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世界樹と虚無樹の交差するところ  作者: Vou


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最終話 双樹の下で(序)

 太陽の光も月の光も届かないその場所の空には、薄い赤や緑の光の帯が漂っていた。

 虚無樹のものと思われる暗黒の幹と、世界樹のものと見られる大樹の幹が交わった場所に、「核」が鎮座し、強い青白い光と暗黒とで明滅を繰り返していた。

 「核」に触れようとすると、少し手前で手を進めることができなくなった。勇者か魔王の接触以外を拒むのだろう。この世界(マナティア)の存在では破壊することもできないのだ。もちろん、勇者や魔王の代わりに世界樹の養分になることもできない。


 世界(マナティア)に同じような場所は他になく、まるで異界にやってきた気分だ。

 その異界は魔界でもニホンでもない。純粋な「異界」、この世界(マナティア)に存在するすべての者にとって、いや、異世界人を含めたすべての存在にとっても、ここは「異界」と呼べるような空間なのではないかと思われた。


 虚無樹と世界樹自身が結界を張る空間であるため、この世界(マナティア)の被造物が物理的に結界を破る術はなく、本来は、双樹に役割を与えられた勇者と魔王と大賢者のみが入ることを許される空間だ。


 絶対不可侵のその空間で、私はビーとともにあの人を待った。改めて、いち魔族にしては、ずいぶん数奇な人生を送ることになったな、と思った。



 一秒一秒が永遠にも感じられる時の中で、私たちは待ち続け、核の明滅の光の中に、ついにあの人の姿を見つけた。


 私は駆け出して、抱きしめたい気持ちと、怒鳴りつけたい気持ちとを抑えて、その場で待った。

 私はこの核の前から絶対に離れてはいけないのだ。


 やがてはっきりと相手の顔がわかるほどまで、その人は近づいてきた。


「マナが極端に強く放出され、その度に強く抑えられる現象が繰り返されているからね、不思議な光景が見られるんだね」


 間違いなくユウマだった。

 ひどくやつれて憔悴し、より老け込んでしまったように見えたが、ユウマその人に間違いなかった。


「アナ、僕を追いかけてきてくれたんだね。大賢者様が君たちを転移魔法で送ってくれたのか」


 想いが溢れて息が詰まり、言葉が出てこない。話をしないといけないことがたくさんあるのに。


「ビーは死んだんだな」


「生きているわよ! ちゃんと見てよ、ビーよ」


 やっと言葉が出た。よりによってビーのことを死んでもいるなんて言うから。


「その子はビーじゃない」エクリプス・メテオ(常闇隕石)を使っただろう」


「そうよ、あなたを追って、魔王に会って、私が殺されそうになったからビーが命をかけて助けてくれたのよ」


「そうか……僕のせいだな……」


「なぜ私たちを捨てようなんて思ったの?」


「『捨てた』なんて言わないでくれ。君たちのために、世界(マナティア)を維持するために仕方なかったんだ」


「その話は大賢者様からも聞いたわ。それが納得できないのよ。なぜあなたが犠牲になってまで世界(マナティア)を救わないといけないのよ」


 ユウマは大きなため息をついた。


「君たちがいなければ、正直、世界(マナティア)なんてどうなってもよかったんだ。だけど、君たちが僕に勇者としての自覚を呼び覚ましてくれた。君たちを守るために、勇者としてやるべきことをしなければならないと思ったんだ」


「それがこの核に吸収されて死ぬことなの?」


「簡単にそれを『死』だと言ってほしくない。僕は世界樹の一部となって、君たちを見守り続けるよ」


「そんなわけないじゃない! 世界樹に取り込まれたら、あなたの姿も魂も無くなって終わりよ!」


「僕は姿を消すかもしれない。でも、それでもきっと君たちを守り続けるよ」


「私はあなたが今のユウマの姿のままでいてほしいの。世界樹の一部になったら、もうそれはユウマじゃない」


 私は大賢者と話をしていたときからずっと気になっていた考えをぶつけた。


「あなたは最初からこうなることがわかっていて、蝋燭を使ってフタバを生み出したの?」


 ユウマは真っ直ぐ私を見つめて答えた。


「どのような形であれ、僕が君より先に世界(マナティア)から姿を消すだろうことはお互いわかっていただろう。それでも君が僕のことを思い出して、寂しい思いをしないように、どうしても子どもが欲しかった」


「魔族とヒト族の間には絶対に子どもはできないのよね?」


「もうそのことを知っていたのか」


「あの蝋燭は何なの? ビーも蝋燭のおかげで甦ったのよ」


「ああ、そうなのか……」


 ユウマはうつむいて考え込んだ。


「あの蝋燭の芯に、世界樹と虚無樹の灰が染み込ませてあるのは知っているね? そのおかげで蝋燭に火をつけると、双樹の加護を得られるんだ。世界樹は万物を生成する力を持ち、虚無樹はそれを破壊するーーいや、破壊というのは違うな。虚無樹の本質的な性質は時を生み出し、変化を与えることだ。つまり、今の状態を壊し、世界樹に次の創造を促すことで物に変化を生み出す。それは生物が生成される仕組みそのものだ」


「何が言いたいの?」


「あの蝋燭の効力は、火をつけた者が強く望む生物を生成することなんだ」


「自分の都合で生物を作り出すってこと? フタバは私たちの子どもではなくて、蝋燭が生成されたってこと? あの子は確かに私のお腹に宿って、私が産んだのよ?」


「僕が、僕たちの子どもを強く願ったから、蝋燭がそれを叶えて、君のお腹にあの子を宿したんだ」


「あの子の角が短いのもあなたが望んだからなの?」


「そうだ。魔族社会よりは、ヒト族社会で生きていってほしいと思った」


「このビーも、生き返ったのではなくて、私が強く望んで蝋燭に火をつけたから、新しく『生成』されたということ?」


「そうだ。その子は、僕たちの知っているあのビーとは違う生き物だ」


「そんなわけない! ビーは生き返ったのよ! フタバだって私とあなたの子なのよ! 何でそんなでたらめなことを言うのよ」


「申し訳ない」


「その上、あなたは私の大切なユウマまで奪おうと言うのね」


 ユウマは黙り込んで何も答えなかった。


「そんなに勇者の使命が大事なら、蝋燭で自分をもう一体作って勇者の仕事をしてもらったらいいじゃない」


「それはできない。勇者と魔王だけは例外だ。世界樹は勇者と魔王は原材料にして万物を生成するのであって、原材料自体を生成することはできない。だから、蝋燭の力を借りても、僕は生成されようがない」


「勇者だからって、魔王だからって、何でいつも例外なのよ! 例外だから、他人の気持ちなんて無視して好きなことをしていいっていうの!?」


「そんなつもりじゃ……」


「全部自己満足じゃない。あなたも魔王と何も変わらない」


「いないはずの存在に頼らないと続けられない関係なんていらない! 私たちはフタバになんて申し訳ないことをしてしまったの……」


「君の言うとおり、僕は自分のことばかり考えていたことは認めるよ。

 不安だったんだ。僕が先に死んで君に忘れられるのがどうしようもなく怖かった。そのためにフタバがどうしても必要だった」


「蝋燭はもう作れないそうよ。残っていた一本も私が()()ビーに使ってしまったわ。もし蝋燭の火を絶やしたらどうなるの?」


 そのとき、ユウマが明らかな動揺を見せていた。


「…..そんな。なぜそんなことに?」


「世界樹の力が弱まってしまったことが原因だそうよ。

 ただ、そうでなくとも、私はあの蝋燭は、この世に存在してはいけないと思う。生物の生命を弄ぶようなことをすべきじゃない」


「フタバがいなくなってしまう….. ()()ビーも……」


「何を言っているの……」


「蝋燭の火を絶やしたら、蝋燭の効力が切れたら、形を維持できなくなってしまうんだよ。だからフタバの誕生日に必ず蝋燭の火を灯していたんだ。

 あの子は、世界樹が生成した存在は、虚像でも幻でもない、僕たちと同じ魂と人格を持った実体のある人間なんだ。ただ、違うのは、あの蝋燭の火がないとその存在を維持することができないってことだけなんだよ」


「何てこと……何て恐ろしいことをしてしまったの……」


「世界樹の力の回復が必要なら、なおさら僕は世界樹の核になる必要がある。蝋燭がまた作れるようになったら、またフタバを生成してあげてくれ。

 最後に君に会えたのは、想定外ではあったけれど、すごく嬉しかった……さあ、行かないと。そこをどいてくれないか」


「そのフタバはもう()()()()フタバではないわ。私たちはあの子を自分たちの勝手で生み出して、殺してしまうのよ。あなたの言うとおりなら、もうあの子を救う方法はないわ。だから、あなたが双樹の核になったところで、ただの犬死になのよ」


「……それでも行かせてくれ。僕にはこれ以外に贖罪の方法が思いつかないんだ……」


「贖罪だと言うなら、死んで世界(マナティア)を救うなんて安易な方法を選ばないで! 生きて苦しみながら、他に世界(マナティア)を救う方法を考えて!

 フタバもビーもいなくなって、あなたも死んで、あなたがあの子たちを思い出してあげることもしないなんて絶対に許さない」


「誰かの幸せを守るためには、誰かが必ず犠牲にならなければいけないんだ。誰にでも同じようなことは起こりうる……それがたまたま今回は僕だっただけだ。僕一人が犠牲になるだけで、君も、他の皆も救われるんだ。お願いだから行かせてくれ」


「あなたが犠牲になってまで世界(マナティア)を維持する意味なんてない。あなたがいない世界なら、少なくとも私には何の意味もないわ。そんな世界(マナティア)なんて消えてなくなってしまえばいい。

 あなたが死ぬのなら、私も死ぬわ。私一人も救えないで、世界(マナティア)を救うなんて笑わせないで」


「じゃあ、どうしたらいい?」


「魔王を討伐すればいい。あなたならできるでしょう?」


「……すまない。できない」


「なぜ?」


「魔王も救うべき世界(マナティア)の一部だからだ。彼も彼なりの方法で世界(マナティア)のことを真剣に考えている。僕の考えと相容れないことは多いけれども、一方的に魔王を滅ぶべき悪だとすることは僕にはできない」


「私の生命より、魔王の生命のほうがあなたにとって大切だってことなのね」


「違う。君は僕にとって、ずっと特別だ。僕が世界(マナティア)を大好きになって、世界(マナティア)で生きてよかったと思える理由なんだ。どうか、僕を世界(マナティア)のために死なせてくれ」


「絶対に行かせない」


「わかってくれ、アナ……」


「行くなら私を殺してから行って」


 私はデスブリンガー(死をもたらす刃)をしっかりと握り、構えた。


 あなたにも何度も助けられているわね……これで最後でもいいから、力を貸して、デスブリンガー。

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