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天と地と  作者: aaa_rabit
第四章
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大人げない攻防

 エーテルメリデ砦の最上階に位置する司令室では竜騎士二人と漸く合流した大吾が集まっていた。ある者は目を閉じ、ある者は手を動かしたまま、独り言を呟いていた。実際には会話が成立しているのだが、この部屋を見れば三人揃って不気味に呟いているようにしか見えない。


「ではカラル副隊長と一緒にこちらへ来るわけですね」

『ああ。……というか既に向かっている』


 段々と語尾が尻すぼみになっていくのはこれまでの教育の賜物か、それとも無言を察してなのか。どちらにしろ、そう言う連絡はもっと早く言えといいたい。

「いつ頃着く予定ですか?」

『明日の朝には恐らく』


 ジュードの疑問にこれ幸いとヴァリアスは答える。


「では予定通りに」


 リアナが窓を閉めるのと同時に扉がノックされた。壁際で腕を組んでいた大吾が扉を開け、兵士は驚きつつも中へ入る。入れ替わりに大吾は出て行った。


「報告します。実は第65番隊が怪しい人物を捕獲したとかでこちらに来ているのですが……」


 兵士が困惑するのも無理はない。65番隊といえば数年前の某地方対抗戦以来、常に首位を争う隊としても有名である。しかし彼等の所属はここから少し離れたドラッド砦。兵士が困惑するのも仕方のないことだった。


「65番隊というとアックス・エディンの管轄だな。確か前の」

「そうです。彼等は派遣軍の一つで今はスフェンネル領に駐屯しているんですよ」

「領内で何かあったのか?」


 ジュードの目つきが鋭くなる。


「あの、では彼等を通しても?」

「俺が行く。案内してくれ」


 リアナが行こうとするのを押し留め、ジュードが名乗り出た。扉が閉められる直前に向けられた目にリアナは苦笑して見送る。足音が遠ざかっていくのを皮切りに、常に動いていた手を止めて背もたれに身を預けると目頭を指で揉む。


「お見通しでしたか」


 これでも隠しているつもりだったのですが……。


 どうしてか、義兄達にはリアナの仮面も通用しないらしい。恐らくこのまま仕事をしていれば、早晩監視付で無理矢理寝かされるのは過去の経験から判っている。それもきっちり6時間。リアナの驚異的な身体であればほんの一分だけでも十分休息出来るのだが、いかんせんそれは明らかに人としての常識を外れすぎている。


「折角なので侵入経路の最終確認でもしておきましょう」


 表面上は寝て見えてもリアナの思考が休まることはない。横になろうと立ち上がったが数歩のところで足を止めると、仮眠室のある部屋の奥ではなく通路へと通じる扉を開いた。




 顔見知りでもあるアックスから事情を聞いたジュードは、呆れともつかぬ様で、足元で気絶している男達を見下ろした。農民を装っているが、その足元に飾る足輪が身元を明かしている。


「こいつら素人か?」

「一応訓練は受けているようですが、身のこなしからして一般人とあまり変わりがありません」

「そしてこれか」


 ジュードは木炭のようなものを指差した。ようなというのは、それの放つ匂いが違う為である。そしてジュードはその匂いに憶えがあった。


「ジュード殿」

「ナナカ殿か。すまないがこれを見てくれないか」

「これは!」


 直ぐさま大吾が手にとって調べ始める。長年解毒剤の精製に関わってきた大吾だ、答えを出すのは早かった。


 男達を牢屋に運ばせると、それを厳重に封印してからジュードは自らリアナの元に運ぶ。先程の言葉が通じていれば寝ているだろう、可愛い義妹の寝顔を他の男に見せるわけがなかった。



 ところが、予想に反してリアナは仮眠室にも、そして執務室にもその姿はなかった。若干焦りを憶えながら、彼女の居そうな場所を手当たり次第に探していく。何時にない様子に、すれ違う兵士達は上官への挨拶も忘れていよいよ開戦なのか!と緊張させているのを知る由もない。


 漸く見つけたのは、ドラゴン用の厩舎だった。ルークーフェルが宝物を守るかのようにあどけなく眠る主を腹に抱えている。リュシーは羨ましそうに時折遠くから視線をやり、世話係であるリトはルークーフェルが大人しいのを幸いと掃除に余念がない。


 至福の時を過ごしていたルークーフェルは、無粋な足音が近づいてくることに気づき、億劫そうに片目を開いた。もしルークーフェルの腹にリアナが凭れていなかったら今頃邪魔者は即座に排除されていたことだろう。極力音を立てずに近づこうとするのを、ルークーフェルの長い尻尾が行く手を阻む。右に行こうとすれば薙ぎ払われ、左に行こうとすれば叩き潰さんと迫り。


「……おい」

「フンッ」


 これ見よがしに顔を背けるドラゴンに、ジュードも負けじと対抗するが、その守りは鉄壁だった。しかも、起こさないようにとリアナの周囲の音を排除しているのも腹立たしい。


「あんまり刺激してやるなよ、ジュード坊。火傷するぜ」


 それは比喩でも冗談でもなく、本当に火柱が上がる。ルークーフェルの気性の荒さはウェイアーすらも認めるほどだ。


「リトか。緊急の用件だ。ルークーフェルを何とかしてくれ」

「それはルーに言ってやんな。決めるのはそいつだ」


 渋々視線を戻したジュードだが、ルークーフェルの紫色の目を見れば、通す気が全くないのは一目瞭然だ。


 どうしたものか。


 思案していると、異変に気づいたリアナが目を覚ます。


「ん……?あれ」


 即座に魔術に気づいたリアナが気怠げに腕を振っていとも簡単に解除してしまう。何気ない動作が実はかなり高度であるのだが、ジュードは今更驚くことはない。


「どうかなさいましたか?」

「ん?ああ、実はな」


 ここへやって来た理由を思い出し、ジュードは手短に説明する。じゃれつくルークーフェルをかまいながら、リアナは話を聞いていた。


「……胡散臭い」


 あまりにもタイミングが良すぎる。


「リトル?」

「いえ、何でもありません。では、僕は直ぐに知らせを送ります」

「頼む」


 違和感に気づきながらも、リアナは追及を避けた。上空を一瞥し、前を行くジュードに呼ばれて駆けていく。



「けけっ。随分と丸くなっちまったようだな、おい」

「お黙りなさい。お前といると虫酸が走ります」

「俺だって同意だ。どっかの馬鹿がヘマをやらかすから、こっちの存在がばれかけたじゃねーか」

「……神も変わるものだな」

「無視すんなよ、おい」


 遙か上空より見下ろす二対は、僅かな羽音を立てて飛び去った。


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