#01
普通に恋をして、近づいて、両想いになって付き合う。これは、誰もが思い浮かべる理想的な恋の仕方だろう。
勿論、私だってそれを望んでいた。あの日までは――
* * *
「ねぇねぇ、この前やっと彼に告白されて、付き合うことになったのー!」
キャハハ、と嬉しそうに笑う声が耳に入る。入学してから、このような話はもう聞き飽きた。クラスの女子達は、所謂『恋バナ』が大好きだ。
はぁ、とため息をつきながらスマートフォンをいじっている彼女だって、本当はそういう話をしてみたかった。話す相手はいるものの、話の題材となるものがなければ意味が無い。彼女は、そんな女子達を羨ましがっていた。
「よっ、ひかり!」
突然の声に、スマートフォンをいじる手が止まる。ひかりは、声のした右手側にある窓に目をやった。
「波瑠っ」
「何してたの?」
爽やかに微笑む西宮波瑠は、中学の頃から仲が良かった友達である。最近は、他の友達とは違うような気がしている。ひかりにとって、波瑠は話の題材になり得る候補かもしれない。いずれは、そこら中にいる恋人の関係になるのかもしれない。そう、感じていた。
波瑠からの問いに、特に何も、と答える。すると、波瑠は話を切り出した。
「そういえばさ、今度の日曜あいてる?」
「日曜? あいてるよ」
ひかりの答えを聞いた波瑠は、顔に笑みを浮かべ続けた。
「じゃあさ、一緒に映画観に行かない?」
波瑠の言葉に、ひかりは即答した。
「行く行くっ」
「よかった。じゃあ――」
突然、波瑠の声が消えた。ひかりと波瑠は、その原因となる波瑠の背後を凝視した。そこには、一人の男子生徒を何人もの女子生徒が囲むようにして歩いていた。ひかりは、男子生徒の顔を見て、自身の顔を歪めた。
相沢湊。完璧なルックスと、長身、クールな性格から、彼は学校中までとはいかなくとも、学年で人気者だった。そんな彼の周りには、常に数人の女子が付いている。本人はひどく嫌がっている様子だが、女子達は嬉しそうにしていた。彼はとても女子を嫌うらしく、ああ見えてカノジョは未だにできたことが無いらしい。そこは、ひかりも同じである。
彼らが通りすぎると、辺りは先ほどの静けさを取り戻した。それを見計らって、波瑠は再び口を開いた。
「――じゃあ、後で連絡するね」
そう言って、波瑠はひかりのスマートフォンを指し示す。うん、とひとつ頷くと、波瑠は手を振って去っていった。その後ろ姿を見詰めた。
やはり、波瑠と話していると楽しい。この気持ちは、俗にいう『恋』というやつなのだろうか。よくわからないが、今から日曜日が楽しみだった。
(連絡、まだ来ないな)
放課後。スマートフォンを片手に、昇降口までの道を歩いていた。あれから、まだ連絡は無かった。
(そういえば、何の映画観るんだろ?)
いろいろなことを考える。そのせいで、ちゃんと前を向いておらず、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
「きゃっ」
その声と共に、ひかりのスマートフォンとぶつかった相手の荷物が廊下に落ちる。ごめんなさいっ、と謝りながら荷物を拾った。ふと、相手の顔を見る。
(……あれ? この人どこかで……)
サラサラした少し長い前髪に、綺麗に整った顔立ち。無表情に、自分の荷物なのに全く拾おうとしないその人は、かの有名な相沢湊だった。うげ、とひかりは顔を歪める。
(……なんか、こんなイケメンな人気者とぶつかったって知られると女子達に祟られそう)
そんなことを思いながら、拾い上げた彼の荷物を渡し、自身のスマートフォンも拾った。何故かその場に立ち尽くす彼を横目で見ながら、ひかりはその場を去った。
この彼との接触が、今後の運命を大きく変えていることを、ひかりは知る由もなかった――
はじめまして、柏原ゆらです。
七作目となるこの小説も、恋愛モノです。
より多くの方に楽しんで読んでもらえたら嬉しく思います。よろしくお願い致します!