第七話 世界樹への道(前編)
ビーの亡骸に突っ伏し、私は泣いていた。もうピクリとも動かないビーの身体が熱を失っていくのが伝わってきた。
もう何をしたらいいのかわからなかった。
ユウマを追ってとても大切なものを失い、大切なユウマを見つけることもできない……この広大なエルフ大森林を探しているうちに死に行こうとしているかもしれないユウマも永遠に失ってしまうかもしれない……
虚無樹は冷酷な静けさで私を見ている気がした。
そのとき、静寂を破る大きな破裂音とともに、強い衝撃に体を吹き飛ばされた。
ゆっくりと体が宙に浮いているように感じた。
胸にしまっていたユウマの蝋燭が落ちていった。虚無樹は、私の大切なものを一つずつ奪っていくつもりらしかった。
やがて、私はまた地面に叩きつけられた。ゆっくりと落ちたように感じたのに、痛みは重く、鈍かった。全身が痛んだが、もうその痛みも自分の意識から遠くで起きているように感じられた。
ビーの亡骸が燃えていた。悪意のこもった炎に燃やし尽くされようとしていた。
あんまりだ……
「まさかおまえの飼い犬にここまでやられるとはな」
魔王ヴァルゼインは生きていた。
全身から血を流し、もはや顔の判別もつかないくらいだった。
「蓄えていた魔力をほとんど使い果たしてしまったではないか。これから治癒にも当たらねばならん。大賢者への攻撃が大幅に遅れてしまう。この間に勇者に死なれたら計画が破綻しかねん」
血に染まった無表情なヴァルゼインの顔の二つの黒い瞳が真っ直ぐに私を睨んでいた。
「何度殺しても許せん。残った魔力を使い切ってでも地獄の苦しみを与えてくれよう」
ヴァルゼインが黒く怒りに燃える目を私に向けたまま近づいてくる。
もう恐怖はなかった。ビーも死に、ユウマも死に行こうとしているのであれば、私が生き続ける意味を見出すことはできない。フタバを一人にしてしまうのは心苦しかったが、もうこれ以上、この世界での生に執着することはできそうにない。
私は目を閉じて、死を迎え入れることにした。
かすかにあの蝋燭の匂いがした。先ほど落としたときに、火が灯ったのかもしれない。燃え盛る亡骸から遊離したビーの魂が、最期にあの匂いを私に嗅がせてくれたのかもしれない。
目の前に巨大なベヒーモスの姿をしたビーが現れた。
迎えに来てくれたのか……
ビーは私を咥え、走り出した。
死んでからも私の面倒を見てくれようというのか。
それなら死んでよかった。
ユウマもきっと追いかけてきてくれる。
いつかフタバも来てくれるだろう。
そうすればまた四人で幸せな日々を送れるはずだ。




