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書庫での出来事

 一応、食事の時間だったので、人間達と精霊達は、食堂に向かった。

カルミラとルシェルド以下、此方の神々は、カーシェイクとリシェアオーガのお蔭で、少量の食事で済むようになった為、リシェアオーガ達と共に書庫へ赴く事となった。

カルミラの案内で、書庫に向かう途中、やはり、彼等は目立つ。リシェアオーガ達は勿論、従えている神龍達の姿、そして、キャナサの珍しい姿。

彼方此方から溜息が聞こえ、その中にキャナサの姿を、絶賛する声まで聞こえていた。注目されているのに、慣れていないキャナサは、なるべくカルミラか、ルシェルド、エルアの後ろに隠れる様にしている。

その姿が可愛らしいと、言う声が多かったのは、無理も無い。恥ずかしそうに俯いていたり、背中の羽で隠そうとしていたのも、それに拍車を掛けていた。

それに気付いたカルミラは、嬉しそうな微笑を浮かべ、ルシェルドも微笑ましそうな顔で見ていた。

「ナサ殿、もっと堂々となさって下さいね。」

「む・無理です。……恥ずかしい…。」

顔を赤く染めて俯くキャナサに、リルナリーナとリシェアオーガが、傍に寄って来た。そして、彼女の左腕にはリシェアオーガ、右腕にはリルナリーナがくっ付く。

何時もの双子達の行動に、顔を上げ、明るく微笑むキャナサに、辺りからも感嘆の溜息が出て来た。二人が手を取る事によって、キャナサも羞恥心が無くなり、普段と変わらない、しっかりとした足取りで、真正面を向いて歩き出す。

保護者の、無意識の行動がキャナサに顕著に現れ、妹と弟に両腕を掴まれ、周りからは慕われている姉の様に見えた。

確かにキャナサの、この双子に対する行動全ては、それに尽きる物であった。




 書庫に着くと、一人の女性が扉の中の直ぐ傍に、陣取っていた。

柔らかな綿の様な癖毛の、薄桃の肩までの髪と優しげな(あか)い瞳、可愛らしいと言う形容詞が、良く似あう女性である。

服装は白い長衣に似た物に、白く前後が分かれた袖なしの上着、袖は細身で折り返しがあった。

長衣の裾と上着の裾、袖の折り返しには象牙色の線が二本あり、その間には薄緑の若葉もした様な模様が存在する。

そして……背には真っ白な羽が、その存在を主張していた。

「ナサ姉さま。」

「ファーも来てたの?」

「ええ、カーシェの監視役として…ね。リシェア。」

茶目っ気たっぷりのウィンクを寄越し、ファースは答えた。その仕草すらも可愛らしかったのは、言うまでも無い。

「ファース殿、如何して、ここに?」

既に認識のあるカルミラが、彼女に尋ねた。彼女は微笑ながら、リシェアオーガに頼まれたと答える。

「カーシェ…夫はね、暇さえあれば、本のある場所に籠ろうとするの。然も、時間を忘れてしまうから、色々差障りが出て周りが困るの。

今回は講義と説教が主だから、ここに籠らせない様にって、お義父さまもおっしゃったわ。本当はリシェアが適任なのだけど、今は色々と忙しいから、代わりに私が見張ってるのよ。」

柔らかな、小鳥のような声が、事実を告げる。ファースの言う通り、知の神たる本領、別名・本の虫病を発症しない為、ここからカーシェイクを隔離していた。

まあ、講義が終わって、ここの神々に承諾を受けたら存分にと、ジェスクとリシェアオーガから、許しを得ているが…。



 書庫内にある地図を、カルミラが直ぐに持って来てくれた。何処に何があるかは、彼は全て把握しているらしく、迷わず、この世界の全体図を持って来た。

それを設置してある、6人掛けのテーブルの上に広げた。そして、キャナサは、先程の薄い膜を地図の上に広げ、そこに書かれている名前を移動させた。

散らばった名前の位置を確認すると、この神殿に二人、北の地方に三人、南寄りの東に二人、北東に一人、真西に二人に別れていた。

「この神殿にいる二人は、リシェアの許にいるから、()いけど、後は結構、バラバラに散らばっているね。」

「半月じゃあ、全ての回収は無理そうだ。

祭りが終わってから、再度、迎えに行った方が()いな。」

地図と散らばった名前を見ながら、キャナサとリシェアオーガは、自分達の考えを述べた。彼等の遣り取りを見て、カルミラは疑問に思った事を問った。

「ナサ殿、如何して地図と名前だけで、彼等の居場所が判るのですか?」

「私は命を司る者であり、命を生み出す者なので、個々の命の輝きというか、気配というか…そういうのが判るのです。勿論、生死も判ります。

…リシェア、この北東の一人と、真西の一人は、魂の回収になるよ。」

「じゃあ、そっちは、ナサに頼む。私は手始めに、この北の方を迎えに行く。

エルア、移動の際の手伝いを頼む。」

エルアに、先程の詳細を指示をし、明日は無理だから明後日からと、段取りを決めるリシェアオーガに、ルシェルドが理由を尋ねた。

「オーガ、何故、北の地方からで、明後日なんだ?」

「ルシェルドの新しい紋章となった金の龍は、北の地方では、剣の手練れが身に付けているものだろ?」

「…ああ、それでか。反感をなくす為だな。」

その通りと、頷くリシェアオーガ。日付についても簡単に答えた。

「明日は、母が様子を見に、こちらに来る。

…私がいないと、絶対に拗ねるからな。」

「心配なさってるでしょうから、その方が良いですよ。」

追い打ちをかけるカルミラに、ルシェルドも納得した。

怒りの余り、こちらの世界に来たあの父親でさえ、彼の姿を見て、その怒りを鎮めたのだから、心配の余り、憔悴(しょうすい)しているであろう母親なら、彼の姿が見えない事は、余計な心配を掛けると想像が付いた。

(おおむ)ね正解であった。だが、実際は心配が増すより、拗ねて自分の傍から離さなくなるという、抗議手段に出られるのだ。

それはそれで問題だった。


一通りの段取りが付いた所で、彼等は書庫を離れた。

キャナサは、カルミラが直々に部屋に案内して行き、ルシェルドとリシェアオーガ、神龍達はルシェルドの仮の執務室へ、リルナリーナはキャナサに付いて行った。

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