工房主を囲む人々
次回から、最終章突入です。
ライナスディムの意向を聞いたリシェアオーガは、この屋敷で彼の世話をしている精霊達の事を考えた。そして、彼等へ相談をすると、ここに残る者達と、主の傍にいたい者との分かれた。
ここに残る者は、ライナスディムの後を継ぐ者へ、引き継がれる事となったが、彼と共に行きたいと願う者達は、ライナスディムの説得を受けた。
しかし、彼等も主を定めた者、主の説得に耳を貸さない者が大半であった。
この様子に、リシェアオーガとエアファンは笑い出し、ルシェルドとアルフェルトは苦笑していた。因みに、エルアとティルザ、例の件で一緒にいるエアリムは、彼等使用人に同意の頷きをしていた。
出口の見えない説得をしているライナスディムへ、笑っている者の一人、リシェアオーガが話し掛けた。
「諦めた方が良いぞ、ライナス。
彼等位の人数なら、カルミラと交渉して、向こうに連れて行けるぞ。
母上だったら、特に問題無い。
それより、主であるライナスと離される彼等の方が、可愛そうだ。」
「ですが…リシェア様…
向こうの世界の私の子孫に、迷惑が掛るのではないのですか?」
最もな事を話したライナスディムへ、リシェアオーガは向こうの現状を告げる。
彼の子孫は、彼がいなくなった後、工房を継いだ者が必死になって、父親の技術を究めようとして、そこまで達せられなかった事。それは今でも続いており、屋敷の方が疎かになって、人手不足状態である事を教える。
「あそこは雇われた人が、直ぐに辞めて行く為、常に人手が足りない。
熟練の彼等が一緒に行くのなら、大丈夫だ。
主は気難しいが、ライナスと変わらないからな。」
子孫と、同じ性格だと教えられたライナスディムは、頭を掻きながら、
「あの馬鹿の性格を、そのまんま受け継いだのか…。
あいつはわしと、そっくりだったからな………。」
自分の息子を懐かしく思う彼の頭に、一人の女性が過った。
黒髪と深緑の瞳で、年相応に見えない童顔の、今は亡き、自分の娘。
彼の想いを受け取ったのか、リシェアオーガの腕輪が再び光を増した。ドルムドアースの時と同じように言霊を綴ると、そこから一人の女性が現れる。
同じ様に透けている黒髪の女性は、ライナスディムと向き合い、
『父さん!お久しぶり!!』
と元気な声を上げた。
この声に、父と呼ばれたライナスディムは、驚きの顔で女性を見つめた。
「お前…、スージィか?スージィなのか?
…全く、幽霊になっても、相変わらず元気そうで、落ち着きが無いな。」
後半を溜息交じりで告げる父親へ、娘はへへっと笑いながら答える。
『変わりっこないでしょ?あたしはあたし。父さんの子だし、当たり前。
でもね、父さん、これ以上あたしの為に、泣かないでね。
あたしも悲しくなっちゃうよ。
それにあたしはもう、新しい人生を歩むんだから、心配は要らない。今度は長く生きて、生きたまま幸せになるんだからね!!』
明るく告げる娘に、何時しか父親は微笑んでいた。
以前と変わらない、明るい娘…その子が自分を叱咤し、次の生に備えている事を、元気良く、朗らかに話す。
この事に、父であるライナスディムは納得し、リシェアオーガへと頭を下げる。
「リシェア様、如何か、娘を宜しく御願いします。」
父親からの願いに、娘もお願いを口にする。
『リシェアオーガ様、あの…お願いがあるんですけど…あたし、今度生れてくる時は、父さんの血筋に生まれたいんですけど…駄目ですか?』
娘の願いに父親は驚き、彼等の様子に件の神は、楽しそうに微笑んでいる。
そして…
「スージニアナ・ラムゼムド、そなたの願い、聞き遂げた。
ライナスが帰る直前まで、その転生、見送る事にする。…ライナスが向こうの世界へ帰り次第、元の血筋に生まれ、幸せな姿を見せて遣るが良い。」
と言い放つ。
彼等の願いを聞いたリシェアオーガは、腕輪へ帰る様、スージニアナへ促す。
ちらりと父親を見た彼女は、再び口を開く。
『父さん、元気でね。
あたしが幸せになる所を見せる前に、死んじゃあ嫌だからね!!』
元気な別れの言葉を吐いた彼女は、リシェアオーガの腕輪の中へ帰って行った。
娘の元気(?)そうな姿と、先程の言葉に涙ぐんだラライナスディムは、目の前の神へお礼を言うが、光髪を持つその神は、微笑みながらこれ位、当たり前だと告げる。
この世界の神々の勝手な行動で、運命を変えられた者を救う事は、向こうの世界の神々にとって、当たり前であり、歪めた相手に罰を与えるのも当然であった。
まあ、その罰は只今、絶賛続行中であるのだが………。
一通り事を終えた彼等は翌日、カルミラの神殿・カルエルム神殿へ帰る事にした。
大地の神である彼との交渉の為、エアリムとディアナラナ、エレムディアの家族も同行する事となり、加えて、アルトアの家族もルシェルドの説得により、彼と共に大地の神殿へ向かう事が決まった。
アルトアの家族は、一時的に大地の神殿で暮らし、その後、ルシェルドの神殿が作られている街に、住まう事となったのだ。
その為、この街へ来た時より、大人数の帰還となったが、帰った神殿で、新たな騒動が起こるとは、誰も思わなかった。




