Saturday Night Cup Ra-Men
本当は、駅前の映画館まで出かけて、新作の映画を観るはずだったのに。
ベランダを越えて窓に打ちつける雨がカーテンの隙間から見えて、私はあーあ、と今日何回目になるかわからないため息をついてみる。
それでもなお、無性に気が立ってしまって、私は隣に座る愛花を睨んだ。彼女はえー睨まないでよ、なんて、可愛い声をあげて、それが余計に私をイラつかせる。だって、こんなに私がむしゃくしゃしてしまっているのは、彼女にも責任が十二分にあるのだ。
「……ホラー映画なんて観なきゃよかった」
「ごめんて」
「やだ」
なんて、拗ねてみても仕方がないから、私はすっと立ち上がる。
「……もう、晩ご飯食べよ」
すると愛花は、珍しくとことこと私の後をついてきた。それをいちいち気にしても仕方ないので、私は無視をしてキッチンに入る。
「そういえばさ、冷蔵庫なんか入ってたっけ?」
「なんにも、だと思う」
「マジか……、カップ麺でいいよね」
「えー穂波の料理食べたい」
「……いいよね?」
「ハイ」
彼女はよく分からないことを言いかけていたけれど、私がさっきの続きのひと睨みをきかせれば、すぐに黙った。
「だってしょうがないじゃん、買い物も行けなかったんだから」
蛇口を捻って電気ケトルに水を入れる音に紛れて、私は呟く。
「……行きたかったな、買い物」
「なにー?」
「なんでもない」
棚を探っていた彼女がこちらを振り返るから、私はそう返した。——買い物も、映画も、行きたかった。そんなこと言ってもどうしようもないのは分かりきっているから、口には出さないけれど。
「穂波は何にする?」
「味噌がいい」
「おっけー」
彼女は手際良くフィルムを剥いて、蓋をきっちり半分まで開けると、準備万端、という風に私に差し出した。
箸を重し代わりにして、勝手に開こうとする蓋を押さえながら、テーブルへと慎重にカップ麺を運ぶと、二人してソファーにもたれかかる。愛花を見れば、そわそわしながらじっと蓋から漏れ出る湯気を見つめていたが、すぐに蓋を開けようとし始めた。
「もうできたかな~?」
「……まだ二分も経ってないよ」
スマートフォンで時間を計っていたから、私はそれを示したけれど、愛花はもう蓋をはがしてしまったあとだった。
「あー、でも大丈夫、私硬いの好きだし」
そんな風に笑いながらずるずると麺を啜って、硬すぎ、なんて言う彼女を横に、私は窓の方に目を向ける。レースカーテンから透ける群青色の街には、まだ雨が降っているらしく、ザアザアとベランダのタイルを叩く音が、かすかに聞こえた。
「……雨、止まなかったね」
「そうだね」
「ごめんね、ホラー映画苦手なのに」
愛花はまだそんなことを気にしているらしかった。確かに、ホラー映画を観るのは怖かった。今日行く予定だった映画の方が楽しかったのかもしれない。でも——。
「……次は、私が選ぶからね」
彼女と観た映画は、家でも、……苦手なホラーでも、そんなに悪くない時間だったとは思う。




