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異説・天草四郎~悪魔と見る島原の乱  作者: 北田 龍一


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前日譚 重税と処刑

 1637年……当時の肥後の国、島原を統治していた人物の名は松倉勝家という。

 彼が統治を始めて7年になる。先代の重政しげまさは関ケ原で武功を上げ、現在で言う奈良県を商業都市として発展させた功績を持つ。その後は大坂夏の陣で武功を上げ、肥後の国を治める領主となった。

 しかし奈良での統治とは異なり……島原で敷いた政策や方策は、どう表現しても『暗君』や『暴君』としか表現できない。石高――土地単位の生産力や価値を表現する江戸の単位――を幕府へ過大に申告し、戦乱の世が終わったにも関わらず、豪華絢爛ごうかけんらんな島原城の建造に着手。多大な金を消耗した。

 その金をどこから調達するか……答えは分かり切っている。領民に対して過酷な税を取り立てたのだ。


 新しい子供が生まれた事に対して税を求めた。

 誰かの死に対して税を求めた。

 墓穴を掘る事に税を求めた。

 家に窓を作ることに税を求めた。

 米だけでなく、雑多な作物を作っても税で取られた。

 家に扉を作る事も、棚を置く事にも、ただ生きているだけでも税収を領民に敷いた。一説によると、民に対し9割の税負担を敷いたとされている。さらに最悪なのは……これらの重篤な税収体制を……松倉重政・松倉勝家の親子二代に渡って統治を続けたのである。さらに徳川幕府から『バテレン追放令』が通達されたのも拍車をかけたのかもしれない。


「キリシタンは追放する! 入国も禁ずる! 武士・百姓問わず、キリシタンはすべて教えを捨てよ! さもなくば処刑する!」


 これは……肥後の国、長崎に限った話ではない。日本各所で宣教師が国外追放・処刑の対象となり、建てられた教会はことごとく打ち壊された。加えて前の章で述べた通り、九州は当時外国人の出入りが多く、もちろん宣教師・キリシタンも多くいた。国の方針として、キリシタン排すべしの大義名分を得た松倉家は……前の章で述べた通りの、恐ろしい拷問と弾圧を行ってきたのである。

 作者の私見を述べるなら……これは国公認のキリシタン弾圧の流れに乗じて、捕らえた『罪人』『処刑対象』から財産・資産を没収する狙いがあったのではないか? と考える。豪華な城を立てたり、見栄っ張りの過大申告で島原藩は財政難に陥っていた。それを補うために、犯罪者・罪人として捕らえたキリシタンから、資産を没収して金にしたのだろう。

 さらにもう一つ――キリシタンに向けた圧政の手は、そうでない農民にまで手がかかり始める。


「なにぃ……? 税が払えないだとぉ?」

「は、は、払える訳ないべ……! 何をするにも税! 税! 税‼ こんなのどうやって生きていけば……」

「知らん。だが税が払えぬなら……そうだな、まずはお前の子供や嫁を人質に取るだけでカンベンしてやる」


 農民は青ざめる。これも史実に記録が残っており……島原藩は過剰なまでの税収体制を敷き、支払いがとどこった民からは人質を取った。妻や親、子供まで人質に取り……加えて、そうして捕らえられた者がどうなったか、もう民は知っていたのである。


「ま、ま、待って下せぇ! 人質になった者はほとんど帰って来ないべ!」

「そりゃ、滞納した税を納めてないんだから返す訳ないだろう」

「だから! こんな重税! どうやって納めるんだ⁉」

「お前たちの努力不足だ。無事に人質を返してほしくば、誠実懸命に――」

「出来る訳ない! 普通に生きるのだって難しいだろうが……!」

「では人質の命は無い。貴様の怠惰のせいで子も妻も無残に死ぬだろうなぁ……それが嫌ならば税を払え」

「………………」


 ただでさえ支払いが無茶な税率・税制度に加えて、それを支払えなければ妻や子供を人質に取り……筆舌に尽くしがたい拷問が行われた。作者の私見を交えるなら、税を収めぬ罪人として裁きを与え、財を没収する目的だろう。浪費が祟った結果、キリシタンのみならず民にも悪影響が出始めたのだ。

 一応は拷問と評したが、実情を考えるにふさわしいかは微妙である。何せ殺害をいとわない、生死を問わない責め苦だ。これでは拷問ではなく、残虐な処刑と呼ぶほうが正確かもしれない。

 ……本来であれば、その光景も小説として詳細に表現すべきなのだが、それをしてしまうとR―15の表現を明らかに超えている。味気なくて申し訳ないが、作者が調べた限りで、実際に行われたであろう拷問とも処刑とも取れる方策の一部を、羅列の形でここに示す。


蓑踊みのおどりの刑』――前の話でも少し触れた方法。雨具として普及していた、藁を身に纏う雨合羽に火をつけた処刑。インスタント化した火刑と言い換える事も出来るだろう。キリシタンの宗教観としては、火によって炙られ死ぬのは『魂の消失』に繋がると考えられているため、彼らの死生観で見ても、実際に身に受ける苦痛の面からも、残酷な処刑法と言えるだろう。


水磔すいたく』――海岸の波打ち際に水柱を立てて、そこにはりつけにしてしばりつける。顔の高さは『満潮時に海水が顎まで達する高さ』に固定され、常に荒波にさらされて心身共に消耗する。当然食事も真水も与えられないまま放置され、時期によっては暑さ・寒さも囚人を苦しめるだろう。受刑者は心身共に疲れ果てて死んでいったと言う。


 雲仙地獄温泉を利用した処刑――温泉が処刑になるのか? と疑問に思う方もいるかもしれない。しかし我々が観光でイメージする温泉は、火傷を負わぬ温度にまで調整がされており、それを湯船に溜めて利用している。調査によるとここの温泉は蒸気の一部が120℃を超える熱を持っており、これを利用した拷問方法が用いられたらしい。沸いた高温の湯を直接かけたり、噴出した有毒ガスをも使ったとも言われている。


 ――恐らく、これは一例。調査すればまだまだ出てくるだろうが、本題と逸れるのでこれくらいにしておく。重要なのは――『キリシタンの弾圧』と『民への重税と圧政』と『違反者への残虐な拷問・処刑を行った』点だ。あまりに良識に欠け、行き過ぎた行為に家臣の中からも奉公をやめ、距離を取った者も多い。表立って反論し、咎め、忠言をする者の記録は見つからなかったが……こちらへの私見は、後日談で述べたいと思う。

 そんな重税と弾圧、過剰な処刑が行われている中――島原の民の中で、まことしやかに囁かれる『預言』があった。

 こちらもまだ前提・前日譚の話ですので、ほとんど創作を含めていません。本文内でも少し触れましたが、むしろエグ過ぎたので薄めているまであります。過剰な税の徴収も、キリシタンへの処刑・弾圧も『史実』です。

 税に関しては調べただけでも、生存税、出生税、死亡税、墓穴税、畳税、窓税、棚税などなど、もうありとあらゆる事に税金がかかるような状態です。作者でさえ『これは流石に冗談だろ?』と思いましたが、複数の情報ソースがヒットしているので……どうやら本当のようです。

 処刑・弾圧も……信者に焼き印を押し付けたりとか、手や足の指を落とすとか、本当にグロいのばっかり出てきました。キリシタンだけだろ? と思っていたのですが、どうも税を収められない民や、人質に取った民に対してもやった……と言う話もあります。

 ざっくり当時の島原の様子を表現するなら『重税重税重税重税処刑処刑処刑処刑処刑重税重税重税』って感じですね……

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