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異説・天草四郎~悪魔と見る島原の乱  作者: 北田 龍一


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14/33

もう一つの一揆と合流

 島原での一揆勃発から、一週間前後の頃合いで……天草地方でも一揆が勃発した。

 この年は作物が凶作に見舞われたのもあり、税が重く負担になっていたのも原因の一つと言われている。島原藩と比べれば、税の重さはマシではあるものの……キリシタンへの弾圧は日本各地で行われていたし、特に九州地方は入信者も多い。結果的に天草藩でも、多く処刑が執り行われていたのだ。

 キリシタン達による、一揆の大規模化……それも大々的な連鎖的勃発となれば、徳川幕府も静観していられない。危険性を理解した原城の浪人が焦りを見せた。


「幕府が動く……となると、こちらも独立を急がねばなりますまい。甚兵衛殿、どうにかなりませんか?」

「……まだ外国に、この一件が伝わっているとは思えない。最低でも一か月……できれば二か月は持たせる必要がある。だが、こうも火の手が大きいと……」


 益田甚兵衛としては、毒を吐きたい気持ちもある。せめてそちらが大人しくしてくれていたら、まだ幕府は腰を上げなかったかもしれない。

 けれど非難も的外れだろう。天草一揆の発生は、自分たち島原一揆に触発されて発生したものだ。それに、彼らも同じ信仰の下に集う同志。話せば互いに理解し合える相手ではある。戦局について、天草四郎に父が尋ねた。


「戦局の詳しい部分までは分からないのだな?」

「はい……ですが恐らく、まだ富岡城は落ちていないかと」

「当然だ。城は早々陥落させられる物じゃない。となると……野戦を仕掛けている側の、天草一揆の衆は危険だ。このままでは籠城している富岡城と、これからやって来る幕府軍に挟み込まれてしまうやも」

「く……! しかし幕府軍と正面からぶつかるのは……四郎様の力で野戦陣地を作って迎撃できませんか?」

「奇跡自体は起こせます。たとえば、関所を陣地に変えて封鎖し、幕府側や島原藩の兵を抑え込む事は可能です。が……父上、軍略上はどうですか?」


 彼の『奇跡』であれば、防衛拠点を築く事は容易ではある。しかし浪人としての経験豊富な父親は難色を示した。


「練度があるなら良いが……今の人員だと良い策とは思えない」

「何故?」

「野営陣地は城ほど堅牢じゃないし、一揆に加わった者の中には素人の農民もいる。下手に戦力を分散したら各個に潰されて、士気の低下につながるやもしれぬ。進軍の道順も読み切れないし、離れた拠点の隊が包囲される危険も……」

「四郎様の奇跡で移動させるのは? いつでも撤退できるのでは……」

「封鎖する箇所が一つでは効果が薄い。複数個所で防衛地点を設置する必要があるが……」

「……私は一人だけです。例えば、複数の陣地を攻撃された場合……救援が間に合うのは一か所だけになるでしょうね。それに、人数や戦況によっても『奇跡』が使えるかどうかも変わる」

「得策ではない。か……」


 腕を組んで、甚兵衛と浪人が唸る。このまま見殺しにしたくはないが、正規の幕府軍と真正面からぶつかるのも危険。しばらく考え込んだ末に、天草四郎は別案を示した。


「でしたらいっそ……天草の一揆衆もこの『原城』に招き入れ、共に籠城するのはどうでしょう?」

「悪くない案だが、どうやって伝令を送る? それで間に合うか? 説得もどうする?」

「私と……そうですね。念のため少数の信頼できる者を連れて、共に『奇跡』で天草一揆衆の所へ移動し、彼らに危機を伝えて説き伏せ……そのまま『奇跡』で連れてまいります。戦闘中では難しいですが、包囲状態でにらみ合っているのなら、たとえ大人数でも『奇跡』の行使は可能でしょう」

「ふむ……」


 まるで天草四郎を中心とした、便利な運送のような話だ。さらに利点として……同じ信仰の下の同志が増えるなら、幕府側は手を出しにくくなり、教皇からのお墨付きをもらえるやもしれぬ。仲間が増える利点は大きいと思えた。


「出来るか? 短いとはいえ、海も挟んでいるぞ……」

「四郎殿の奇跡は、海を跨いで移動する事も可能と……?」

「出来ます。流石に、ここから本州に移動するのは難しいですが……九州内であれば、目立った地形や目印があるなら可能です。今回は『原城と富岡城』を目印にして、奇跡を用いて移動します」

「なるほど……」


 一瞬で移動を可能とする『奇跡』であれば、海を挟んでいても問題ない。四郎が説明に対して、父の甚兵衛は真偽を見定めるように彼と目を合わせて問う。できるのか? やれるのか? の無言の詰問に、ただただ四郎は聖人の笑顔を崩す事はない。その表情に……何故か寒気を覚えた甚兵衛だが、首を振って迷いを払った。


「キリシタンの国として独立するには、人手はあるだけ良い。それに今、この国この時代のキリシタンは皆苦しんでいる。思いは皆同じのはずだ。ただ心穏やかに過ごせる日々が欲しい」

「そうですな……たったそれだけの事が、どれほどこの国では難しいか。四郎殿、天草の一揆衆の説得、お願いできますかな?」

「お任せください。必ず……必ず彼らも、私達の理想に共感してくれるはずです。彼らに私の『奇跡』を示し、悪しき幕府から手を切って……私達の、私達のための楽園を築くのです……!」

「あぁ!」

「うむ! では任せたぞ、四郎よ」

「お任せ下さい、お父上」


 ――かくして……天草地方で勃発した一揆衆は、幕府側の増援を警戒し島原で起きた一揆と合流。全軍を原城に収容し、籠城の構えを取る。

 その総数は……合計四万に近い人数が原城を占拠していたという。

はい、こちら……天草地方でも約五日後から一週間後付近で一揆が起き、富岡城へ攻撃を仕掛けた所までは史実です。

島原藩が度を越した重税と弾圧をやってたのは事実ですが、キリシタンへの弾圧が厳しかったのは日本各所で同じ。また、この年の九州地方は農作物が不作だったようで……天草地方でも島原一揆に触発される形で、一揆が勃発します。

さらに……富岡城を攻めていた一揆衆が、幕府側の増援の気配を察知し、原城を占拠する島原一揆と合流したのも史実です。船で海を渡る一揆衆の様子を目撃した証言もあるようで。これで、私達の知る形『島原・天草一揆』となるわけですな。


ですので、ハルファスの権能で『海を渡って転移した』は流石に創作ですね。

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