明日は槍が降る?
前回の補完です。短いですが、中途半端になるので一旦切ります。
ヴァリアスは戦々恐々としながら、機嫌良く筆を滑らせるリトルを見ていた。最近苛々している様子であったがそれはすっかり形を潜め、今は驚くほど機嫌がいい。美少年に似合わぬ薄い隈は短時間でなくなり、正に元気溌剌であった。
さて何があったのだろうか?
報告に来た武官達ですら、奇妙な空気に何とも言えない顔をしている。リトルの部下に至っては、雄叫びをあげて走って行ってしまった。天変地異の前触れだと触れ回りながら。
この執務室の主は一応ヴァリアスなのだが、居心地悪いことこの上ない。何とかしてくれという他力本願な願いを聞き入れる勇者などいるはずもなく、既に外は薄暮に染まっていた。昼休憩を終えた時からこの状態だと考えれば、一日の四分の一を過ごしたことになる。
上機嫌に帰り支度を始めているリトルに、ヴァリアスは今後の平穏を取り戻すべく手招いた。
「どうしました、ヴァリー?」
「それはこっちの台詞だ。お前、午からずっと調子がおかしいだろう」
「そうでしょうか?因みにどのように」
「鼻歌でも歌い出さんばかりに上機嫌だった」
それのどこがおかしいのだろうか?リアナは首を捻ったが、彼女がもたらす周囲への影響など知るはずもない。
「いけなかったでしょうか?」
困り顔のリトルに、ヴァリアスは誤解を与えてしまったと悟る。出会った当初に時折見られた無表情からは想像もつかないほど喜怒哀楽を見せるリトルに、寧ろ彼は喜ばしく思っていた。彼は密かにリトルの感情の起伏が少ないことを案じていたのだ。今では滅多に見ることはないが、あの等身大人形のような姿はなるべくしてほしくない。偽りでも笑顔を浮かべている方がマシだ。
「あー、いいんだが……。いや、良くないのか?まぁ、お前が上機嫌なのはいいことなんだが」
「つまり?」
「その原因は何だ?気になって落ち着かん」
黙ってしまったリトルに、ヴァリアスは自分が発した内容を吟味して、急激に温度が上がるのを感じた。
そもそもなぜ、俺がリトルの機嫌に一喜一憂せねばならんのだ?大体これまでだって似たようなことがあったじゃないか。その時は普通に過ごしていたはずだ。これ幸いと仕事の軽減を図ることだって出来たはず。機嫌の良さとは裏腹に毎回すげなく却下されているが。
「いや!これは断じてお前が気になるとかじゃないぞ。仕事の効率を考えてだな……」
「……そうですか」
目を伏せるリトルに罪悪感をひしひしと感じる。
「あ、ああ、そうだ。言わないお前が悪い」
断定するヴァリアスに、やはりリトルは頷くのみ。後悔先に立たず。すっかり自己嫌悪の嵐に陥ったヴァリアスは頭を抱え込むものの、リトルはあくまで報告のように出来事を掻い摘んで話し、そして落ち着いた様子で出て行った。
すれ違い主従の巻です。ていうか、ヴァリアスさん意識しすぎです。