首都潜入4
何事もなく人々が活動を始める時間。朝といえど、じりじりと太陽が肌を照りつける。開店前に少しでも居心地を良くしようと遣り水をするために外へと出た店主は、道のど真ん中で倒れている子供達を目にして度肝を抜かれた。
『お、おい!』
手に持っていた柄杓を投げ出し、慌てて駆け寄る。子供の身体は貧民街の子供よりも更に痩せ細り、まるで枯れ木のようだった。褐色の肌には鬱血の跡が多く見られ、呼吸も浅い。
『しっかりしろ!おい』
まだ寝ている者も少なくない時間帯に、通りで騒げば人も集まってくる。寝ぼけ眼を擦る者や準備の途中なのか包丁を手にした者が何事かと窓から顔を出す。彼等は外の光景にぎょっとした表情を浮かべ、次いで適当に服を引っ提げて外に出てくる。
『誰か!誰か医者を呼んでくれ』
見に来ていた内の一人が近くの病院に駆けていく。
『おい!連れて行った方が早い。行くぞ!』
店主が両腕で持ち上げた子供は驚くほどに軽かった。か細い命を消すまいと、力のある男達が店主の後を追って次々に子供を抱え城下を走る。
当然ながらその騒ぎは憲兵達の知るところとなり、この奇妙な出来事はその日の内に波紋を広げていく。そして一部の者達にとっては狼煙の合図でもあった。
「今のところ第一段階は順調のようです」
とん、と武人にしては傷一つ無い繊細な指が机を叩く。微動だにしなかった男達は詰めていた息を大きく吐いた。その拍子に唯一の光源である蝋燭の炎が壁に伸びた影を揺らめかせる。
「憲兵隊の第二分隊が動き出しました。接触は?」
「あそこの病院に勤めとる医者は信頼出来る。そいつ黄那言うんやけど、あいつならきっと気づくやろうさ。しかも篠目の友人」
「ササメ……ああ、憲兵隊の隊長でしたか」
「憲兵隊を率いているのが、俺達の知る篠目ならば味方だ」
「そういや、しょっちゅう王宮を抜け出してはあいつに捕まっとったな」
「あの者は裏道すらも熟知してますから、理経様の逃げる先々に先回りしてましたね。お陰でこちらは助かりましたが」
脱線していく主従二人を咳払いで黙らせると、リアナは接触は?ともう一度聞いた。
「古参の部下の一人が、詰め所を見張っている。篠目殿も知っているだろうから今日中には出来るはずだ。そっちは?」
「今のところ問題はありません。屋敷にいた研究者達は、今頃楽しい夢でも見ていることでしょうね」
クレハが用意した薬は強力な催眠効果のある薬で、持続性はかなり高い。実験に使われていた子供たちが入れられていた檻の中で、研究者達は楽しい夢の中だ。難点は幻覚のせいで生理的欲求に素直なところだろう。排泄物が垂れ流しで元から悪かった衛生状態は更に悪くなっている。薬が切れた時は悲惨だろうなと、その薬の実験をした時を思い出しリアナは遠い目をする。あの時は確か急遽お襁褓を穿かせたのだった。その間の一部始終を記録された哀れな被検体達は、黒歴史として今尚心に大きな傷を負っている。尤も、また新たなる実験のお陰でその歴史はどんどん積み重なっていくのだが。こうして竜騎士補佐という哀れなエリート達は日夜精神の研鑽を積んでいる。お陰で多少のことで動じない精神は手に入るが、果たしてそれで良いのだろうか? しかし、意外にも廃人になるのは殆どいない。代わりに入隊時の試験でほぼ全員が落ちることを考えれば適正のある人間しか居ないということなのだろう。落第した者の殆どが一年間は精神科医の世話になると聞く。
(彼等の精神構造についてはまた今度考えるとして)
「ん?なんか言ったか?」
「いいえ。それよりも、城の警備の方はどうですか?」
「協力者がいるにはいるんだがな……」
何とも歯切れの悪い返事である。あまり芳しくないことが判り、リアナは溜息を押し隠せない。
「兎に角、そちらを早く準備してください。既に下準備は終わっているのですから」
「ああ」
この緊張感のなさはなんなのだろう。リアナは肩を落とした。
自分でも段々クオリティーが下がってきている気がします。やっぱり突貫工事は駄目ですね。時間に余裕が出来たら手直ししたいと思います。




