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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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虜囚 後編

ラストじゃー!

 夜だというのに元気一杯なルークーフェルを撫で、ジュードから失敬したハンカチを嗅がせる。もの凄く嫌そうに首を振っていたが、リアナの何度目かのお願いに漸く折れて、匂いを憶えさせた。


「ごめんね、ルー」

「キュキュゥ。グルルルル(主の頼みならば仕方ない。あ奴は何だ?)」


 少し離れて待っている大吾を威嚇するようにルークーフェルが喉を鳴らす。やはり他のドラゴンに頼めば良かっただろうか、いやでもそれで拗ねられても困る、などとリアナは考えていた。


「落ち着いて?今回はあの人も乗せてほしいの」

「グルゥ(断る)」


 にべもなくそっぽを向くルークーフェル。勿論その際大吾を睨みつけることを忘れない。


「リ、リトル殿」

「絶対にそこから動かないでくださいね。喰われますよ。……そう。仕方ないか。他のドラゴンに頼むよ」


 別の厩舎へ行こうとしたリアナを、ルークーフェルが裾を噛んで阻止する。行かないでとばかりにきゅうきゅう啼く。


「本当はルーにお願いしたいんだけどな。ルーが一番早いし、僕の相棒だからね。でも、今回はあの人も連れて行く必要があるんだ。だから。ね?」

 悲しそうなリアナを見て、ルークーフェルの天秤がぐらぐらと揺れる。結局鼻を鳴らしながらも、ルークーフェルから許可が下りた。「もう大丈夫ですよ、大吾さん。彼が僕の相棒、ルークーフェルです」


 恐る恐る近づいてみても、動く様子がないことに安心して漸く全貌を見回す余裕が生まれる。


「綺麗だな」


 ドラゴンを見るのは初めてだ。月の光が鱗を幻想的に輝かせる。その美しさに感嘆の息を漏らし、神々しさに畏敬の念が込み上げる。自然に頭を下げる大吾に、ルークーフェルの機嫌が少しだけ良くなった。


「どうぞ、大吾さん」

「ああ」


 振り落とされないか不安に思いながらも胴体に足をかけて跨る。リアナは軽く地面を蹴って跳躍した。馬と違って鞍などはなく、振動が直接伝わってくる。二人を乗せて立ち上がったルークーフェルに対して、大吾の身体が不安定に揺れる。


「しっかり僕に掴まってください。放したら落ちますから」


 それが決して脅しでないことがよく判る。少年にしては細すぎる身体にしっかりと抱きついた。リアナはルークーフェルに軽く手を添えているだけだが。


「行きます!」


 ぴんと翼を伸ばしたルークーフェルが力強く地面を蹴れば、地面から吹き付ける風によって瞬く間に上空へと上がっていく。夜間なので下に広がるのはひたすら闇ばかりだが、昼間に見れば家が米粒ほどの大きさであっという間に遠ざかっていく光景が見れただろう。


 風によって守られているために二人が周囲の影響を受けることはほとんど無い。快適に保たれた温度に目蓋が下がっていくのを感じる。


「眠っていても大丈夫ですよ」

「流石にそこまで甘えるわけには」

「心配しなくても落としたりしませんよ。もし落ちてもちゃんと拾いますから」

「……遠慮しておく」


 大吾はリトルという人物を信用はしていたが、信頼するべきではないと本能的に警戒していた。今は利害が一致するために協力関係にあるが、無くなればどう転がるか判らない。それが外見と中身が一致しないからなのか、確かに大吾は恐れていた。


 互いの信念が確固したものであるからだろうか、こうして長時間自分と接していながらも警戒を解かない大吾をリアナは面白いと感じている。敵でも味方でもない曖昧な位置にいるからこその態度なのだろうが、それはリアナにとって新鮮で、だから気になるのかもしれない。


 どれだけ経っただろうか。暗闇ですら難なく見通せるリアナは、目的地が近いことを知った。夜明けまでは大分あるようだが、時間にして他のドラゴンの五分の一程度で踏破してしまうルークーフェルはやはり規格外である。そろそろ声をかけるかというところで、風がルークーフェルの声を運んできた。


「リューグ様を?うん、頼むよ。繋いでくれる?」


 ルークーフェルがリューグの場所を特定したらしい。ドラゴンの嗅覚は鋭いので、かなり遠くからでも探し人を見つけることが出来るのが利点だ。風から送られてくる状況にリアナの眉根が段々と寄っていく。


「どうした?」


 後ろが静かなので眠っているのかと思ったが、どうやら起きていたらしい。手短に説明している最中にルークーフェルから用意が整ったことを教えられる。


「少しだけ静かにお願いします……リューグ様。聞こえますか?」

『リアナ?』

「良かった。ご無事ですね。直ぐにそちらに向かいます」

『今から!?』


 大吾は魔術という存在は知っていたが、初めてその感覚を目にして驚いていた。これはリアナが大吾にも聞こえるようにしているからなのだが、どこからか男の声が聞こえてくるのだ。恐らくジュードという竜騎士のものだろう。


「リトル殿。少し良いか?」

「何です?」

「そこに狐顔をした文官風の優男がいないか聞いてくれ。私の部下で、不在を任せているんだ」

「判りました……ジュード様、そこに狐顔をした文官風の優男はいますか?」

『ああ、いる』

「ならば私達が着くまでは大丈夫だろう。緑破ろくはの奴なら手荒な真似はしないはずだ」


 当に尋問中の状態であったため、リアナはそれを聞いて一安心した。目礼し、リアナは正面を向く。既に場所は捉えている。


「これから大吾という方をそちらに送ります。後は全て彼に任せてください」


 名前の響きでトートス人だと判ったのだろう。訝しげな様子が伝わってくる。


『信用できるのか?』

「ええ。では、公爵領にてお待ちしています」


 ふつりと会話が途切れる。リアナは予め用意していたバッグを大吾に手渡した。


「全て必要と思われるものはこの中に入っています。ジュード様には中に入っている制服と手紙をお願いします」

「わかった。ここまで送ってくれたこと、礼を言う」

「序でですから。では合図をしたら飛び降りてください」

「は?」


 耳がおかしくなったのだろうか。この高さから飛び降りろと?


 リアナは笑顔で頷いた。大吾の顔が音を立てて青ざめたのは言うまでもない。


「む、無理だ」

「じゃあ僕が落としてあげます。地上まではきちんと送り届けますからご安心を。……ルー」


 心得たようにルークーフェルが世界を揺らさんばかりに大きく咆哮した。至近距離で聞いたために鼓膜が破れそうだ。咄嗟に耳を塞ごうとしたところで、急に暖かな感触が消える。月の光を反射して輝くドラゴンの上ではリトルが手を振りながら遠ざかっていく。それはつまり、彼が空へと放り出された訳で。暗闇に絶叫が響いた。





 地面の感触を感じながら、大吾は尻餅をついたまま荒い息を吐いた。冗談でもなく死ぬかと思った。地上にぶつかる直前にふわりと身体が浮くような感触がして、それまでの落下が無かったように地面に着地したのだが、予備知識もなく落とされたあの恐怖は一生忘れないだろう。


「やることが無茶苦茶だ」


 せめて言ってくれれば構えることが出来たものを、と小さな竜騎士を恨む。構えたところであまり違いはなかっただろうが。四肢に力が戻ってきたところで、数人の足音が聞こえてくる。


 無様な姿を見られなくてよかった。


 驚きに目を見開く部下達に、大吾はひらりと手を振った。


暫くテスト勉強のために一月ほど休止します。次の更新は開くかと思われますが、どうか見捨てないでやってください。

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