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世界樹と虚無樹の交差するところ  作者: Vou


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回想5 双樹教会(前編)

 双樹教は世間的には邪教と呼ばれていた。私も世界樹(ワールド・ツリー)虚無樹(アビス・ツリー)の両方を信仰する教義を知ったときは、邪教そのもの、いや、矛盾を孕んだ教義だと思った。


 そもそも世界樹と虚無樹は敵対する存在だというのが常識だ。


 魔族として、それほど信心深いほうではなかったものの、私はもともと虚無樹を信奉する立場であった。虚無樹は世界樹に先立ってこの世界(マナティア)に存在する、世界の根源そのものであり、世界を動かす純粋な力(ピュア・パワー)を生み出していると考えられている。

 魔族は虚無樹の力を得ることができると信じて、虚無樹を信仰するのだ。


 それに対し、世界樹はこの世界にあるすべての存在を生み出したものとされ、その存在を守護し、繁栄させるものとされる。主にヒト族が世界樹を信仰し、安全と幸運、幸福を得ようとする。


 そもそも信仰の目的が異なり、乱暴に言うのであれば、虚無樹を信仰する者は敵対するものに打ち勝とうとし、世界樹を信仰する者は、災いや敵対するものから身を守り、安定した状態を求めるものなのだ。

 そもそも世界樹は虚無樹の荒々しい混沌から、秩序をもった存在を生み出したのであって、両方を信仰すれば、それだけで矛盾が発生してしまうのだ。


 エルフ族であっても多くの者が世界樹を信仰の対象としていると聞いていた。エルフの大賢者を含め、一部のエルフ族だけが双樹教を擁護しているという。



 二十年前、ヒルダからの双樹教会への紹介状を手に、ブリットモアの町を朝に出立し、その日の夕方にはウィルクレスト村に到着した。

 ブリットモアの町と異なり、城壁もまばらで、ところどころ木組みの格子だけがある箇所もあった。魔族に侵攻されたら、ひとたまりもなさそうだ。国境沿いの村にもかかわらず、この脆弱な設備のままで良いのだろうか。


 村の中も、ブリットモアの町で見られた石造りやレンガ造りではなく、木造の家屋が多く、建物の密度もそれほど高くはなかった。


 双樹教会の場所はすぐに特定できた。他の建物よりもずっと背が高い建物で、場違いなほど目立っていたのだ。


 教会に近づこうとしたが、建物の周囲には強固な結界が張られ、近づくことができなかった。


「ユウマでもこの結界は破れないの?」


 ユウマが苦笑いした。


「そもそも理由があって張られている結界を破ろうとは思わないよ。まあ、でも、ここの結界は確かに強固だ」


 どうしたものかと考えていると、教会の中から一人の男が出てきた。


「こんにちは。ようこそいらっしゃいました」


 その男が言うと、結界が解かれたようで、建物のほうに近づくことができた。


「僕たちが来ることをご存知だったのですか?」


「はい、預言によって存じておりました。私は双樹教会司祭のヨナスと申します」


 預言で来訪者のことまでわかるのか。双樹教会とは恐ろしい、と思ったのが私の第一印象だった。


 来訪はわかっていたとのことだったが、それでもユウマはヒルダからの紹介状を手渡した。


「ありがとうございます。この書状の中身までは存じ上げないので、読むのが楽しみです」


 何でも知っているわけではないという事実に少し安心した。


 それから私たちは自分たちのことと、ヒルダにここを紹介された経緯と、この村で仕事がないか尋ねた。もちろん私たちの身分は伝えなかった。


「はい、お願いしたい仕事があります。こちらとしても、むしろ渡りに船です。

 このウィルクレスト村は、魔王の正規軍に襲われることはないのですが、それでも国境沿いにあるので、魔族が襲ってくることがございます。

 今まで村兵や大賢者様の助力で撃退してきたのですが、村兵が高齢化してきて、今後の対応が難しくなってきそうなのです。そこで、お二人に村兵として、村の護衛をお願いできますでしょうか」


「私もですか?」


 つい口に出てしまった。


「はい、もちろんです。あなたもお強いでしょう。この村を襲ってくる魔族や魔物に、あなた以上強い者は現れないでしょう」


「私がどういう者かは預言で知っているんですか?」


 そう私が聞くと、司祭ヨナスは私に微笑みかけた。


「はい、あなたの種族のことであれば、存じています。この村は他と比べれば、ずっと過ごしやすいと思います。種族のことを気にする人はもちろんいるにはいますが、大概の人は気にしません」


 そんな場所がこの地上に存在し得るのだろうかと私は疑った。

 しかし、司祭に見抜く力があるのか、預言のためなのかはわからないが、私の素性は間違いなくわかっているのだろう。

 ここが、ただならぬ場所であることだけは推察できた。



 ヨナスが私たちに空き家をあてがってくれた。二人(と、ビーも入れて三人)だけの住居ができたことに感激した。

 それに、私も自由に外出ができて、仕事まであるのだ。こんな幸運があるだろうか。ヒルダには感謝してもしきれなかった。

 すでに司祭を疑うことは忘れていた。

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