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異説・天草四郎~悪魔と見る島原の乱  作者: 北田 龍一


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城の上で、悪魔は笑う

 1月1日――天草四郎は原城の天守閣から見下ろしていた。

 三度目の本格的な幕府軍の攻撃。しかし恐怖は感じない。むしろこの展開は望ましいまである。特に、彼と契約した悪魔『ハルファス』にとっては。


『かぁーっ! バカだねぇ‼ 相変わらず力任せの物量作戦か? ンなので落ちるような城じゃねぇって、二回の攻撃で分かんなかったのかぁーっ?』


 悪意をたっぷり含んだ声で、目下の相手をせせら笑うは鳩の姿の悪魔。戦争に手を貸し、流血を好む悪魔の声は、明らかに弾んでいた。

 馬鹿にするような口調のハルファスに、四郎もまた黒い声色で、笑いをこらえつつ答える。


「幕府の威信をかけて……って所だろう。農民風情に負けたのが、よほど腹に据えかねたらしい。以前より勢いがある」

『だが、それだけだな。具体的な策も無く、ただ突撃するだけ……これじゃあ猛牛みてーだぜ‼』

「この国では、突撃馬鹿の事を表現するのに『イノシシ』の動物をよく使う」

『あァ、野生のブタね』


 既に戦闘は始まっているが……城下から戦局を眺めている彼は、すぐさま敵の様子が異なる事に気が付いた。伝令が行き渡るかは怪しかったが……天草四郎には『奇跡』がある。兵士を好きな位置に転送させる事の出来る、悪魔ハルファスの能力が。


「もう一度確認するが――ハルファス。お前の権能、連続で使わせてもらうぞ。問題ないか?」

『いいぜ。準備は出来てる。陣地を修復する時、オレサマの力を仕込ませてもらった。この城はもうオレサマの支配圏。この領域内であれば、好きなように兵を動かせる。チェスの駒を動かすみてぇにナ』

「チェス?」

『軍略を模した遊戯ボードゲームだ。輸入品に有るかもだが……知らねぇか』

日本こっちにも将棋ってのがある。近いものかもな」

『ふぅん、この戦いを終わらせたら、互いにその話しようヤ』

「あぁ」


 雑談を終えた四郎は、城下に目を配らせ……即席の兵舎となった区画に手をかざす。将棋の駒を握るように虚空を掴み――幕府軍の死角となっている側面へ運び、そっと手を離した。

 瞬間、兵は『転移』する。もう天草四郎の『奇跡』を体感済みの者は驚かない。敵の側面で弓と銃を構え、一斉に放った。

 遠巻きに悲鳴が聞こえる。完全な不意打ちに幕府側の兵が動揺するが、彼らの上司は撤退を許してくれないようだ。ただただ『今日この日で決着をつける』という目的のために、無理のある突貫を繰り返している……

 銃器を持った相手への、正面からの突撃。この世の軍略の中で、最も愚かしい指揮であろう。威圧感はあるけれど、慣れた射手であればカモ撃ちだ。

 再び、銃声。被弾した幕府兵が流血し倒れていく。死ねなかった者も痛みに喘ぎ、大地を赤く染めた。


『これよコレ! やっぱ人間がバッタバッタと死んでいくザマは楽しいなァ‼』


 ――悪魔ハルファスが戦争に手を貸すのは、人間の流血を見たいから。

 かの悪魔は……この時この瞬間のために、人間と契約し力を貸す。今まではせいぜい小競り合いや威力偵察で終わっていたが……本格的な戦闘と衝突に悪魔は大興奮。契約者そっちのけで、こんなことまで言い出した。


『天草ァ! 人が死ぬとこ近くで見に行っていいかァ⁉』

「力を使わせてくれるなら文句はない。面白い死に方をした奴がいたら、後で語って聞かせてくれ。酒の肴にする」

『カカカッ! ソイツはイイ!』


 人の死を嘲り笑う悪魔が、城の上から飛び立つ。一方の四郎もまた唇を歪めて……自軍の兵士に手を伸ばした。

 といっても、難しい指示はない。何せ原城自体も相当な要塞であり……いくらでも、こちらから有利な位置取りが出来る。後方で控えている隊を、空いている箇所に配置してやるだけで効果的な打撃が見込めた。


「少し……引き込んでやるか」


 相手は猪武者のように、力任せな突撃を繰り返すばかり。その内勝手に撤退するだろうが、好機と見た天草四郎は、伝令役を一人自分の場所へと『転移』させ、伝令役とした。


「敵の攻勢に焦りが見えます。ここは……あえて敗走を演じ、敵を深く入り込ませましょう。そこを私の『奇跡』で包囲し、一息に潰します。前線の者に伝えてください」

「承知!」


 伝言を仕込んだ者に手をかざし、前線近くにまでかざして運ぶ。すぐさま変化する戦場。前線を下げると、何も疑わずに幕府軍は進撃を試みた。


「そりゃそうだ。無理攻めが通りそうなら、誰だって突っ込んで来る」


 敗走するかに見える先は、袋小路。これでは引いた兵たちも危険だが、曲がり角をいくつも進んだ先で……敵軍に追い付かれる前に、四郎が『奇跡』を行使。結果幕府軍が目にするのは『行き止まりまで追い込んだ筈なのに、何故か一揆軍が消えている』光景。隠し通路と疑う間もなく、袋小路の側面に……投石や弓兵、火縄銃を持った隊を転移させた。


「――やれ」


 届かないはずの指揮だが、この場面なら誰だって分かる。一揆衆の一斉攻撃を受けて、行き止まりの幕府兵が集中攻撃を受けて倒れた。


「くっくっく……」


 本音を言えば――もう少し『味方にも』死んで欲しい気持ちも、四郎の中にはある。

 だがそれはそれとして……間抜けの敵を次々と仕留めていく感覚も、決して嫌いではない。自らがもたらす流血に酔いそうになるが、ふと彼は違和感を覚えた。


「統率が甘そうだが、こうも突撃一辺倒は妙だ。オレならどうする?」


 効果の無い突撃……その無計画・無鉄砲ぶりは目につくが、だからと言って全く知恵が働かないとも思えない。しばらく無言で思索すると――天草四郎の目線は、搦め手を睨んでいた。

今回は結構な割合が創作ですね。歴史的に正しいのは、1月1日に幕府軍が原城へ三度目の攻撃を決行した所でしょうか。具体的な策も無く、三度目の力攻めを決行したのですが……

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