回想3 勇者召喚、異界、マナティア(後編)
ユウマの世界に関する考察も興味深かった。
チキュウには、ニホン以外にも多くの国があるらしい。この世界にも、小国まで含めればそれなりの数はあるとは思うが、主要国は魔王国、ヒト族のヴァレンティア王国に、せいぜいエルフ大森林とドワーフ王国を加えた程度だろう。
チキュウでは、各国が得意なものを作って融通し合う貿易などをして協力することもあれば、戦争も多く発生しているという。
基本的には、自国、厳密に言うと自国の為政者の利益を優先することを考えて貿易も戦争も行うということで、この世界とも社会を動かす原理は変わらないようだ。
個人においては、他者を思いやって行動する者も、自分の欲望に忠実な者も、さまざまな者はいて、それも変わらない。だが、集団になると、自集団の正義や都合を優先する傾向が強まるというのがユウマの分析だ。
「ヒト族は自分たちの都合だけで僕を召喚したんだよね。僕の希望なんてお構いなしだ」
「ユウマは召喚されたくなかった?」
「知らない人たちや国のために魔王を倒してこいって言われてもね。最初は嫌だったよ。でも君やビーに会えたから、結果的にはよかったよ。むしろ今は感謝している」
私は今までこのことに疑問を持ったこともなかったが、魔族も欲望のまま、ヒト族を蹂躙している。それは完全に魔族の都合だ。だが、魔族にとってそれは揺るがない正義なのだ。
そしてその魔族の、魔王国が勇者に対抗し、ひいてはヒト族を含めた世界を支配するために、その身勝手な都合のために、魔王を「異界送り」で召喚している。魔界がニホンみたいに素敵な場所だとは聞いたことがないので、おそらく魔王は望んでやってきているのだろう。一説によると、魔界で最も強い者に「異界送り」の栄誉が与えられるとも言われている。
いずれにせよ、どちらかが勇者、または魔王の召喚に失敗すれば、世界の均衡が崩れ、ヒト族か魔族かが世界を支配することになるだろう。
魔王討伐をユウマがやめた今後、魔族が攻勢をかけてくることは想像に難くない。
そのことについて、ユウマは可能な限りヒト族を守るようにするとだけ言った。
チキュウとこの世界の生物の最大の違いは魔力の有無だという。
チキュウではヒトも他の生物も魔力がなく、その代わりにカガク技術というものは発達し、生活も戦争も高度化されていっているという。
ヒトよりもはるかに知能が高く、丈夫な身体を持ったゴーレムのような「ロボット」という存在まで開発されたというのには驚いた。
この世界では人々が魔力に頼りすぎて、カガク技術の革新は起きにくいだろうね、とユウマは言った。
カガクというのは、世界の仕組みを解明しようとするものらしい。この世界でもマナ研究や魔法研究に近いものだということだ。
ユウマは世界の書物も読んだようで、特に世界樹と虚無樹について、いろいろと考えたことがあると言った。いつかエルフの大賢者と話をしてみたいとも。しかし、このあたりから私には少し理解が難しくなってきた。
ユウマは、ユウマのいた異界のリョウシリキガクという原理を応用すると、世界樹の役割を説明できるかもしれないと話した。
世界の物質はすべてリョウシというすごく小さなものでできているらしいのだが、その小さなものは観測されないと、存在が確定されない、何物にもならないというのだ。
ユウマが言うには、世界樹はこの世界の観測者のような役割を果たしており、世界樹が生き物を含めたあらゆる存在を見守ることで、この世界に存在するものが安定するのではないかと思う、ということだった。
ただ、もし世界樹の観測が過剰になってしまうと、世界が硬直し、時間が止まったような世界になってしまう。
そのため、虚無樹は、世界樹の観測を邪魔し、ときに存在の破壊による観測の無効化をすることで、世界が硬直せずに、世界樹による再観測と再構成が行われ、世界は動いているのだという。
正直に言うと、何の話なのかさっぱりわからなかったけれど、ユウマが言うなら、きっとそうなのだろうと思った。
「私はあなたを見ている。あなたの声も聞いている。これが観測するってことでしょう?」
「そうだね。君のおかげで僕は今存在できているんだ」
「あなたの存在を確かめてあげる」
そう言って私はユウマを抱きしめ、口づけをした。
もし世界樹も虚無樹も無くなったとしても、私とユウマがお互いを見て、お互いの声を聞いて、抱き合って口づけをすることで、ユウマが存在し、私も存在することができる。
私のこのリョウシリキガクは、とても素敵な考えだと思った。




