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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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動き出す歯車

お待たせしました。やっと本編です。

 廊下を歩きながら、リアナ達は副官からもたらされた情報に驚愕していた。根も葉もない噂だが、確実に反帝国の動きが広まっている。国境付近に当たるスフェンネル領へ大規模な捜索隊を出さなくて正解だった。敏感になっているトートスに刺激を与えるのは得策ではない。


「お帰りなさい、ロードさん」

「聞いてるな。酷い」


 旅装も解かずに執務机に向かっているのは竜騎士の一人、ロード。国外の情報を集めるのが彼の役目で、自身も情報収集によく出向いているのでその姿を見る確率は限りなく低い。


「”三年前の疫病は帝国がもたらしたものだ。帝国は東大陸の利権を狙ってトートスを属国にしようとしている”でしたよね。一体どこからそんな噂が」


 東大陸と唯一貿易をしているのがトートスだ。その貿易でトートスは莫大な富を得ている。


「発信源、王宮。信憑性が増している」

「疫病なんて流行らせなくても、半分の戦力があれば七日で制圧できるんですけどね。三年経っても動いていないのに、民衆は信じているんですか」

「王、煽動」

「絶大な支持を受けてますからね。自作自演の英雄気取りが仇になったか」

「他国の動きは?」

「静観」

「西の動向に注意してください。混乱に乗じて攻めてくるかもしれません」

「了解。リトル休養」


 虚をつかれたリアナに、ロードは視線を書類に落としたままだ。ありがとうございますと苦笑して、リアナは出て行く。真紅の双眸がその背中をじっと見つめていた。




 トートスの動きは既に皇帝の耳にも入っているはずだ。今日か明日にでも招集がかかるだろう。即刻資料を作成しなければならないし、ジュードから連絡がないのも気になる。とても休める状態ではない。


「見抜かれてましたね」


 通常業務に加え、今回の指揮を執っている。ヴァリアスが役に立たないので、その分皺寄せを食らっている。ここ数日は、食事を摂るために公爵邸へ帰り、持ち帰った仕事を明け方まで処理しているのでほとんど眠っていなかった。常人に比べれば遙かに丈夫な身体とはいえ、精神は疲弊する。


「あまり人のことを言えませんね」


 ヴァリアスのように仕事にまで影響が出ていないのは、ある意味奇跡だが。首を一つ振って、地下牢へと足を向けた。




「こんにちは」


 鉄格子を挟んでかけられた声に、フレイは穏やかにこんにちはと返した。囚われているには違いないが、相手は国を護る竜騎士で、教えられる範囲内で事情は説明されている。囚人としては破格の対応であったし、彼等が気を許すのも時間の問題だった。その中でも、このリトルという少年は公爵家に引き取られていった妹にそっくりで、度々様子を見に来ることもあり、フレイは親しみを感じている。


「やぁ、久しぶり。今日はどうした?」


 タメ口を聞くのも畏れ多いと最初は拒否をしたが、年下であることと本人の強い希望でフレイは普通に話す。


「いえ、様子を見に来ただけです。不自由はありませんか?」

「外に出たいなとは思うけど。こればっかりは仕方ない」

「すみません。まだ暫く帰してあげられないそうにないです」

「リトル君のせいじゃないって。気にするなよ」


 牢屋といっても、普通の部屋と変わらない。官舎を出なければ自由を保証されているし、衣食住はしっかり支給されている。山賊を手伝ったのだから刑に処されてもおかしくないのにだ。恐縮しきりのリトルに中へと促す。ポットからお茶を注いでやった。カップを両手で持ちながら飲むリトルに、自然と頬が緩む。


 王都で流行の芸人の話や、故郷の話に花を咲かせている内に、あっという間に時間は過ぎる。遠くから呼ぶ声に、リトルは立ち上がった。


「そろそろお暇しますね。お邪魔しました」

「ああ、また。程々に休憩しろよ」

「え?」

「顔色が悪い。リトル君は俺の妹そっくりだからさ。なんとなく判るんだ」


 驚いて目を瞠るリトルの頭を撫でてやれば俯いてしまった。気安すぎただろうかと手を離す。


「あー、ごめん。竜騎士様にこんなことしたらまずいよな」


 なんせ、相手はエリート中のエリートだ。本来ならこうして気軽に話せる立場ではない。それは偏にリトルが許しているからであって、あまりに馴れ馴れしくしすぎだ。14の少年にすることではないだろう。


「い、いえ。失礼します」


 小さく頭を下げ、走って行ってしまった。この程度で罰せられることはないだろうが、失敗したとフレイは頭を抱えた。




 小太りの男が、煩わしそうに玉座へと腰掛けていた。苛々と肘掛けに指を打ちながら男は何度も足を組み直す。


「報告はまだか」

「まだ来ておりません。帝国に情報が漏れたのではないでしょうか」

「王宮に潜らせている手の者から報告はない。奴等は西の情勢で手一杯だろうよ」

「そんなに上手く事が進むでしょうか?」

「どういうことだ?」


 脇に控える長髪の男を見やり、再び男は視線を前に戻した。象徴である青の絨毯が、全てを呑みこまんとする深海のように見える。男はぶるりと肥えた身体を震わせた。


「私の計画は完璧だ。6年も前から綿密な計画を立ててきたのだ。邪魔者を排し、馬鹿な民衆を味方につけ、私の王位は盤石だ。今更過去の遺物が出てきたところでどうにもならん」


 どこから完璧などという言葉が出てくるのか不思議に思った。しかし問うたところで詮無きこと。既に事態は動き出している。この男を終焉に導く歯車が。


 偽りの王へと頭を下げ、彼は長いローブを翻して玉座を後にした。


この続きはまだ考えていないので、またも更新が開くかと。テスト近いですし、二月中旬くらいまで更新は少なくなると思います。

ごめんなさい。

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