度も言い返した。
* * *
「――そうだよな。お前は俺のカノジョだもんな」
「『仮』のね!? 忘れないでよ!?」
ひかりの部屋から聞こえる、ひかりと湊の声。お菓子を持ってきたあかりは、二人の会話に思わずドアノブにかけていた手を止めた。
(『仮』のって、どういうこと……?)
理解できなかった。あかりは、本日、大好きな姉であるひかりのカレシに恋をした。でも、二人は正真正銘の恋人同士だ。可能性が低いことは、百も承知だ。でも、ひかりから奪ってやる。そう決心し、宣戦布告したのに。
(お姉ちゃんと湊先輩は付き合っている。だけど、それは『仮』なの……?)
そう理解したとき、自分のしたことの意味が無い気がしてきた。あかりの宣戦布告は、ひかりの心には響いていなかったのだろう。響くはずがない。
『仮の関係』というのなら、話は別。奪うのではなく、自分のものにしてしまえばいいのだ。
「……あははっ、こっちのほうが楽だね」
どんな理由でそんな関係を続けているのかわからないが、二人とも、そんな関係はきっと望んでいないはずだ。湊を自分に振り向かせるのは、簡単に思えた。
心の中での目標を変え、それに向かって進むことを決めたあかりは、ドアを勢いよく開けた。
Happy Valentine! どうも、柏原ゆらです。
本日はバレンタインデーですね。皆様はチョコは作りましたか?
バレンタインだというのに、本編は全く関係無い季節です。あかりちゃん全開ですね(笑)
それでは、これからもよろしくお願い致します。