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さよならは双樹の下でーー勇者と魔族の禁忌の愛  作者: Vou


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第二話 呼び止める男(後編)

「おまえはニホンから来たのだな?」


「え? は、はい」


 私の質問に虚を衝かれたのだろう、男の返事の声が上ずった。この世界の魔族がなぜニホンのことを知っているのかと考えているはずだ。


「名を聞こう」


「……トウマです。トウマ・カトウ」


 トウマ。やはりそうだ。ユウマの名とも近い響きがある。ああ、本当にこの男もユウマと同じ異界の国のニホンからやってきたのだ。


「トウマ、おまえの命を奪うつもりはないが、少し話を聞かせてもらえるか?」


 同じニホンから召喚された勇者であれば、何か情報を得られる可能性があるだろう。


「はい……」


 トウマはまだ怯えた目で私を見ていた。それならそれでいい。その怯えを利用させてもらおう。


「私の質問に正直に答えるんだ。もし嘘をついたことがわかったら、私の気が変わって何をするかわからんぞ」


「は、はいぃ……」


 怯えが強くなるのがわかった。これなら問題ないだろう。


「おまえは召喚されてこの世界にやってきたんだな?」


「そうです。学校で授業中にちょっと居眠りしていたんですけれど、突然体が浮き上がって、周りが真っ白になって、気がついたら魔法陣みたいなところの上にいたんです。ヒト族の魔術師みたいな人がいて、王様もいて、『勇者召喚成功だ』っていうんです。長いこと勇者召喚がうまくいっていなかったみたいで、皆嬉しそうでした。俺はラノベ好きで、『勇者やったー!』って思って、いろいろ贅沢もさせてもらって女の子とかにもモテて、なんかもうずっとそうしてようかなって思っていたんですけど、なんかちょっと飽きてきちゃって、食べ物もそこまで好みのものもなくて、ゲームとかスマホもないし、だんだんニホンに帰りたくなっちゃったんです。それで王様とか宮廷魔術師の人とかに、『ニホンに帰りたい』って言ったら、魔王を討伐したら帰れるようになるって言うんで、いよいよ魔王討伐に行くってことになったんです。まあ、せっかく勇者ですし、魔王討伐っていうのもなんかやっぱり格好いいな、と思って、いざ行こうと思ったら、聖剣が前の勇者が持ち出してから戻ってきていないって言うんで、このミスリルの剣をもらったんです。それでとりあえず魔王討伐に向けて旅に出て、ミスリル剣でも普通の魔獣ならあまり問題なかったんですけれど、ちょっと敵が強くなるとなかなか倒せなくて。そんなときに、前の勇者みたいなのがウィルクレストっていう村にいるって聞いて、聖剣を取り戻さなきゃと思ってここに来たんです」


 嘘はつくなとは言ったが、聞いていないことまでよく喋る。必要なことしか喋らないユウマとはかなり性格が異なるようだ。

 ところどころ何を言っているのかわからないが、ユウマに昔聞いた召喚と魔王討伐の経緯と大筋では変わらないようだ。

 だが、いくつか聞きたい点があるな。


「魔王討伐したらニホンに帰れるということだが、具体的にニホンにはどうやったら帰れるんだ?」


 ニホンに帰る手段があるというのは、ユウマから聞いたことがなかった。


「えーっと、『世界樹が道を示し、虚無樹が異界への門を開く』って言ってました。詳細は魔王討伐が終わってから教えてもらえることにはなっているんですが、何でも世界樹の根元に住むエルフの大賢者に会う必要があるみたいで、この言葉もエルフの大賢者のことみたいです。勇者召喚でも、必要な道具の一つが世界樹の根の灰を使っているそうなんで、帰るにもやっぱり世界樹の力が必要なんだと思います。虚無樹のほうはよくわからないですけれど」


 世界樹の灰…ユウマの蝋燭の芯に染み込せた灰と同じものだろうか。

 トウマを魔王討伐に向かわせるために騙されているということはないだろうか?

 ユウマも同じことを聞いていたとしたら? 今、彼はニホンに、彼の本当の故郷に戻りたいと考えているのだろうか?


「他にもいくつか聞きたいことがある。王は前の勇者が生きていると思っているのか? 勇者は魔王のもとには到達できず、魔族に討たれたと私は聞いているが。確か相討ちだったとか」


「はい、公式には魔将級の魔族との戦闘で死んでいることになっていますね。それで聖剣は回収できなくて、必要であれば自分で探せって言われました」


 ブリットモアの町で流した勇者の死の話はまだ生きているか。


「ではどこでウィルクレスト村の話を聞いたんだ?」


「魔王討伐に出る前に、王都に往来している商人に聞きました。ウィルクレストって村はぜんぜん魔族に屈しない妙な村なんだってことで、よくよく村の人に聞くと、何でもすごく強い村兵がいるって。あまりに人間離れした強さらしいから、もしかしたら勇者なんじゃないかってことで。もう一つの秘密が双樹教の教会らしくって、万が一、魔族が攻撃しても、その教会だけは狙われないらしいんですよ。どうも虚無樹の加護の結界で外敵の攻撃を無力化するとかで、魔族もそこをヒト族を攻撃するための拠点にするために巣食っているって聞きました。その中に魔将級の魔族もいて、どうも勇者は魔将と相討ちになったのではなくて、その魔将が勇者を脅して村と双樹教会を守らせているって話だったんです。その魔将がたぶんあなたなんだろうと思ったんです……あれ? でも魔族が村を拠点にしているのなら、魔族に操られている元勇者が魔族を撃退する必要なんてないですよね?」


 そうだ。その話は作り話なんだ。矛盾にも気づかず、のこのこと私を殺しに来たのだな。


「双樹教については何を知っている?」


「双樹教って世界樹だけでなく魔族側の虚無樹も崇拝する邪教なのに、王国も認めているんですよね。それもエルフの大賢者の庇護があるから認めざるを得ないみたいでして。大賢者ってそんな偉いんですかね。

 ウィルクレストの村民は皆、双樹教徒らしいんですけれど、変な考えの人が多いんでしょうね」


 そう言ったそばから急にまたトウマは怯えた表情に変わった。

 ウィルクレスト村や双樹教会のことを悪く言われて私の気分が悪くなったことに気づいたか。


「あ、いや、すみません。俺がそう思っているわけではなくて、そう言われているってことです。申し訳ありません」


「嘘をついたな。気に食わん。やはり殺すか」

 

「本当にすみません。俺は関係ないんです。人に聞いただけの話なんです」


 殺意は多少覚えたが、本当に殺すつもりはない。


「ふん、おまえのような小者の命になど興味はない。さっさと去れ」


「はいぃ……」


 トウマは私に背を向けて村の方に引き返そうとしたが、何を思ったかまたこちらに向き直った。


「あの……」


「何だ? まだ何か悪意のある言葉を吐くつもりか?」


「いえ、違います。聞きたいことがあるんですが、いいでしょうか?」


「何だ?」


 もうこの男のことはどうでもいいのだが……


「どうしたら魔王を倒せるでしょうか?」


「おまえには無理だ。たとえ聖剣を手に入れたとしてもな。諦めろ」


「そんな……じゃあ、どうやったらニホンに帰れるんですか?」


「私がそんなことを知るわけがないだろう? 魔王を倒すのならせめて鍛錬でもするんだな。二十年怠らずに鍛錬をすれば、魔王城まではたどり着ける力は得られるのではないか? おまえはヒト族の誇る勇者なのだろう?」


「そんな……二十年も鍛錬なんて無理ですよ……助けてください」


「おまえはどこまで愚かなのだ。なぜ魔族の私に魔王討伐の方法など聞くのだ? たとえ知っていようが教えるわけがなかろう? ウィルクレスト村の民を侮辱する前に、自分が彼らにも到底及ばない知能しか持っていないことを自覚しろ!」


 トウマはまた泣き崩れた。


 今この男に構っている余裕は私にはない。

 男の自分勝手な問いの相手をしてしまい、貴重な時間を無為にしてしまったことを激しく後悔した。

 旅は始まったばかりなのだ。先を急がなければならない。


「ビー、行こう。すまないが、乗せてくれるか?」


 巨大化したままのビーの背に乗る。

 老齢のビーの負担になるのは心苦しいが、それでも早く進みたい。ビーも早くユウマに会いたいはずだ。

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