第四話 名を失った町1
ヒルダとステラと別れ、私とビーはブリットモアの町を後にした。必ずユウマを連れて戻る、という意志を改めて強くした。
また国境沿いを東へと向かった。ここから先に何があるのか私は知らなかった。ただその先にエルフの大森林、そして世界樹があることだけは知っていた。
ビーに無理をさせないため、そしてヒルダに「焦るな」と言われたこともあり、二人で歩きながら進んだ。それでも、どうしても足早にはなってしまった。
どんどん内陸に入っていったためか、次第に草木も少なくなっていき、荒野の様相になってきて、出没する魔物も変化してきた。少し過酷な環境になっているためか、魔物も少し強力になっていたが、それでも私とビーの行く手を阻むほどではなかった。
やがて町らしきものが見えてきた。ブリットモアの町のように城壁に囲まれてはいたが、その城壁はそこまで背が高くはなく、堅牢さでブリットモアの町に劣っていることは明らかだった。
今日中にエルフの大森林まで到達することはできないため、その町に泊まる必要があるだろう。ユウマの情報も少しでも集めておきたい。
町の門は開いていた。門兵はいなかった。
この町も門兵が市民を襲っているのか、あるいは……
私が先に門から中に入り、ビーが後ろから続けて入った。
人の気配がしなかった。厳密に言えば、生きている人の気配がなかった。
殺した者の残忍さを示すような殺され方をしたヒト族の死体はそこかしこに転がっていた。
ブリットモアの町のように、すでに魔族に侵攻を受けたことは間違いなさそうだ。
町の名前もわからず、人もいない。そのうち、ここが町であったことも忘れ去られるだろうか。
休むことができそうな手頃な家がないか探して歩いた。一泊するだけなので、贅沢する必要もない。
すると、遠くに動く影が見えた。ヒト族の生き残りかもしれない。
無視してもよかったが、休んでいる間に何か邪魔をされることがあっては面倒なので、話をしておこうと思い、近づいていった。
相手は一人ではなく、三人だった。そしてヒト族でもなかった。
私はフードを脱ぎ、魔族の角を見せた。
「なんだ、おまえは?」
一人の魔族の男が尋ねてきた。
「旅の者だ。宿を探している」
「この町はグレイアス様の支配下だ。
「グレイアスとは誰だ?」
「ああ? おまえ、筆頭魔将の名前も知らんとは、本当に魔族か?」
そう言って男が私の角に手を伸ばしてきた。私は反射的にデスブリンガーを抜き、男の腕を斬り落とした。
つい手が出てしまったが、魔族の間では力量や上下関係を見誤って手を出せばこうなることは普通だ。ヒト族の社会で同じことをすれば大騒動だが、魔族社会で問題になるようなことではない。ヒト族を斬ったときのような気持ちの昂揚も感じない。
腕を失った男はうずくまり、うめいた。力の差はわかっただろう。もう抵抗する気はないはずだ。
それにしても筆頭魔将がこんな場所にいるとはどういうことだろう。
魔族は侵攻を進めているはずだから、王都により近い前線にいそうなものだが……
「ア、アナだ……グレイアス様に報告しなければ……何でこんなやつらばっかり来るんだ」
「他にも誰か来たのか? ヒト族の男か?」
私の問いには答えず、二人の魔族の男たちは逃げていった。
仕方がないので、一人残された、うずくまったままの男に問いかけた。
「誰が来た? おまえも知っているだろう?」
「ああ、恐ろしく強いヒト族だった。まるで勇者……いや、普通の勇者以上の強さだった。魔王様でもかなうのか……なぜ俺たちが生かされたのかもわからんが、相手にするほどでもないと思われたんだろうな」
ユウマは不要な殺生はしない。この程度の魔族であれば、簡単に無力化できたのだろう。
「何か言っていたか?」
「知らん。グレイアス様としか話はしていない」
情報を得るにはグレイアスとやらと話をするしかないか。
このあたりで待っていれば、報告を受けてやってくるだろう。
もしかしたら、ユウマも同じような手続きを経て、グレイアスと話をしたのではないだろうか?
だとしたら、ユウマも私と同じように何か情報を得ようとしたのだろうか? いったい何の情報が欲しかったのだろうか?
私には一つしか思いつかない……
それは魔王の居場所だ。
ユウマは世界樹に、大賢者のもとにはまっすぐ向かわずに、魔王のもとに向かおうとしているのか?
何のために? まさかやはり勇者の運命として、魔王討伐は避けられないのか?
やがてグレイアスはやってきた。何百人という魔族の兵士を連れて。




