#10
「今日は待ちに待った中間テストの日ですよ? 準備はよろしくて?」
妙にテンションの高い千歳に、軽蔑の眼差しを向ける。「何だその目はっ」と、額にデコピンをされた。何故テストなのにテンションが上がるのか、不思議で仕方がなかった。
「それではわたくし、お花畑に行ってきますわ~」
「あー、はいはい。いってらっしゃい」
お花畑に向かう千歳を、適当に送り出す。ふぅ、と一息つく。鞄の中からやりこんだテキストを取り出し、ゴゴゴゴと背後に火が燃えるほど入り込んだ。
(今日が決戦の日。あいつ、勉強してる気配全く無かったし、これは勝てる……!)
テキストを何度も読み返し、自分に自信をつけようとしたその時。
「西宮波瑠大好きさーん」
耳元で突然囁かれた。擽ったさと内容で、勢いよく椅子から立ち上がる。
「湊! 何すんのっ」
犯人、湊に顔を真っ赤にして怒鳴り付ける。耳はさわさわしたし、誰かに聞かれていないかドキッとした。寿命が縮んだ気がする。
「ゲットした情報は早速使わないとだろ?」
「情報って……」
ひかりは波瑠のことが好き。本人でさえ定かでないその弱味(?)を、よりによって湊に握られてしまった。ひかりは、苛立ちを覚えた。
(まず、やってることが幼稚なのよ)
どこぞの小中学生か、と訊きたくなる。が、訊いたところで湊の幼稚な行動に火が点きそうだったのでやめた。少しでも、湊が優しい奴だと思ってしまった自分が愚かだった。
「そういえば、湊って勉強したの?」
「全然」
その言葉を訊いた瞬間、ひかりはガッツポーズをした。どうやら、近々この関係は終わるようだ。湊はまた女子達の餌食になるらしい。波瑠とも、再びいい関係を築けるだろう。
嬉しくてニマニマしていると、不意に湊が口を開いた。
「あ、西宮」
即座に反応し、湊の視線の先を探す。が、波瑠の姿は無く、隣で湊が笑いを堪えていた。
(騙された……!)
「やっぱり、あいつのこと好きなんじゃん」
「だからっ、まだよくわからないんだってば」
でも、湊の言葉にすぐ反応してしまった。これは、波瑠のことが好きだという意味なのだろうか。もし、仮に波瑠のことが好きだとして、波瑠は誰のことが好きなのだろうか。自分の好きな人に好きな人がいたら、どうすればいいのだろう。
「まぁでも、あいつはお前のこと好きじゃないかもなー」
「……っ」
知っている。波瑠が仲良くしてくれるのは、自分のことを友達として見ているからだと。
(……私だって、そう思ってたじゃん)
そうだ。何も問題は無い。第一、自分自身がまだわかっていないことだ。そのうち、わかる日が来るだろう。
「だって、お前は俺のカノジョだもんな」
「……仮のね!?」
危うく、聞き逃すところだった。湊の言葉には何故だか裏がありそうで、ちゃんと耳を澄ませていなければいけない。
(……それも、今日で終わりだけど)
テストは明日には返ってくる。見納めになるだろう湊の姿を、初めてきちんと見た。
「……って、早く帰りなよ。テスト始まるよ」
湊の背中を押し、無理矢理教室に帰らせる。渋々帰ってく湊の後ろ姿を、見詰め続けた。
(顔はいいのにね。性格がね、性格が)
神は完璧な人を作らない、ということに感心しながら、テストという決戦の為に準備をした。




