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世界樹と虚無樹の交差するところ  作者: Vou


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第四話 名を失った町3

「私が以前、筆頭魔将だったことは知っているだろうが、私はおまえのことを知らない。いつから魔族軍にいた?」


 グレイアスが皮肉めいた微笑を浮かべた。


「もう百年以上は軍にいましたよ。あなたが魔将だった頃はただの一兵卒でしたがね。それなりに力はあったつもりですが、あなたは一兵卒になんて何の興味もなかったんでしょう。ですが、あなたは皆の憧れだった。強く美しい筆頭魔将の魔剣士アナといえば、魔族の戦士であれば、誰もが憧れを覚えざるを得なかった。俺もその一人ですよ。あなたに憧れて必死に鍛錬をして、ときに卑怯な手も使い、媚びへつらって少しずつ頭角を現して、あなたにも認識されているつもりでしたが、違ったみたいですね」


「おまえの言うとおり、あまり他の者に興味はないのでな」


「なぜあなたほどの人が魔族を裏切ったんです?

魔王様にも気に入られて、側近にでも幹部にでもなれたんじゃないですか? 二十年前、あなたが勇者を退けたんでしょう?」


「魔族の将である私は殺されたのだ。魔族軍にいる資格はなかった」


「……そうですか。魔王様の言うことは本当だったんですね……あなたは勇者を退ける代償に隷従させられたのではないかと聞かされていたんです。俺は今の今まで信じられなかった。あれほど強かったあなたが、勇者に屈するなんてことが……でもわかりましたよ。昨日ここに来たヒト族の男が勇者だったんですね。あれは理解不能な強さだった。だけど、あなたは強いながらも、今の俺には理解のできる強さの範疇だ。何か特別な方法でなければ、あのヒト族の男は倒せない……力ではなく、女を武器にして取り入ったということですか」


「言いたいことはそれだけか? 私はおまえの質問にいちいち答えていられるほど暇ではない。それに、質問する権利があるのは私だけだ」


 デスブリンガーの剣先をグレイアスの喉元に突きつけた。魂を凍りつかせるような冷たさが伝わっているはずだ。


「何を知りたいんですか?」


「昨日来た男はどんな様子だった? 話はしたのか?」


「あなたの興味はやはり勇者だけなんですね」


「いいから答えろ」


「今日と同じような経緯です。やたらと強いヒト族の男が襲撃に来たって報告が入って、俺が出向いたんです。昨日は兵も連れませんでしたよ。ヒト族なんていくら強かろうが、俺の敵になるとは思いませんでした。今のヒト族は、勇者ですら弱いらしいって聞いてましたしね。ですが……あなたもあの男の異常な強さは知っているでしょう。あっという間に無力化されて、死を覚悟しました」


「それで何を話した?」


「魔王様が今何をしているのか聞かれました」


 魔王? やはりユウマは魔王を直接止めることを考えているのか。


「それで何を答えたんだ?」


「それは……あなたもあの男に会うならわかってしまうことだ。いいでしょう。魔王様は今、虚無樹のところにいます。ヒト族の王都に攻め込むより大事なことがあるようです」


「虚無樹? なぜそんなところにいる? 虚無樹はエルフ大森林にあるのだろう? 魔王が立ち入ることができる場所ではないはずだ」


「ヒト族よりも、エルフ族を滅ぼすことのほうが重要だと考えていらっしゃるのではないでしょうか」


「そんなバカなことが……」


 エルフ族を滅ぼすなんてことができるのか?

 エルフ族は他種族を攻撃することはないので、魔族の脅威になる存在ではないはずだ。何が魔王をそんな行動に駆り立てているのだ?

 それに、世界樹と虚無樹という双樹は加護するエルフ大森林の結界は強力で、簡単に侵攻などできるはずがない。それがたとえ魔王であっても同じだ。

 何よりエルフがいなくなったら世界樹と虚無樹の管理ができなくなるではないか。そうなったら……それこそ世界そのものが滅んでしまうのではないか?


「魔王様は本気です。そのために筆頭魔将の俺が、攻撃のための拠点とするこの町を守っているのです」


「おまえは魔王様を止めなかったのか? エルフ族を滅ぼしたら世界がどうなるかわかっているのか?」


「止められるわけがないじゃないですか。相手は魔王様ですよ? それにエルフ族がいなくなったらどうなるって言うんです? そんなことを俺が知るわけがない。魔王様には深遠なお考えがあると考えるしかないじゃないですか」


「なぜヒト族の男にそれを伝えたんだ?」


「逆らいようがなかったんですよ。あの男は嘘を見抜く力があったと思います。それに……妙な感覚なんですが、魔王様と同じようなことを考えているんじゃないかと思ったんです。魔王様の力になろうとしているのではないかと。何というか……攻撃性を感じなかったんです。俺のことも殺そうとしませんでした」


 ユウマと魔王は違う。しかし、だからと言って、私にもユウマの目的はまったく見当もつかない。


「俺が知っていることはそれだけです。さあ、殺してください」


 私はデスブリンガーを引き、鞘に収めた。


「あなたも俺を殺さないんですね? 脅威にはなり得ないということですか? いつかあなたも、あのヒト族の男も殺す力を得るかもしれませんよ」


 踵を返し、町の門に向かった。私の様子を見て、ビーもついてきた。

 今度こそ先を急がなければならない。ユウマがエルフの大賢者ではなく、魔王と会うつもりなのだ。彼が何をしでかすつもりかわからない。取り返しのつかないことにならないようにと心で祈った。


「俺の死兵の攻撃もものともせず、あなたが疲労した後でも俺は敵わなかった。あなたは強い」


 死兵……グレイアスの魔力に操られて、魔族兵は死を恐れずに攻撃してきたのか。ろくでもないことをする。実際のところ、私が魔将だった頃に知っていた顔もあった。


「筆頭魔将に戻る気はないんですか?」


 私は答えずにその場を去った。

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