第五話 虚無樹への道3
フィオナの精霊の加護のおかげで、普段の何倍もの速さで走ることができた。
エルフ族の領土にあたるエルフ大森林も、北側の魔族領と南側のヒト族領に分かれており、北側にはダークエルフ族、南側にはエルフ族やハイエルフ族が多く居住すると言われていた。
世界樹は南側、つまりエルフ大森林のヒト族領側に位置するのに対し、虚無樹はその対極の北側、魔族領側に位置しているはずだ。
その正確な場所は知らなかったが、私はただ無心に走るだけで、精霊が導いてくれるように自然と足が動いた。
背の高い木々の間から木漏れ日が見えた。
体は疲弊し、足がひどく痛んだが、風が心地よかった。本当に、ユウマと出会ってから、考えられないような体験をすることになったな、と思った。
フタバは双樹教会で何事もなく過ごしているだろうか。もう何日も一人にしてしまっている。ユウマだけでなく、私の心配もしてくれているに違いない。
ビーも心配だ。年々、老齢のためビーの体力が落ちてきているのには気づいていた。それなのに無理をさせて限界以上に走らせてしまった。
それもこれもユウマのせいだ。そしてユウマを諦められない私のせいだ。
二人で帰って、二人にきちんと謝らないといけない。それでまた幸せな日常に戻るのだ。
木漏れ日が急速に弱まっていった。虚無樹が近づいてきていると感じた。
すっと疲労が抜けていくような感覚があった。魔族としての力が増幅していくのも感じられた。忘れていた魔族の残忍性も蘇ってくるようだった。
それが恐ろしかった。
ユウマが、フタバが、ビーがそばにいてほしかった。
私の愛する存在が、私の魔族としての凶悪性のために失われてしまうのではないかと思えた。
森は闇に包まれ、光を失っているかのようだった。それでもそこに木々がまだ存在していることはわかった。
目で見ているのか、それ以外の感覚で知覚をしているのかも不明瞭になってきた。
森の中に、より深い黒の空間が地面から天に向かって伸びていた。
この世のすべてを飲み込もうとする暗黒の樹木。地上の存在が視認することすらできない樹木。
それが虚無樹だった。
地上にこんなものが存在し得るとはとても思えなかった。むしろ地上の「存在」の概念を否定しているかのようだった。




