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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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虜囚 前編

三日連続投稿です。第一弾。

「あ、ジュードさん。次はこっちをお願いします」

「ああ」

「さすがですね。いつ見ても不思議です」


 山賊達の言われるまま、ジュードは薪に火をつける。当初は驚いていたものだが、今では感心するだけだ。トートスには魔術というものが広がっておらずとても珍しいらしい。その一方で、北の魔術大国レイヴェスティンと国境を唯一接する帝国は、魔術に対する造詣が深かった。これは帝国にも言えることで、南部に行くほど魔術は怪しげな術として敬遠されがちである。


「これくらい習えば誰でも出来る」

「え、そうなんですか?もっとこう、滝から落ちる修行とか、火の中を歩く修行とか」

「どこの奇術師だ……」

「魔術師ってそういうものでしょう」


 つまり、トートスでは大半の人間がそう認識しているのだろう。既に何度も交わされた遣り取りなので、説明するのも諦めている。口で言ったところで所詮理解は出来ないのだから。


 ジュードがこうして山賊達の手伝いをしている理由。それは意識をなくした後にまで戻る。




 冷たい水滴で目を覚ましたジュードは奥歯で呻き声を噛み締めながら、目を開けた。首筋の鈍痛が何者かによって意識を刈り取られたことを示している。


 とんだ失態だ。接近を許すなんて、やはり鈍っているとしか思えない。皇都に戻ったらリアナに鍛錬に付き合って貰おうと心に決めて、腹筋を使って上体を起こす。勿論周囲に気配がないのを確認した上で、だ。身体に異常がないかを確かめてから、ぼっと拳大くらいの炎を掌に出して周りを照らし出す。その際縛られていた手首の縄を焼き切るのを忘れない。時折鍾乳石を伝った水が地面を叩き、その度に振り返る己に苦笑する。


「一応囚われているのだろうな」


 目に見える範囲に格子がないので判りづらいが、遠くで灯りが漏れており、黒い影が二つほど揺らめいている。風の出入り口もその一箇所しかないので、恐らく外に出るにはそこしかないのだろう。どれだけ広い牢屋だと思わないでもないが、少しでも物音を出せば大きく反響するので、監視するには問題ないだろうが。


「さてどうしたものか」


 余談だがこの独り言は、当然ながら監視者の耳には届かない。風を操って声をブロックしているからだ。ジュード自身は水属性の使い手だが、この程度には風の魔術を使うことが出来る。


「武器、は取られているな。見張りは二人。恐らく入り組んでいて出口は分からない。……脱出するにしても情報が足りないな」


 口にすることで頭の中を一つずつ整理していく。特に外傷も無く、手荒にされた様子はない。相手の出方が解らない以上、大人しくしていた方が得策だろうか。


 迷った末に、ジュードは見張りに声をかけてみることにした。




「おい」


 突然声をかけられた見張りの山賊は飛び上がらんばかりに驚き、もう一人は驚きもそこそこに剣を構えた。ジュードは両手を上げて敵意がないことを示す。


「どうやって縄を解いた」

「紐が緩んでいたからだ。それよりも、お前達の責任者と話がしたい」


 少しでも与える情報は少ない方がいいと、魔術のことは隠す。二人は疑わしげに目を交わしていたが、ひとまず抵抗する気はないと悟ったのだろう。警戒を解かないまま、剣を抜いている方が相方に呼びに行かせた。


「大人しくしていろよ。今、呼びに行っている」

「ああ、すまないな」


 律儀に礼を返すと、ジュードはその場に座り込んだ。山賊の困惑が伝わってきて、喉の奥で微かに笑う。


 程なくして三人分の足音が帰ってきた。先頭を歩いてきた柔和な面立ちの青年は、傍らの青年に縄をかけ直すよう指示した。縄抜けできないよう目覚めた時よりもきつめに拘束され、先程寝かされていた場所まで連れて行かれた。左右からは抜き身の剣がジュードの首筋を狙っており、少しでも動かせば簡単に殺されるだろう。


「恐くないのですか?」


 この場に不釣り合いな笑顔をたたえた青年が、ジュードの物怖じしない姿に切れ長の目を更に細くした。


「この程度では拘束されている内に入らんからな」


 ジュードの台詞に左右の男達が気色ばみ、青年が片手を上げてそれを制止した。刃先が当たって少し傷ついたのだろうか、首筋がひりひりする。


「それが事実なら、貴方は相当強いようだ。簡潔に聞きましょう。貴方はどこの手の者ですか?」

「この国だ」


 あまりにも拍子抜けだったのか、青年は呆れた様子で、青年の両脇に控えていた男達がそれぞれ声を荒げる。


「この期に及んで冗談は止せ」

「どうせロクロの手先だろう!」


 事実なんだが。


 別に彼等に自分の身分を隠す必要はないのだが、道中の危険性を考えて身分を明かす物を何も持ってこなかったのが悔やまれる。


「だそうですが?」

「俺に話を振るな」

「仮に貴方がこの国の者だとして、なぜ今更ここに?スフェンネル公爵とは既に話もついているはずですが」


 ここへ来る少し前にリアナから聞いた、山賊狩りの話を思い出す。


「今回公爵は関係ない……っ!?リアナ?」


 突然虚空に向けて大声を出すジュードに男達は瞬時に警戒した。しかし一向に気配は見えず焦る男達を前にして、ジュードが一方的に会話を成立させている。


「今から!?……ああ、いる。……信用できるのか?……だが、あ、おい」

「貴様!一体誰と会話していた」

「答えろ」


 考え込むように沈黙してしまったジュードに、男達が殺気を叩きつける。その程度はジュードにとってそよ風も同然だったが意識を戻すには有効だった。


「……義妹だ。今からここに来るらしい」

「ちっ。新手か」

「先輩、この男がこれ以上呼ぶ前に処分を」


 うっかり義妹と言ってしまったジュードが内心頭を抱えているとも知らず、男達は恐慌状態に陥る。彼等を支える二人が不在の状況では心配なのも分かるが、もう少し落ち着いてくれないだろうかと青年は思った。


「……来た」


 ジュードの呟きと同時に、脳髄に直接響くような咆哮が上がった。




 目隠しをして縄をかけたジュードを連れて入り口へと向かった男達は、予想外の人物の姿に目を点にした。最悪ジュードを人質に、と考えていたのだが、どうやら必要はないらしい。


「隊長……?」

「大吾隊長!」

「お前達……今すぐその方を解放しろ!」

「は?」

「へ?」


 自分達の敬愛する隊長に一喝され、慌てる男達を尻目にジュードは深々と息を吐いた。一番動揺の少なかった青年が、即座にジュードの縄と目隠しを取る。


 大吾、と呼ばれた男はジュードの前に来ると頭を下げた。リアナとの遣り取りで何となく想像はついていたので、肩を叩いて顔を上げさせる。


「貴殿がジュード殿、だな。私は大吾=ナナカと申す。リトル殿より預かってきたものだ」


 これを、と差し出された手紙と己の制服を受け取り、その場で即座に封を解いた。大吾な既に内容を説明されているらしく、ジュードの見張りをしていた二人に知らせを告げに行かせ、残りの疑わしげにジュードを見る男達へと簡単に事情を説明している。どうやらあの三人は、比較的上の人間なのだろう。


「事情は理解した。暫くはここに邪魔する」

「かたじけない」


 そして冒頭に戻る。


はい、全然話わかんねー、ですね。

次で話が繋がると思います。というか、繋がらないと私が困る。

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