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天と地と  作者: aaa_rabit
第四章
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告げるモノ

来月出来たらいいな、と言った言葉が嘘にならずに済んでほっとしているrabitです。

今回はいつもより長めなので、頑張ってください。

「王であるロクロが誰の目にも留まらず、且つあれだけの奴隷をかくまえる場所は一つしかない。よくもまぁ……」


 効率を考えれば確かにこれ程最適な隠し場所はないだろう。自分が公に管理出来、王が定期的に通っても不自然ではない。


 そう、それが歴代国王の眠る墓所であれば。


「リトル」

「お疲れ様です。首尾は?」

「手筈通り」

「そうですか。では準備が出来次第、早急に脱出してください。残す人員は既に?」

「配置」

「ありがとうございます。では皇都<ウイングパレス>で会いましょう」


 ロードはリアナの頭を一撫ですると暗闇に融けていった。現在この邸にいるのはリアナのみで、理経の煽動で民衆は勿論、仕掛けを動かしていた帝国の兵士達もまた脱出をしている。騒ぎに紛れて各自元正を抜け出している頃だろう。この騒動はあくまで”王国の”ものでなくてはならないのだ。裏で帝国が糸を引いていたと知られれば、落ち着きつつあるとはいえ帝国への反感は未だ燻っている。理経が糾弾されれば、一連の行為の全てが水泡に帰すだろう。それは帝国にとっても望まない結末だ。加えて不法入国である以上、混乱に乗じて早々に脱出するのが最善だった。


 リアナが残っているのは計画自体がリアナの脱出を持って終了するためで、取りこぼしがないかの最終確認をする為でもある。


「研究資料は政権以降のものを既にいただきましたし、今回の件で顔が割れてしまった者達の引き上げ、及び引き継ぎも終わりました。理経様にも挨拶を済ませてますし……わざわざお見送りですか?大吾さん」


 開け放たれた扉の影から姿を見せたのは、理経の傍で警護に就いているはずの大吾だった。驚きもなく迎え入れるリアナに鼻を鳴らすと、大吾は手に持っていた海色の筒を無造作に放った。危なげなく受け取ったリアナは早速中身を取り出し、文字を目で追う作業に没頭する。因みに大吾が投げた筒は、トートスの紋章”海豹”が描かれており、間違っても粗雑に扱って良いものではない。


「……赤城殿のことも全てお前の想定内と言う訳か」


 ぽつりと呟かれたそれに、リアナは紙面から顔を上げることなく答える。


「理経様の性格を考えれば自ずと答えは出るでしょう?」


 赤城はロクロの側近として、ヴァーリアス側は処断するつもりだった。けれどもその計画を妨害したのはトートス側。今頃王宮では彼が理経の忠実な僕であったことが立証されている頃だろう。そう、彼等はリアナを出し抜いた。つもりだった。けれどもそれすらも見越していたとしたら?そして大吾の予感は的中することになる。


 書簡を再び筒に仕舞ったリアナは懐から青色のペンダントが取り出され、大吾の目の前で筒の中に一緒に入れてしまう。瞬時に膨れあがった殺気をそのままに、リアナは表情を崩すことはない。そのペンダントの意味を先程知った大吾は唇を噛み締めた。


「貴様!盗んだのか!?」


 あれは赤城の命そのものだ。ペンダントを壊せば必然的に赤城も死ぬ。魔術師が忠誠を捧げた者のみに渡される文字通り命を賭けた宣誓なのだ。


「本人……持ち主ではなくこれの元である人物からいただいたのですよ。魔術師にとって例え口約束でも契約は絶対。そして彼は、理経様が当直するまでの身の安全と引き換えにペンダントを差し出しました」

「出鱈目をっ!」


 柄にかけられた手が刀身を晒す。切っ先がリアナへと向けられたが、それ以上動くことはなかった。否、動くことが出来なかったのだ。いつの間にか、足が石の床と同化していた。それでも前進しようと、身体中の力を使って脱出しようとする。


「やはり、貴方は操られているんですね」

「?何のことだっ!」

「私はこのペンダントを赤城殿の中継の元、理経様から直接受け取りました。そしてその場には当然貴方も同席していた。ならば何故、それを覚えていないのですか?ああ、そうだ。因みに大吾さんは頭に血が上りやすい方ですが、約束は律儀に守る方でしてね。……いい加減不愉快です」


 途端、あり得ない量の力の奔流が押し寄せる。それは魔力に似て非なる、もっと世界の根源に近い純粋な力だった。


「イオシス。やはり貴方でしたか」


 大吾の影に潜んでいたものは、美しいぬばたまの黒い翼をはためかせて姿を現す。郷愁と警戒の入り混じった視線に、大胆不敵に笑ってみせた。


 イオシス。母たる魔王の眷属にして、その声を届けるもの。主に凶兆を告げることで知られる、位階68の高位魔属である。


「ケケッ。なんだ、俺の名前憶えてたんじゃねぇか」

「イエレナは何処に?」


 彼等の在り方は真逆だが、同じ性質をとる為に共に行動する事が多い。


「あいつなら王宮だ。加護を与えた人間を見に行ってるぜ」

「理経様、ですよね。道理で上手く事が運ぶわけだ」


 リアナが違和感を感じたのは、大元の計画があまりにも順調に進み過ぎた為だ。ある程度の予測に基づいたものとはいえ、普通は綻びが出来るもの。それが恐ろしいほどに無いのだから、何者かが、それも世界の流れを強制的に変える力を持つ存在が紛れこんでいると考えるのが自然。


「まさか……貴方達が来たということは、■■■と■■■に何か?」


 即座に顔を青ざめさせるリアナに、随分人間臭くなったとイオシスは鼻を鳴らす。主はこんなつまらない変化をもたらしたかったのか。


(素晴らしいではないですか!これならば十分、試練に耐えうるでしょう)


 脳裏に聞き慣れた声が響く。イオシスが舌打ちすると同時に、何もない空間から純白の羽が一本零れ落ちる。輝きに満ちた羽を生やした美しい生き物が音もなく現れた。


 イエレナ。神の眷属にして神の声を届けるもの。イオシスの対で色を除けばそれぞれは驚くほど似通っている。


「お久しゅうございます、御子。御立派になられましたね」

「イエレナ」

「はい。主様と魔王様は以前と変わらず御健勝でございます。イオシスを信じなさいますな」

「ちっ。余計な真似すんなよ」

「御子の御前ですよ!」


 こうしたやり取りも懐かしい。いや、あの時は大した感慨もなく視界の端にやっていたのだが、今のリアナは小さな笑い声を立てていた。二人が驚きに目を丸くしている事が余計に笑いを誘う。


 場を仕切り直すように、イエレナとイオシスが同時に咳払いをした。表情を改める二人にリアナもまた気を引き締める。一度たりとも連絡のなかった両親からの伝言だ。重要に違いない。


そして。




エーテルメリデ砦で待つヴァリアスの元に届けられたのは、リトル失踪の報と半分に壊れた金の耳飾りだった。


■■■は、この世界に存在しない音として聞き取れない仕様ということでお願いします。因みにリアナちゃんは父、母とは呼んでません。

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