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世界樹と虚無樹の交差するところ  作者: Vou


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回想6 魔族のアナ3

 私は、私を窮地に陥れようとした「虚無の子ら(アビス・チルドレン)」を離脱した。主導者も精鋭も失った「虚無の子ら(アビス・チルドレン)」はまもなく瓦解し、ただの弱者の子ら(ウィーク・チルドレン)の集団が残されることになった。


 「虚無の子ら(アビス・チルドレン)」と引き換えに、私は生まれて初めて友達と思える存在を得ることができた。

 ビーは知能が高く、私が話す言葉をすぐに覚えた。私はビーの言葉を知ることはなかったが、ビーの考えを感じ取ることはできた。

 相変わらず、家のない暮らしではあったが、魔獣狩りなどの仕事は楽になった。もともと魔族にもヒト族にも遅れを取ることはほとんどなかったが、ビーと生活するようになってからはより盤石になった。

 お互い好きな食べ物を知ったり、性格を知った。ベヒーモスのような幻獣でも個性はあるのだ。

 気を許した私にはとても優しく、それ以外の、特に攻撃的な魔族には徹底的に厳しい態度をとった。私も同じだった。ときにつまらないことで喧嘩することもあったが、常にビーが折れてくれた。ビーは私よりもずっと大人だった。信頼は日に日に深まり、お互いなくてはならない存在になった。

 友達がいるということがとても楽しく、心強かった。こんな気持ちになる日が来るとは思わなかった。ビーも同じだったに違いなかった。思えば、ビーが私の心性を変革し、ユウマに心を奪われるための下地を作っていたのだと思う。

 この世界(マナティア)にも、心が許せる者が、わずかでも存在しうるのだということを知ったのだった。


 ビーとの出会いからしばらくすると、私が幻獣を従えた強者だということが知れ渡った。

 それが魔王の耳にまで入り、私は魔王城に招聘されることとなった。


 魔王は、私にはごく一般的な魔族の一人に見えた。長い漆黒の髪に、深淵を覗き込んでいるかのような真っ黒な瞳から、他の魔族よりいくらか威厳と知性を感じさせはしたが、若い肉体と顔貌で、少しばかり優れた魔族という印象だった。

 私が魔力を持たないことによる弊害で、相手の魔力量を感知することもできないため、魔王の実力が理解不能ゆえの印象だということもわかっていた。

 現に高い魔力を持つビーは魔王に対して強い反応を示し、警戒を強めていた。

 魔王の興味も、私にではなく、ビーに向けられているのは明白だった。


「凄まじい魔力だな」


 魔王ヴァルゼインの第一声だった。

 もちろんその言葉は私に向けられたものではなかった。


「どうやって手なづけた?」


 私への興味も、ビーに関連したことのようだった。


「エルフ大森林から出てきたところで、傷ついて疲労していたようだったので助けました」


「それだけか?」


「それから友達としてお互い信頼を深めました」


「信頼? 魔獣と?」


「ビーに……ベヒーモスにどういったお考えをお持ちかはわかりませんが、この子はとても優れた知性を持っています。並の魔族よりもずっと賢いです」


「なるほど」


 ヴァルゼインが小さく微笑んだように見えた。


「アナと言ったか。おまえ自身は何ができる?」


「剣が扱えます」


「見せてみろ」


「え?」


「俺に全力で斬りかかってみろ」


 ヴァルゼインが本気なのか図りかねた。


「俺は剣は扱わんが、おまえごときに傷つけられることはない。いいからやれ」


 その言葉には有無を言わせない強制力があった。私は操られるかのように剣を構えた。

 ヴァルゼインはお世辞にも剣士としての資質があるように見えず、攻め込む隙があらゆるところに見え、逆にどう斬り込むべきか迷ってしまった。

 私はあえて致命傷を与えられるであろう首もとへ全力で斬りかかった。私の実力を見たいのであれば実戦と同じ行動をするべきだろうと考えた。


 ヴァルゼインは避ける素振りも見せず、剣先がその首をとらえてしまった。


 が、私の剣が魔王の首の皮よりも先に進むことはなかった。


「悪くない」


 何が起きているのか理解ができなかった。全力の一太刀が完全にヴァルゼインの首をとらえたのだ。ビーのような強力な魔獣の皮膚のような硬さを感じるわけでもなく、ただ刃が先に進まないのだ。


「驚くことはない。肉体は無傷だが、それなりに魔力を使わされた」


 このとき、私は魔王という存在の計り知れない恐ろしさと偉大さを知った。私は服従すべき存在なのだということも改めて理解した。


「似たような太刀筋の者がいたな。アグナーだったか。だが、奴よりもはるかに速いな」


 アグナー、私の父だった男だ。そもそも父の剣技を完全に真似るところから始めたのだから、太刀筋は似るだろう。だが、ヴァルゼインの口ぶりからは私が父以上の力を持っていると認めたように聞こえた。そのことに心が昂揚した。


「思わぬ収穫だ。幻獣さえ扱えればと考えていたが、おまえもよい戦力になりそうだ……しかしその剣はなまくらだな。刃こぼれもひどいではないか。よくそんな剣でやってきたものだ」


 そう言うと、ヴァルゼインの手に一振りの剣が現れた。


「この剣の持ち主が見つかったようだ」


 それは冷たい鋭さを湛えた黒い刀身の剣だった。見たこともないような美しい業物だ。


「虚無樹の力が込められた『デスブリンガー(死をもたらす刃)』だ。剣としての性能はもちろん、使い方によって非常に強力な攻撃ができる。おまえが持つべきであろう」


「え?」


「いいから持て」


 命令であれば、逆らえないが、なぜこんな剣を私などに授けようと言うのだろう?


「おまえほどの剣士は魔族におらん。だから授けるのだ」


 まるで心を読まれているようだ。いや、魔王ともなればそんな能力があってもおかしくはない。


「アナ、おまえを魔将としてこの魔王城に迎えよう。その幻獣も一緒にだ。よいな?」


 魔族である以上、魔将という地位を断る理由などなく、むしろ、魔王が私とビーの力を認め、そんな高い地位が与えられたことに胸が高鳴った。

 いつか魔王の側近となりたいとぼんやりとした思いも芽生えていた。

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