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その友情を打ち砕け

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/07/18



 とある、二人の貴族がいた。

 どちらも伯爵位を持ち、どちらも男。

 領地が隣り合っている事から、二人は互いを好敵手のように見て互いに切磋琢磨しあい、そうしていつしか熱い友情が芽生えていた。


 二人が友となる以前までは、家の関係は単純に領地が隣でたまに関わる関係という、縁と呼べる程のものもないような薄い関係であった。


 だからこそ男たちは考えた。


 この友情はこの先もずっと続くだろう。

 だが、自分たちが死んだ後も続くかと言われると疑問である。

 折角良好な関係になったのだから、このままこの関係を続けていきたい。


 そうだ、もしお互いの子が男女であったなら、その子らを結婚させて両家を着実に結び付けよう。

 そうすれば簡単に両家の縁が途切れる事はない。

 もし子がお互い同じ性別であるならば孫を。


 彼らはそれを名案であると信じて疑う事はなかった。


 そうしてそれぞれ結婚し、子が生まれた。


 メロルーダ家には男児が。

 フレブワル家には女児が。


 二人の伯爵は浮足立った。

 将来この子らが成長したら結婚させよう!

 幸いにしてフレブワル家に生まれた女児は双子で片方を嫁に出してもう片方に家を継がせればいい。

 跡継ぎに関しても悩むことなくそう決めて、二人の伯爵は我が子らの成長を見守っていたのだ。



 ――と、まぁ。

 ここまでであればちょっと気の早い父親の浮かれポンチなエピソードであるのだが。


 この二人の伯爵は互いにそういう風に話を纏めはしたものの、その話を周囲にしていたか、となると特にしていなかった。気が早すぎると言われるだろうなとうっすら思っていたのかもしれないし、浮かれすぎて言ったつもりになっていただけかもしれない。

 ともあれ、お互いがお互いにわかっていますよ、という感じだったのだ。

 これがどちらか片方の伯爵が何それ知らん……となるような展開であればまだしも、両家の当主同士での話は済んでいるので特に問題はないと思っていたのだ。


 ところが遅れてそれに気付いた両家の夫人は眉を顰めた。


 赤ん坊の頃から既に婚約を結ぼうなんてするのは早計が過ぎるし、大体最近の王家だってそこまではしない。むしろそうしないといけないような事態ならまだしも、そうじゃないうちから人生決め打つとロクな結果にならなかったのが過去何度かあったようなので、婚約を結ぶ年齢は最低でも十歳を過ぎてからだ。

 最低限、なんとなく異性を異性として認識できるくらいの年齢になってから……という事になったのだ。


 あまりにも早く婚約を結び幼い頃からずっと一緒にいさせたら、恋が芽生えるどころか弟か妹、姉か兄を見るような――つまりは家族愛が芽生えてもそれは伴侶に向けられるものではない、なんてオチになった家もあったので。兄弟や姉妹にしか思えない相手と結婚しろとなって、血は繋がっていなくとも精神的に近親婚みたいに思った相手が忌避感を抱き、そこから今までは良好だった関係に亀裂が生じ……という誰も幸せになれそうにない出来事が困った事に過去存在したのである。



 幼馴染として育って、淡い恋心の一つでも互いに抱いてくれたなら、なんて父親たちは期待していたようだが、しかしフレブワル夫人はとても冷静に突っ込みを入れた。


「そうはいってもうちは双子ですのよ? 淡い恋心を抱いた結果三角関係に発展したらどうなさるおつもり?

 両家の縁を繋ぐどころか、結婚後に生家とも疎遠になりかねませんよ」

 言いつつ夫人は市井で流行っている物語のいくつかを夫へ渡した。

 そこには恋愛ラブコメと言っても過言ではない内容の胸キュンストーリーも存在していたが、その中の三角関係で最後までどっちとくっつくかわからない物語を見せてその二人のヒロインをうちの娘で想像してごらんなさいな、と夫人が告げた事で。


 もし二人の娘が二人ともあちらの家の息子を好きになったなら。

 最終的に片方は失恋し、そうして好きでもない男を婿に取らねばならない。選ばれたのが他の家の令嬢ならまだしも、自分の片割れだ。気まずいし今までのように仲良く……とは心情的にもそう簡単にはいかないだろう。


 失恋した方の娘の未来を想像して、伯爵はすぐに婚約を決めるのはよくないし、せめてもう少し大きくなってから交流させよう! と手のひらを返した。


 メロルーダ家の夫人も夫の熱意にそこまで寄り添えなかったので、こちらももう少し大きくなってからでいいじゃない、という冷めた態度であった。


 というのもメロルーダ夫人、彼女には異性の幼馴染がいたものの、物心つく以前からの付き合いだったせいで異性であるという認識をしても恋が芽生える事がなかったのだ。

 泥だらけになって庭を駆けまわる幼馴染は、池にいたカエルを捕まえて――やめよう、思い出しただけで恋以前の話である。


 せめて異性をちょっと意識するようになって、多少なりともめかしこむとか、自分を良く見せようとするようになるくらいの――お澄ましできるくらいにはなっていないと恋も何もというのが両家の夫人の認識だった。



 というわけで両家の付き合いは基本的に伯爵同士、夫人同士で時々といった感じだったが、メロルーダ家のカルメとフレブワル家のフラン、そしてリエルの年齢が十二歳を迎えたのでそろそろいいんじゃないか!? と二人の伯爵はそわそわしながら顔を合わせる機会を作ったのである。



 カルメは一応事前に話を聞いてはいた。

 フレブワル家の令嬢のどちらかが将来自分の嫁になるかもしれないという事を。


 父から見せられた姿絵を見て、この二人のうちのどちらかが……! とちょっとだけ期待もしていた。


 フランやリエルが直接メロルーダ家に来た事はないが、それでもフレブワル家の伯爵や夫人が時折家にやって来ては父や母と楽しそうに語らったりしているのをカルメは離れたところからチラッと見る事はあった。フレブワル伯爵は二人の娘について自慢げに言っていた事もあったし、夫人に似て娘はとても可愛いとも。そしてカルメの目から見たフレブワル夫人は自分の母にも負けないくらい美しく、だからこそカルメは内心でそんな娘のどちらかが自分と結婚するのだと言われて、とてもとても浮かれていた。


 だからつい、二人と出会った時に浮かれて調子に乗って、


「どっちも大して変わんねぇし」


 なんて言ってしまったのだ。


 二人は夫人の若かりし頃と言われてしまえば納得するような美少女だった。

 カルメにとって周囲の女性は自分の母や使用人くらいで、いずれもカルメよりも年上の――言ってしまえばおばさんと呼べる年齢の者たちばかり。お姉さんというには年が離れすぎていた。

 自分の母親はおばさんだとは思わないが、それでもそれ以外の女性はおばさんという認識だった。


 だからこそ、年の近い――というか同い年だ――少女と出会った事で浮かれたのはどうしたって否定できない。

 そのどちらかといずれ結婚するのだと思うと、どちらを選べばいいのか悩んでしまった。

 だってどっちも可愛かったから。


 双子と聞いていたが、全く同じというわけではなく。異なる魅力があったのである。

 どっちかなんて選べない。両方じゃダメなのかな……とカルメは今日のおやつを選ぶ感覚で贅沢な事を考えてしまった。お菓子ならともかく相手が人間である以上そうはならないのに。


 挨拶をした時の二人の声もまた可愛くて、ますますカルメはのぼせ上がってしまったのだ。


 このうちのどっちかが将来の嫁。

 でもどっちを選べばいいのやら……と浮かれきってすっかり天に上り切った状態で。


 カルメはそれでも自分が照れているだなんて思われたくなくて虚勢を張ってしまった。


 その結果が――


「結婚相手を選ぶったって、双子だろ? じゃあ選ぶったってなぁ……」


 からの、


「どっちも大して変わんねぇし」


 である。


 ピシッと空気が凍り付いたような気がしたのを感じたのは、果たして誰だっただろうか。



 フランとリエルは双子であるが、お揃いに関してはとっくのとうに卒業した。

 外見が全く同じように見えたってフランはフランだしリエルはリエルである。

 だからこそ、互いに区別がつくように、周囲から同じに見られないようにとお互いがお互いにそれぞれ着る服だって違ったし、それは服だけではなく髪型やそれ以外の細かな部分にも違いが表れている。

 最初に双子だと言われなければ系統の違う姉妹かな? と何も知らない者ならば思った事だろう。


 幼い頃はお揃いの服に髪型、持ち物だって一緒に、と満足していたが、しかし二人はそのうち周囲が見分けがつけられず間違われる事に最初は怒ったし、ちゃんと見分けてよね! なんて言ったりもしていたけれど、段々訂正するのも面倒になり、そうこうしているうちに成長と共にお互いの好みに若干の違いが生じてきた事からお揃いは卒業したのだった。


 勿論今でも同じ部分はあるけれど、それでも二人はもう周囲から見間違えられるような事はなくなっていたのだ。だがそこにきて、カルメの「どっちも大して変わんねぇし」発言である。

 カルメにとっては大したものではないと思った発言は、しかし双子の地雷を見事に踏み抜いたのだ。


「ねぇお母様、どっちでもいいというのなら別に私たちじゃなくて他の家の令嬢でも問題ないのではありませんか?」


 最初に口火を切ったのはフランである。


「そうよね、どっちでもいいって裏を返せば選ばなくても構わないって意味にもなりますし」


 それに追従するように言ったのはリエルだ。


 浮ついていたカルメはここで思っていたより冷ややかな態度の二人に、何かを間違えた、と思ったものの、しかし口を挟む隙は生まれなかった。


「そもそもの話、我が家とメロルーダ家が結びつかなければならないような理由って特にありませんでしょう? 領地内での事業の提携とかそういった事もなければ領内の産業からなる職人同士の技術交流とかもありませんし」

「そうですわ、でしたらわざわざここで政略的になんの旨味もない家と結びつく意味がわかりません」


「確かに政略的な意味は何もないわね」


 そしてフレブワル夫人はあっさりと双子の言葉に頷いた。

 この婚約の話を持ちだしたのはあくまでも両家の伯爵であり、その理由も個人の夢見がちな代物であるからして、夫人的にはこの婚約を正式に成り立たせる意味はないと思っている。

 それならもっと他の――利になる相手との婚約を選んだ方が余程いいのは言うまでもない事。

 夫人とてそうやって嫁いできたのだ。

 貴族の女として生まれたからにはそういう心構えが必要になってくる。

 だがしかし、そんな心構えを娘に教え育ててきても実際の嫁ぎ先がロクに意味も持たない家となれば話は思い切り変わってくる。


 夫人は双子が生まれた時、浮かれ切った父が勝手に早々(はやばや)婚約を結ぼうとしていたのをやんわりと止めはしたが、内心ではやんわりどころかガッチガチに硬い心で止めていたのである。

 夫の事は嫌いじゃないけれど、娘の婚約に関してどうしようもない理由でやらかすのであれば心の天秤は嫌い側に偏るかもしれない。


 これが第一印象からお互いに良い感じであれば口を挟むつもりはなかった。

 だが初対面での印象は決して良いとは言えないもの。


 フレブワル夫人はカルメがちょっとした照れ隠しで言ってしまった言葉である、とわかってはいた。

 わかるわうちの娘はどっちも可愛いものね、と思いながらもだがしかし初対面の印象はよろしくない。

 どっちも可愛すぎて選べない、という意味であるとは人生経験の差から夫人には把握できたが、しかし双子はそうではない。

 どっちも同じだろ、と一緒くたにされた時点でフランとリエル、二人のカルメへの印象は最悪である。

 故に暗にこいつと結婚したくない、と匂わせているのだ。


 そしてそれは、カルメの母でもあるメロルーダ夫人も同様だった。


 婚約者になるかもしれない、程度の話であっても浮かれ切っていた我が息子に微笑ましさを感じていたのは昨夜までの話。ちゃんと失礼のないようにご挨拶なさい、と事前に言っておいたにもかかわらずコレ。

 ちょっとカッコつけたかったんだろうなぁ、と母親ながらに理解はしていても、だから相手に許してね、と言うつもりは夫人にはなかった。


 なのでこの空気に焦った様子を見せたのは言うまでもなくメロルーダ伯爵とフレブワル伯爵、つまりは父親サイドである。


「い、いやでも、昔からそう言う風に話していたわけだし」


「昔から? 何故です。政略的な意味があったとしても当時と今とでは状況が異なった、というのなら婚約の話をなくす家などどこにでもあります」


「いやその、両家の友情をより結びつけるために……」


「そうしなければ結び続けられない友情に意味なんてありますの?

 互いの家が結びつかなければ家が立ち行かないという程落ちぶれてるわけでもあるまいし」

「むしろそうしないと続かない友情なんてさっさと切り捨てた方が余程有益では?」


「大体自分と相手の努力だけで続けられない友情なんてその程度でしょう」

「どうして私たちがその犠牲にならなければなりませんの? 家の存続のため、とかもっと重大な理由があるなら私たちとて貴族の娘として生まれた以上、そういうものと受け入れますけれど」

「でもどちらの家も落ち目というわけではないのよね」

「そうよね、うちもメロルーダ家も貴族全般から見て突出しているわけではなくても、落ち目だとか没落秒読み寸前だとか、そんな噂もありませんもの」


「それならちゃんと互いの家の利になるところと縁を結んだ方がよろしいのでは?」

「そうよね、少なくとも私たちからすると、そちらのメロルーダ子息と結婚する意味は無いように見受けられますもの」


「そんなに友情を大事にしたいのなら、お互いにきちんと向き合えばよろしいじゃありませんの」

「そうよね、人を使ってまで維持しないといけない程度の友情なのだから、まだ改良の余地が互いにあるという事でしょう」

「どうしてもそちらのご子息と結婚させたいのなら、お父様が離縁してそちらの子息に嫁がれては?」

「まぁ駄目よリエル、そんな事を言っては。もし本当にそれを実行したら社交界で両家の噂が広まりに広まって逆に家が落ちぶれてしまうかもしれないわ」

「あら、それもそうね。でも困ったわ」

「どうしたの?」

「もし仮に私たちのどちらかがそちらのご子息と結婚したとして。

 社交界で今回の話を懐かしい思い出のように語ってしまうかもしれないわ」

「まぁ、そんな事を言ったら色々無い事無い事噂が広まっちゃうじゃない。でも私も同じ立場なら話しちゃうかもしれないわ。父親が友情を維持するための結婚ですの、なんて」

「家を維持するためどころではなく、友情の維持。社交界ではきっとこう言われるでしょうね。

 あの家では友人関係を続けるために相応の代金を支払わなければ友人づきあいもままならない、なんて」

「そんな風に話が広まれば、今後どの家と関係を結ぼうにも、まずは友情代を支払えとか言われそうですね」

「相当足元見られますわよねぇ」

「えぇ、上の立場だと思った家なんかきっと思い切り吹っ掛けますわよ」

「お金払わないと友達も作れない惨めな人、って言われるのよきっと」

「惨めねぇ……お友達ってお金をかけなくたって作れるはずなのに」

「そうよね、出費を全くしないわけじゃないけれど、でもそれってお茶会とか観劇とか、そういう体験に関するものであって」

「それってもう使用人と同じようにお金を払って雇った友人役、とみなされるのかしら」


 別に両家の伯爵は友情のために互いにお友達代なんてものを支払った事は一度だってない。

 ないけれど、しかし双子のぽんぽんと繰り出される言葉は完全にそう決定づけられてしまっている。


 違うぞ、と言おうとしたが、それよりもやはり娘の方が口を開くのが早かった。


「お父様たちって、友情関係をマトモに築けないのですか?」

「もしかして他にお友達、いないのですか?」


 わぁ可哀そう。


 そんな言葉さえ聞こえてきそうになって、二人の伯爵の心はズタボロだった。


 もしかして私たちよりお友達が少ないのかも、なんて小声でそっと互いに話しているのだ。

 これがあからさまに馬鹿にするようにだとか、嘲るようなものであれば大人を馬鹿にするんじゃないと叱っただろう。

 だがフランとリエルはその年になってもお友達、マトモに作れなかったんですか? と心底から心配している目を向けているのだ。


 別に、他に友人がいないわけではない。

 いる。娘に心配されずとも沢山いる。

 ただその中で一等仲が良いのが互いの伯爵なだけで。


「他にもお友達がいるのなら、同じように互いの家の子を結婚させないといけなくなりますわね……一人は婿を取れるけど、それ以外の家となると……子供の数が足りませんわね。

 お母様、まだ弟か妹が生まれる予定が?」

「いいえ、その予定はありませんよ」


 フレブワル夫人が答えると、双子は恐る恐るといった風に今度はメロルーダ夫人を見た。

 メロルーダ家にはカルメしか子がいないが、スペアとしてもう一人か二人作っておきたい気持ちはあるものの……夫人も流石に年齢と体力的な意味で厳しいのでこちらも笑顔で首を横に振った。


「友情を維持するための子どもの数、少なすぎでは」

「やはりお友達が他にいないから……いえ、もしかしたらお父様方の方に原因があるのかも……」


 ひそひそ、こそこそ。


 一応周囲へ配慮するかのように双子は小声で話しているが、しかし近くに関係者がいるために丸聞こえだ。


「もしかしてこの婚約には裏があるのではなくて?」

「まぁどのような?」

「そうね、わからないけど……たとえば……」



 うんうん考え込みながらフランが一体どこのミステリだと言いたくなるような話を語りだす。

 愛憎渦巻くストーリーは十二歳の娘が語るにはいささか過激ではあるものの、思わず引き込まれる内容だった。

 ただし、その話の中では両伯爵が互いの友情が愛情に変えられており、お互いが男性同士と言う事もあって結ばれないため仕方なく妻と結婚した事になっているし、生まれた子を自分の分身のように見なして、そうして子世代で本懐を遂げよう、というような内容になっていた。


「まぁ、そうしたらいずれお母様は殺されて……!?」

「可能性はゼロではないわ。そう、メロルーダ夫人もまた男たちの友情に振り回された哀れな被害者なのよ、きっと」



「まてまてまて、そんな事はない。私は妻を愛している」

「私もだ。思い込みや憶測で物を言うのはやめなさい」


 双子の勢いに飲まれたせいで口を挟む隙がなかったが、このままでは互いの妻は男たちの友情のために仕方なく結婚し子を産むだけの役目を与えただけの道具扱いである。

 それがさも本当の事のように思われたら、今後の夫婦生活に支障をきたすかもしれないし、社交界でそんな噂が流れてみろ。とんでもない事だ。

 実際両夫人は双子の語りを興味深く聞いていた。思い付きでよくもまぁここまで……といっそ感心していたほどだ。しかしその様子は、伯爵からすると夫人が納得しているかのようで危機感が増すばかりである。


「では、そちらの友情はそちらだけで築き上げていって下さいますか?」

「私たちには関係ありませんもの。関係があるというのなら、先程の話が現実味を帯びてしまうわ」


「わかった。わかったから」

「この話は無しだ」


「えっ」


 両家の父親は肩のあたりまで手を上げて、降参だとばかりに宣言した。


 それに対して、でしたら今後もお好きなだけ友情を確かめ合って下さいませ、なんて満足そうに言う双子であったが、そこに声をあげたのはカルメである。


 二人のうちのどちらかが自分の将来のお嫁さんになるはずだったのに、その話がなくなってしまった。


 あれ、それじゃあ僕の将来の婚約者は一体……とばかりに母親を見れば、母はなんとも言えない慈愛の笑みを浮かべてそっと首を振ったし、父を見れば父は父でフレブワル伯爵と何やら語り合っている。


 当事者のはずだったカルメは、気付けばすっかり舞台の外、観客の位置に立たされていた。



 婚約の話もなくなったわけだし、じゃあ私たちは帰りますねとばかりに双子が母親と共に帰っていって。

 その頃にはフレブワル伯爵もメロルーダ伯爵も、そうだよなぁ、確かに家を結び付けるのが手っ取り早いとはいえ、それだけしか方法がないわけじゃなかったもんなぁ……と今更のように悟った様子を見せ、視野が狭くなってたんだなぁとばかりだ。

 若かりし頃の思い付きが素晴らしい名案に思えてしまってそのまま突き進んできてしまったが、唯一それしか方法がないわけでもなかったのは確かな事で。


 これからもよろしくな、と互いに熱く固く握手を交わし、彼らの友情は今日またより一層強まったのであった。




 その後の事は特に何という事もない。

 フレブワル伯爵の父――双子にとっては祖父からそろそろ婚約者を決める頃合いだと思って、といくつかの釣書が届けられ、双子はそれらを母とじっくり吟味していた。

 最終的にフランとリエル、両方の婚約者が決まり、両者互いに相手との関係は良好である。


 一方のカルメはというと、母親から「貴方『で』いい」と「貴方『が』いい」とでは天と地ほどの差があるのですよ、と言葉選びの重要性を説き伏せられ、あの時照れ隠しで言ってしまった言葉が駄目だったことを理解したために、それ以降重要な場面での失言をする事はなくなった。

 そうしてその後、他家から婚約の話を持ち掛けられ、今度は初手から相手の地雷を踏む事もなく、カルメも婚約者となった令嬢と良い関係を築いていた。



 カルメの父と双子の父との友情は相変わらず続いていたし、互いに適切な距離感で接するようになったカルメとフラン、そしてリエルがバチバチにやり合う事もなかったため。

 常々スキャンダルで溢れているような社交界で噂になるような事でもなかったのであった……

 次回短編予告

 婚約者が決まった。お互いにお守りであるかのように、契約の証を身につける。

 もし契約を破るような事があればその時は……


 次回 今なら若気の至りで誤魔化せます、多分

 余計な事に首を突っ込むとロクなものじゃない。

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