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天と地と  作者: aaa_rabit
第四章
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首都潜入3

今回は短いです。

[改めましてご挨拶を。こちらは貴方にだけ聞こえています]


脳裏に赤城の声が直接響く。理経や大吾もこの場にいるのだが、彼等は映像の赤城と遣り取りをして注意を払う様子はない。リアナは了承の代わりに、映像へと瞼を軽く伏せた。


[ありがとうございます。殿下方の前では聞きにくいこともあるでしょう?]

[聞いたところで、その言葉を鵜呑みにするとでも?]


初対面の相手を信用しろというのが間違っている。それが特に対峙している側の懐刀とあっては尚更。


[確かに。…ですが、取引とあれば話は違うでしょう?]

[なにを材料にするつもりですか?]


リアナが今この場にいるのは決して善意ではない。当然だ、何の益もなく国が手を貸すはずがない。先行投資とでも言おうか、成功した暁には関税の値下げや貿易港の優先権などの利権をヴァーリアスに渡すことが秘密裏に結ばれている。失敗した時点でリアナ達の任務はロクロや上層部の暗殺に切り替わる手筈になっている。その時犯人に仕立て上げられるのは理経であることも。これに関しては特命で、勿論理経達には知らされていない内容である。


[この私自身を。生け贄が必要でしょう?それならば私は恰好の人材になり得る]

[別に貴方の同意をいただかなくても、捕らえるのは簡単です。それに貴方は表舞台に出ていない以上、その役割は適切ではありません]


 ヴァーリアスへの禍根を残さないためにも民衆には目に見える形で”悪”を示してやる必要がある。今回その役目はロクロで十分であり、赤城は必要ない。尤も見逃す気もさらさら無かったが。


[ならば作るだけですよ。この取引に同意していただけない場合は、国境での戦闘が始まるでしょうね。兵力差など一目瞭然ですが]

[最低ですね]


 何も知らない兵士達の命を溝に捨てるというのだ、この男は。


[どうとでも仰ってください。私にとってはそれ程重要なのですよ]


 表には出さないが、内心では怒りが沸点に達していた。このまま王宮まで転移して、この男の首を取るのも吝かではない。他者の命を平気で踏みにじる者など、国を動かすに値しない。


[……要求は?]


 返答によっては自身が手を汚す覚悟を決める。


[理経様の命の保証を。もしもの時には私の命を代償にしてください]

[……なぜそれを私に?]

[最悪の場合を考えただけのことです]


 確かに少し考えれば思いつくだろう。無意識の内に入っていた肩の力をリアナはふっと抜いた。なぜここまでするのかという疑問はあるが、先程の二人の遣り取りを見ていればかなり近しいことが判る。やり方は気に入らないが、取引内容に関しては悪くはない。


[いいでしょう。但し、貴方が裏切った場合は]

[構いませんよ。その時にはどのみち私の命も尽きるでしょうから。……あれがある限り]


 リアナは卓上に乗ったペンダントによく目を凝らし、納得した。恐らく理経や大吾はあれの正体を知らないのだろう。この世に二つと無いだろう、あのペンダントの意味を。それを赤城がリアナに教えたのは……。


[酔狂な人ですね、貴方は]

[それ程でもありませんよ。では互いの成功を祈って]


 ふわりとリアナの襟足を風が揺らしていった。



 それはまだ空が藍色に染まり、寝静まる深夜の出来事だった。突如、首都の南側で眩く光が迸る。幸いだったのは戦時中ということもあり、人々の目に映らなかったことだろう。ひっそりと、大胆に行われたそれを知る者はいない。


 夜陰に乗じて堂々と首都を駆け抜ける集団があった。一応警邏もいるはずなのだが、彼らが気づくことはない。いや、気付いたとしてもそれは複数の足音が聞こえるだけで、亡霊の仕業だと震える者こそいれど、姿を見たものは誰もいなかった。


 与り知らぬところで怪奇現象を起こした集団は、元正の南、住宅街からかなり離れた寂れた屋敷の前で動きを止めた。一番手を走っていた影が手を上げれば、後方に控えていた者達が無駄のない動きで活動を開始する。割れた人垣を小柄な体が歩いていく。何気ない動作でその手が振られるのと同時に、派手な爆音が響いた。ところが、木々で寝ているはずの鳥や虫たちはそのまま睡眠を貪っている。周囲に一切変化がないことを確かめて、彼らはその屋敷へ突入していった。



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