愚か者の存在
次回から、新章突入です。
確認をし終り、己の行動を考えたエアファンが、それを彼等に告げる。
「取りあえず、僕とリムで足止めを食らわせるよ。
その間に援軍が到着したら、ドル達とルド達が出れば良いよ。
…で、リシェは如何する。待機して…あれ?」
何かを悟ったようなエアファンの言動に、リシェアオーガもその原因を探る。
突き止めた物で、厳しい顔付きとなり、自らの服装を変える。黒地に金色の線と紫の円、そして、金龍の縁取りのある騎士服と、同じ縁取りの白い外套。エアファンが今着ている物と、同じ型、同じ色のそれに、意味を知らない者達は驚いていた。
「リシェ、あの馬鹿がいるんだね。
ったく、この世界に来てまで、騒ぎを起こすなんて…いい迷惑だよね。」
「全くだ。あれの御蔭で、我が傍観出来無くなるとは…。ルドとアルが、どれだけ成長したか、確認したかったんだが…出来ず仕舞いか…。
ところで、騎馬兵と歩兵は、どれ位の割合か判るか?」
不意に振られた敵兵の話に、代表は慌てて、返事を返した。
「あ…え…っと、三分の二が歩兵で、残り三分の一が騎馬兵と確認しました。
…団長、こちらの方は、本当に元巫女様なのですか?
それにしては随分と…その…」
「戦に慣れているか?当たり前だ。
この御方は我等、武器を扱う者に取って、最も敬愛する神であり、守護神の異名を持つ御方々の、御一人だ。っと、そう言えば、リシェアオーガ様、その馬鹿者の名を教えて頂きませんか?」
部下の叱咤と共に、ドルムドアースに尋ねられ、リシェアオーガは、盛大な溜息と共に、その名を口にした。
「元レオナルバール国の将軍、ダルディアファムト・ローバムテス。己が、神の祝福を受けるに相応しいと思い上がった、傍迷惑な大馬鹿者だ。」
吐き捨てるが如く、告げられたその名に、ドルムドアースが顔を顰めた。
聞いた事のある名前だったらしく、その事を報告する。
「その名は、隣の国の将軍の名です。あ奴も、向こうの世界の人間でしたか…。通りで、死んだ噂を聞かない筈です。
この分だと、元巫女が我等が神である事も、知らなそうですね。あ奴…野心の為に選んだ婚約者を、ルシェルド様に取られた事を未だ、根に持っていますし…ね。」
「…うあ~~最悪~~。」
つい、口に出たらしいティルザの声に、リシェアオーガは軽い微笑を浮かべ、
「ティル、人のことを言えるのか?」
と、反論を返した。
しまったと口を塞いでいたティルザは、その言葉に一応、返事を返す。
「私の場合は、主の命を奪われたからです。
根本的に理由が違います。あれと、一緒にしないで下さい。」
「…おいおい、お前があれ呼ばわりだなんて…相当な馬鹿なんだな。お前と、どっこいどっこいだと思っていたが、今聞いた理由で納得したぞ。
お前…根っからの騎士だったんだな…あの時は、そう見えなかったがな。」
痛い所をドルムドに突かれ、ティルザは苦笑した。それを確認した団長は、彼へ笑い掛け、そして、部下達に指示を出した。
「これより、ルシェルド様とその聖騎士様、そして、向こうの神々の御方々と風の騎士様、龍の騎士様達と共に出陣する。
野郎共、敵を存分に蹴散らすぞ!!」
青き猛獣らしい言葉に、部下達は応じ、応戦の声を上げる。
こうして、サリーニアの街を護る戦いの火蓋は、切って落とされた。




