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天と地と  作者: aaa_rabit
第四章
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睨み合い

 眼下では今も尚、両者が睨み合いを利かせながら緊張した状態が続いている。それを見下ろし、窓ガラスに映る自分の顔を見て、リアナは拳を握り締めた。


 恐れは、ない。


 当然だ。嘗てはこの空気に馴染み、淡々と何も感じることもなくただ機械的に腕を振るっていた。己が開いた赤き道に何も思うことはなく、ただそれを当たり前と受け止めていた過去。

 それが今は悲しいと思えるなんて不思議だ。

 小さな数にしか見えない兵士達にも大切な人がいる。それを壊すのが戦争。


「あまりにも愚かでそして……」


 愛おしい。


 空気を震わすことなく、リアナの心に消えることない一滴の雫が落ちた。


「異常は?」

「今のところは特に。あちらも出方を窺っているようです」


 リアナの視力では、川を挟んだトートス兵士の一人一人の顔が明確に確認出来る。未だ動きを見せることのない川向こうから視線を外し、リアナは振り返った。そこにはマントを翻したジュードが入室してくるところだった。いつ衝突するかも判らないので、その身体は鎧を纏っている。


「任務、お疲れ様でした。彼等は何時来られそうですか?」

「父上に掛け合ってみたが、主要な馬は全て出払っていてな。隣のシューテン男爵領から届くまでは動けん」

「民が優先されるのは仕方のないことです。ですが男爵の馬なら明後日には公爵領を出発出来るでしょうね」


 シューテン男爵領といえば、名馬で有名なところだ。そこを治める男爵家は一族全員が無類の馬好きであり、代々皇室に献上する役目を負っている。養子として引き取られて直ぐに贈られたリアナの馬もシューテン生まれだ。


「皇都はどうなっている?」

「順調ですよ。そろそろリュシーが来る頃だと……ああ、来ましたね」


 急に空が翳った。俄に騒がしくなる砦内にリューグは一つ息を吐いて屋上へ向かった。ドラゴンといえば帝国を最強と言わしめる象徴であり、それが砦に到着したことで兵士達の志気が一気に上昇する。再び視線を遠くへやったリアナは、動揺する様がつぶさに伝わり、喉の奥で微かに笑った。しかし、即座に顔を引き締めると自身も屋上へ上がる。


 そこには今にも踏み潰さんばかりにジュードへ頭を擦りつけるリュシーと、窶れたようなルークーフェルがいた。二体のドラゴンの間では、疲労困憊の体を浮かべた世話係、リトがへたり込んでいる。道中で様々な遣り取りがあったのだろうと、労いを込めてルークーフェルの首筋を撫でてやる。


「ご苦労様、ルー。リトもお疲れ様です。到着早々で申し訳ないですが、厩舎の確認をお願い出来ますか?」

「本当にお疲れ様だ。リュシーが煩くって仕方ねぇ。……おい、ジュード坊。暫くおめぇがリュシーの面倒を見ろよ。ずっと寂しがってたんだぜ」

「すまんな。世話になった」

「ふん。……ま、仕事だしな。それより坊主、お前に手紙だ。ルーは連れてくぜ」

 不満げに鳴きながらもルークーフェルは手綱を引かれたリュシーの後に続いて、空を滑空していった。




「竜騎士、だと?」


 もたらされた報告書を握り潰し、男は一層醜悪な顔を歪ませた。その怒りを間近に受けた哀れな男は、膝をついたまま身を震わせる。


「巫山戯おって。直ぐに役立たずを処分せよ!判ったら出て行け」


 暗がりに消えたのを見計らって、男は手摺に拳を振り下ろした。痛みよりも先に怒りが沸き立つ。


「一体どういうことだ?あやつらは何をしている?」


 男が計画したシナリオ通りならば、今頃帝国内は謎の流行病でパニックに陥っているはずで、とても国境に兵士や竜騎士を回す余裕など無いはずだ。だが実際には、さしたる混乱もなく国境での防備に徹している。


「赤城!赤城はどこだ!」

「ここに」

「おお。赤城よ、手の者はまだ残っておろうの?新たにあれを撒き散らすのだ。次は蜥蜴共が邪魔をする前に」

「御意」


 深い溜息を押し隠し、赤城と呼ばれた男は暗闇へと消えた。


2012.1.25誤字訂正

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