#14
とある日、思ってもいなかったことが起こった。
「ひかりっ」
突然名前を呼ばれ、誰かと思い振り向くと、そこには波瑠がいた。
(波瑠……!?)
何故か、一瞬後退りをしてしまった。何せ、波瑠とはあの放課後以来話していなかったのだ。何を言われるのか、ドキドキが止まらない。恐る恐る、近づいてくる波瑠を見上げた。
「あのさ、ちょっと話があるんだけど」
「?」
ドキリ、と胸が音をたてる。話とは、どんな内容なのだろうか。波瑠の次の言葉を待った。
すると突然、波瑠の顔が近づいてきた。
(っ!?)
ビックリして、身を引きそうになる。が、それよりも早く、波瑠が口を開いた。
「夏祭り、一緒に行かない……?」
耳元で囁かれた言葉。唐突すぎて、それに「へっ?」と聞き返してしまった。離れた波瑠の顔を見上げると、「どうかな?」と心配そうに訊ねてくる。
「いっ……行く行く! 勿論行く!」
突然のお誘いに戸惑いながらも、快く了承した。波瑠からは、嬉しそうな笑みが零れる。
「よかった。……だけど、相沢は大丈夫?」
「……あ」
すっかり忘れていた。彼氏彼女の関係になったら、そういうのには一緒に行かねばならないのだろう。きっと、湊も誘ってくる女子達を嫌がって、ひかりに逃げてくるかもしれない。しかし、ひかりは湊とは行きたいとは思えなかった。むしろ、行きたくなかった。
「……ま、まぁ、夏祭りって二日間あるじゃん? もう片方の日に、湊と行けばいいんだよ。ね?」
「……そうだね。じゃあ、近々連絡するね」
じゃあね、と去っていく波瑠の後ろ姿に手を振り続ける。
(夏祭りって、一ヶ月後だよね……。波瑠って、早め早めの人なんだな)
スマートフォンのカレンダー機能で確認する。ひかりは、早速七月のカレンダーに夏祭りの予定を書き込んだ。
毎年七月の上旬頃に、街中の大通り周辺を中心に行われる夏祭り。いつも二日連日で開催され、一日目も二日目も、たくさんの人々で溢れていた。家族や友達と来ている人は勿論、恋人同士で来ている人も数多くいた。
(私と波瑠は、『友達』として行くんだよね……)
少々胸が痛む気がする。それは、波瑠と『友達』として夏祭りに行くのが嫌なのか、『仮』だとしても湊というカレシがいるのにも拘らず他の男と夏祭りに行く罪悪感からなのか、その謎は解明されなかった。