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第一話

 パミィ、パミィ。愛しいパミィよ。お前は永遠に俺のものだ。パミィ、パミィよ。


 俺が初めてお前を見たのは、街の皆総出の、門から入ってくる勇者一行に対する大通りでの歓呼のパレードでだった。紙吹雪に街の楽隊の陽気な音楽、歓迎の絶叫に拍手と口笛が入り混じった人混みの中、俺は周りの人間に押し潰されそうになるのを何とか踏みとどまって、お前たち4人の一行を見守った。皆が街を守ってくれるという強い期待を寄せて、熱狂的な声を投げかけるだけあって、4人は皆輝いて見えた。特に先頭を歩く勇者は俺よりはるかに若い、まだ少年といっていい年頃なのに、この群衆の中でも物怖じせず、つやつやした肌の、整って彫りの深い顔を真っ直ぐに上げ、自信に満ちた目付きで堂々と歩いていて、俺はすっかり年を食ってしまった今は言うに及ばず、俺自身の若い頃を思い出してもみじめな気分になったもんさ。背は低く、さえない不恰好で、貧乏な家に生まれ、何の取り得もない。通りの両側から可愛い若い娘っ子たちが手を大きく振りながら、キャーキャー黄色い声をそちらに向けているのを見ても嫉妬の感情すら覚えなかったさ。勇者は相変わらず自信に満ちた笑顔で鷹揚にそんな娘たちに手を振り返し、また娘たちは絶叫する。何人かは気絶した子もいたそうだ。


 しかし、俺が一番気を引かれたのは、一番の喝采を受ける勇者でも、その後ろに順に歩いて並ぶ、がっしりした大男の戦士と、男だというのに白い肌の薄い顔立ちの女のような顔をして、そこから印象的な青い目が輝き、勇者に劣らず女の目を引き付けていた長身の僧侶でもない。4人の列の一番後ろにつき、一行のうちのたった一人の女として、街の男たちから一番声をかけられた踊り子のパミィ。お前さ。


 実際お前は素晴らしかった。女だというのに俺より背が高くてほっそりとして、飾り立てた巻き上げ髪の下の長い首や、ローブの切り込んだ裾から覗く素晴らしく伸びた脚の白い肌に俺はすっかり見とれたもんさ。まるで、偉い先生が時々話して聞かせる昔の神話の女神さまがそのままこの世に出てきたかと思った。男たちは大喜びで声を上げ、何人かは野卑な声を飛ばしもしたが、俺は全身、顔も喉も上手く働かず、到底そんな声を出すどころじゃなかった。お前がそんな男たちの歓声に応えて、ウィンクしたり、時にはその脚を大きく上げて、細くて長いその脚の肌を腿まで露わにしてみせたりした時、男たちはまたドッと沸いたものだね。何しろお前は美しいだけじゃない、その踊りで世界を旅して回り、あちこちで喝采を浴びてきた大人気の踊り子だものね。俺は噂には聞いていたが、まさか本当に勇者の一行に加わり、戦いの旅を続けているとは思わなかった。しかも、今まで多くの地方の城や街を回り、人々を救ってきた中で、他3人に劣らない活躍をしてみせたというのだから。俺にはお前の美しさ、踊り子としての名声、さらにはそうして魔物と戦う戦士としての姿を見、知るにつれてますます俺から遠ざかったものに思われた。その時俺は、あちこちからの喝采に応えて顔を向けるお前と目を合わせることさえできず、今こうしてお前が俺のものになるという想像すらできなかったよ。


 そんなお前と街で顔を合わせることになろうとは想像もしなかった。お前は俺が森から切り出してきた柴を広場に並べて売っている時、それを買いたいと言って声をかけてきたのだね。石畳の上に座布団を敷いて、あぐらをかいて俯いている俺が顔を上げると、そこにあるのは太陽より眩しい――そう、太陽より眩しい――お前の笑顔だった。細く整った眉、きらきらと陽気に光る茶色い大きな瞳、微笑みを浮かべる口のふっくら柔らかい桃色の唇の間からは並びのいい、白い歯が覗き出た。俺はお前の顔を見た途端、驚いて口も目も開けっ放しだったが、続いて、強い陽射しから顔を守るためにかぶった大きな縁の白い帽子の下の様子に気づいてまた仰天したさ。街に入ったパレードの時は首の生え際から上げきっていた髪をすっかり下ろし、その少し縮れた長い髪が背中の後ろまで流れており、その普段の生活を感じさせるくつろいだ様子と、そのためにかえって、薄雲を通しての太陽の光芒のような柔らかい輝きを見せる美しさに俺の頭はぼーっとしたさ。実際、太陽の光がキラキラと、その栗毛の髪の、帽子の縁の陰から外れた部分に当たり、縮れに合わせて様々な角度に反射していたね。


 お前は客に対して売り買いの反応を見せない俺に初めぽかんとした顔をしたが、すぐに気付いて悪戯っぽく微笑み直すと、「今夜ポーソーの酒場で舞台があるの。よかったら来てね」と俺に言った。俺はやっとの思いでお前に柴を渡し、代金を受け取ったが、慌てるあまりのそのそと不器用に動く俺を、その彫りの深い切れ長の目を吊り上げ、赤く豊かな唇の口角を上げた悪戯っぽく笑った表情のまま眺めながらも、しかし瞳だけは優しく、苛立つことなくじっと眺めて待ち続けていてくれたね。その時俺は気づいたのさ。前屈みになり、その時着ていた水色のワンピースドレスの長い丈の腿に当てているその白い腕と手のように、お前の心もまた柔らかいのだと。

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