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天と地と  作者: aaa_rabit
第一章
7/72

公爵家の次男とドラゴン

 あれから一年が経った。

 リューグに課された”令嬢”として身につけなければならない全ては学び終え、リアナは自由を満喫していた。

 といってもあと数年もすれば、社交界へと参加しなければならないし、今でも最低限は参加しているのだが大半は自由なのである。屋敷の住人はリアナの味方であったので、庭いじりをしていようが眉を顰めるものは誰もいない。

 今や庭の一角はリアナの家庭菜園と称した畑が広がっている。勿論屋敷の主たる公爵に許可は取って。

 そしてリアナの少し後ろには専属の護衛騎士シャックスがいる。ふらふらと気ままに出かけてしまうリアナを心配した公爵がつけたのだ。


「またこちらに見えたのですか。侍女達が探していますよ」

「またシャスに見つかっちゃったか。何で判ったの?」


 早朝のリアナ捜索もシャックスの仕事である。そして彼には悉くリアナが隠れそうなところを知っているようだった。


「勘、でしょうか。天候によって隠れる場所が違うようですけど」


 リアナは目を丸くした。短時間でよく判ったものだ。侍女やリューグなどは未だリアナの周期性を見いだせずにいるようなのに。


「本日のご予定はどうなさいますか?」

「どうしようかしら。…っつ!あれは!?」


 太陽が翳ったかと思えば、巨大な飛行物体が二つ頭上を通り過ぎていった。瞬く間のことで、本で読んだことはあっても実物を見ることが初めてなリアナは興奮していた。


「あれが噂のドラゴンね!?あっ、あそこに降りるみたいだわ。行きましょう」

「リアナ様!?」


 何もかもが規格外な令嬢は、三階建ての屋根から躊躇うことなく飛び降りた。そのまま厩舎へと駆けていくのが見える。やれやれと嘆息しながらシャックスは後を追いかけるべく屋根を伝い降りた。


 ドラゴン。母親たる魔王の眷属にして、魔物の最上位種はとても人懐こい性格をしていた。幼い頃は背中に乗せて貰って飛んだ憶えがある。

 そしてこの国では、ドラゴンは人に飼われているらしい。第二皇子率いる竜騎士隊というのは騎士達の憧れなのだ。一握りの魔力を持ち、ドラゴンに気に入られた人間のみが竜騎士となれるのだとか。他にも選ばれた皇族がドラゴンを持っているらしい。

 外壁のすぐ傍に降り立ったことを確認しながらリアナは馬を走らせる。外壁を守っていた兵士は、公爵令嬢の姿に驚いたようだがすぐに門を開けた。遅れてシャックスも駆け抜けていく。


 久々の里帰りにスフェンネル公爵の次男ジュードは目を細めた。前もって父には帰還の知らせを送っているので、彼等の姿を確認した兵士がすぐに屋敷へ知らせを走らせるだろう。相棒のブルードラゴン、リュシーの首筋を叩いたジュードは地に降りた。竜騎士の証したる玉虫色にドラゴンのエンブレムを施された制服が風に翻る。


「ったく、急がせすぎだって。王都からスフェンネル領まで不眠不休で一日半なんてマジありえねー」

「仕方ないだろう。父上から危急の知らせが届いたのだ。大体なぜお前まで付いてくる?」

「友達のよしみだって。それに噂の美少女が見たくってさ」


 イエロードラゴンから降りた同期のデーリン伯爵長男のゼイスが朝日を忌々しげに睨めつけていた。ドラゴンに乗るのはそれだけで体力を使うのだ。寝てないことも相まって体が鉛のように重い。


「ふん。噂など当てにならんだろう」


 実家で少女が養子になったことは手紙で知っていた。更に宮中ではその娘が美しいと評判になっているのだが、ジュードは耳半分に聞いている。

 なんせ彼等を産んだ母親は絶世の美女として知られているのだ。生憎ジュードは父親似であったが兄のリューグは母親似で美青年である。ぶっちゃけそこら辺の女より遙かに整っているだろう。そんな家族に囲まれたジュードにとって大抵の美しいは当てにならないのだ。


「けどよ。その髪は金糸銀糸の如く艶やかでその瞳は至高の色、その容姿は女神もかくやって言うじゃないか。気にならない方がおかしいだろ」

「女など五十過ぎれば大して変わらん。むしろ大切なのは中身だ。…っと、迎えが来たようだな」


 どうやら単騎で先触れでも来たのだろう。しかしその姿が明瞭になってくるにつれて、ゼイスはともかくジュードですら目を見開いた。

 ありえないと咄嗟に頭が拒否を起こす。一昼夜不眠不休で疲れているのだろう。どうやら幻でも見ているようだ。


「わぁ!これがドラゴン。綺麗!」


 馬を下りるなりふらふらとドラゴンへ近寄っていく美少女に我に返ったジュードが制止するも遅かった。

 知らない人間にドラゴンが牙を剥き、少女を丸のみせんと迫る。少女の体が血に染まるのを想像して蒼白になったジュードだがいつまでも悲鳴は聞こえなかった。

 どころか認めた者にしか懐かない孤高のドラゴンが少女に気持ちよく撫でられているのである。

 その光景にまたも二人が驚愕していると、遅れてやってきたシャックスが二人の姿を認めて膝を折った。


「これはジュード様。お帰りなさいませ」

「シャックス、か?大きくなったな」


 代々スフェンネル公爵家に仕える騎士の一族である少年を見てようやくまともな思考が戻ってきた。


「リアナ様!むやみにドラゴンに近づくのは危ないですよ!」

「大丈夫よ、シャス。この子達とっても大人しいもの。…そう、貴方がリュシーで貴方がグレンね。ええ、よろしく」

「…ジュード。俺にはあそこのお嬢さんがあいつらと会話してるように見えるんだが気のせいか?」

「奇遇だな。俺もだ。リュシーの名前を教えた憶えもないぞ」


 じゃれ合っているのか土が付くのも構わず少女はドラゴン二匹に舐められながら笑っている。ちょっと羨ましいと感じたのは秘密だ。


「えーと、お嬢さん。そろそろお名前を聞かせて貰っても良いかな?」

「あ、すみません…。ご挨拶遅れまして申し訳ありません、竜騎士様。私は」

「リアナ!ジュード!」

「兄上!」

「お義兄さま!」


 え、とリアナはリューグを兄上と呼んだ竜騎士を見上げる。馬車から駆け寄ってきたリューグがリアナを抱き上げた。二人は視線を逸らさないまま確認し合う。


「ジュード…お義兄さま?」

「お前が義妹のリアナ、か?」


 リューグに降ろして貰ったリアナはスカート、ではないので男風に礼をする。よくよく考えれば簡単なことだった。確かに絶世の美少女といっても過言ではない容姿にシャックスが仕える相手といえば一人しかいないのだから。

 ふらりと近づいたジュードは高い位置で一つに纏められた髪を一房取った。指先から流れる感触は父ではないが癖になりそうである。光の加減によって金にも銀にも見えるのは面白い。


「…ジュード。その辺にしておけ?」


 不躾なほどじろじろとリアナを見回すジュード。さすがに失礼だろうとゼイスが声をかける。


「む?ああ、すまんリアナ。俺が次男のジュードだ。よろしくな」


 ぽんぽんと頭を叩かれる。これがリアナとジュード、そしてゼイスとの出会いだった。


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