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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
56/72

里帰り4

遅くなりまして、大変申し訳ありません。

 今日はよくよく来客が訪れる日らしい。奇妙に静まり返った宿屋の外から入ってきた人物は、リアナにとって最も近しい人であった。簡素な衣服だがよく見れば上質な物で仕立てられており、何より彼が醸しだす空気が一般人とはかけ離れている。気づいたリアナとシャックスが一番に膝をつき、兵士達もその場で跪く。村人たちも困惑しながらもそれに続いた。


「皆頭を上げてくれ。今日は様子を見に寄っただけだ」


 苦笑する男の後ろから現れた帯剣した男が、守るようにして前に出る。


「ここの責任者は誰だ?こちらの若君はリューグ・ゾア・スフェンネル様であらせられる」

「私が責任者のマルーカ・ウェルチス中佐であります、ウェイザー子爵様」


 敬礼するマルーカに視線を向けたリューグは目を細める。正確にはその隣に控える人物を、だが。当然ながらシェイスも二人の存在に気づいており、主君の意図を組んでひとつ頷く。


「ではマルーカ中佐。こちらで若君の案内を頼みたい。そちらの竜騎士殿とお前も来るように」


 兄の冷ややかな視線を浴びてシャックスは萎縮する。一応リアナもシェイスの弟扱いになるのだが、流石に呼び捨てするには躊躇われたのか。呼ばれるまま三人は大人しく外に出た。




 村長とマルーカ女史がリューグに説明している間、三人は距離を開けて護衛していた。遮蔽物もなく遠くまで見通せるので、問題があればすぐに駆けつけられるという判断からだ。


「それでどうしてお前がここにいる?リトル殿も、です」

「俺は護衛で」

「僕は休暇中です」


 リアナのことは竜騎士として扱うことに決めたらしい。


「そんな話は聞いておりませんが、いつ頃こちらへ?」

「今朝ですよ。昨晩のうちに皇都を出て」

「つまりドラゴンに乗ってきたと」

「はい」


 押し黙ってしまったシェイスに感づかれただろうかと内心ヒヤヒヤだ。これでも竜騎士としている以上、任務に関して口を開く訳にはいかない。恐らくリューグに報告するだろうから、時間の問題だが。公爵家が所有する情報網は侮れない。況して公爵領ならば尚更だ。


「リューグ様に指示を仰ぎましょう。それまでは大人しくしていてください」

「僕はまだ用事が」

「リアナ様」


 リアナは渋々口を閉じた。休暇中はリトルであってリトルでない。つまり家長である公爵やその代理であるリューグに逆らえない立場である。重い溜息を逃しつつ、リアナは足を前に動かした。




 暫く黙々と進んでいたリアナだが、見覚えのある道に目を瞬いた。ある時は夕暮れの中を兄と手を繋いで歩き、またある時は父に背負われて。村の中心と繋がるこの道を毎朝往復して水を汲みに行ったこともある。忘れるはずもない。この先には。


「どうして……」


 歩みは段々と遅くなり、そして止まる。一家が暮らすには少々大きすぎる家に何度も修繕された跡のある古い納屋。小さな囲いの中には動物たちが放され、思い思いに過ごしている。


「リトル殿もこちらへ」


 声が届くには少々困難な距離でも、風が正しくリアナの耳に言葉を届ける。リューグの真意が読めなくて、戸惑うような途方に暮れたような目でリアナは見つめていた。柔和な面持ちのまま促され、半ば反射的に距離を詰める。


「では村長。私と彼で説明をしてきます」

「若様自らご足労いただいて本当にすみません」

「こちらこそ、報告が遅くなりまして。ミュリエル夫妻や奥方に悪いことをしてしまいました」


 話から察するに、どうやら”保護”されている村人の説明をするらしい。もしかすると今日はそのために各地を回っていたのかもしれない。


「行きましょうか」

「……はい」


 村の一軒家にしては仰々しい門を開け、リューグに続いてリアナもくぐった。二人以外は外で待機のようだ。扉を叩こうとしたところでリューグの裾を引く。


「お義兄様……」

「大丈夫ですよ。それに、私は貴方からご両親を奪いたかったわけではありません」

「知って」

「いるに決まっているでしょう。大切な義妹(いもうと)の兄君ですから」


 ならば最初から知っていたのだ。フレイを”保護”して以来、リアナが沈んでいることも、悩んでいることも。


「貴方は少し考えすぎですよ。二つの家族があったっていいじゃありませんか。その程度では我が家を揺るがすなど不可能です」

「違います。そうじゃ、ない」


 頑是ない子供のようにひたすら首を横に振るリアナにリューグがそっと両頬を包んだ。それは家族だけに見せる特別な笑顔で、だからこそリアナは逃げられない。


「たまには我儘になってもいいんだよ。それに……少しくらい頼ってくれないと兄としての威厳が立たないだろう?」


 リューグにしては少し乱暴に頭を撫で、扉をノックした。複雑な思いを抱えながら、リアナは俯いていた顔を上げた。


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