正月企画
リアナ「皆様、あけましておめでとうございます!」
ヴァリアス「今年もよろしく頼む」
リアナ「ヴァリー!お仕事はどうしたんですか?(黒い微笑み)」
ジュード「え?あ、いや。その、だな」
リアナ「ふふ。クリスマスに長期休暇を取りやがってくれましたから、年末までの仕事が終われなくて、休暇中の僕が急遽呼び出され、なのに当の本人はさぼっていると……(じーっ)」
ヴァリアス「(目が据わっている!?)きゅ、休憩中だ。ずっと座りっぱなしで疲れたんだ」
リアナ「休憩中といえば、ほんの小一時間ほど前にも取られたはずですけど」
ヴァリアス「う。だが、お前だって取っているじゃないか」
リアナ「僕は仕方なくですよ。残りはヴァリーの裁可待ちですので」
ヴァリアス「……すみません」
リアナ「謝るくらいなら、早急に机に戻って仕事をしてください」
ぱたぱたと廊下を走り去る音。
リアナ「……ふぅ。全く、ヴァリーといい作者といい、どうしてこうも碌でもない連中が多いのでしょうね」
作者「え、だってインスピレーションがねぇ……」
リアナ「言い訳は結構です」
作者「(て、手厳しい…)いや、だって、こういう企画ものってなんか憧れでして」
リアナ「本編もまともに書けないのに、企画ものなんて論外でしょうに(溜息)」
作者「ごめんなさい☆」
リアナ「(一歩退いて)気持ち悪いですわ」
作者「ひどっ!ていうかキャラ崩れてる」
リアナ「誰のせいだと……(にっこり)」
作者「(ひたすら土下座)」
………………………………
リアナ「それで、反省しましたか?」
作者「え?えーっと。あはは」
リアナ「笑って誤魔化しても無駄です。どうせ他毎に現を抜かしているのでしょう?」
作者「そんなことは」
リアナ「某連載小説の更新速度が速いそうですけど(ぽそっ)」
作者「……えへ」
リアナ「(更に一歩退く)」
作者「えーっと、なんか傷ついちゃうな」
リアナ「それをさせる貴方が悪いのでしょう!」
作者「……それもそうですね。すいやせん」
リアナ「謝罪を口にすれば許されるとでも?」
作者「思ってますよ。それが何か?(ふふん)」
リアナ「はぁ。開き直るなんてなんて質の悪い……(頭を振って)」
作者「まぁまぁ。そんな若い頃から苦労しすぎると胃潰瘍になっちゃうぞ」
リアナ「誰のせいだと、誰の?」
作者「んと、ヴァリアス君、かな」
リアナ「確かにヴァリーも大きな要因の一つではありますが、それ以上に貴方のせいでしょうに。それで?本編は何時更新されるのかしら」
作者「(ちっ。混ぜっ返すなよ)……年内」
リアナ「何時、かしら?」
作者「だから年n」
リアナ「(懐から怪しげな小瓶を取り出す)実はこれ、クレハさんからサンプル用にいただきましたの。ああ、ご安心ください。三日ほどお腹の調子が悪くなるかもしれませんが、きっと大丈夫ですから」
作者「……頑張って一週間以内に」
リアナ「今日中」
作者「明日」
リアナ「言質を取りましたわよ。もし、嘘をついたりしたら……(小瓶の蓋を開ける)」
作者「(蒼白になりながら)コクコク」
リアナ「擬態語の使い方が間違っていますよ」
作者「気にすんな!」
リアナ「……疲れたので一度家に戻りますわ。ヴァリーにそう、伝えておいてください」
作者「いいのー?期日過ぎちゃってるんでしょ」
リアナ「どうせ提出する部署はお休みですから、三が日までに終わらせれば問題ありません」
作者「……可哀相なヴァリアス君」
リアナ「何か?」
作者「いぃえぇ」
リアナ「全部終わったら休んで良いことも伝えてくださいね。では」
取り残された作者。
作者「……飴と鞭。いや、鞭と飴?ま、いいや。ヴァリアス君の執務室に……って、ここどこだよー!」
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「お帰り、リアナ」
「只今帰りました、リューグお兄様」
王都のスフェンネル公爵別邸へと戻れば、玄関でリューグが待っていた。新年に合わせて新調した正装を着こなしたリューグは颯爽とリアナを抱きしめる。休暇中だというのに何処かの馬鹿皇弟のせいで、仕事に行ってしまった可愛い義妹を腕に囲んで漸く安堵の息を吐いた。勿論見張りをつけておいたが、泊まりがけというのはやはり不安だ。相手は未だにリアナ=リトルに気づかない間抜けな馬鹿皇弟だが万一間違いが起こるとも判らない。
「さぁ、お風呂でさっぱりして着替えておいで。新年のお祝いをしよう」
眉間に口付け、名残惜しみながらも下ろしてやる。侍女達に後は任せ、リューグは一旦自室に戻った。
リアナの正装を着付けた侍女達は、出来前に感嘆の息を漏らす。勿論、普段のドレスもリューグやジュードが厳選するだけあって、大変素晴らしいものであるが、今回はまた格別。今年の誕生日を迎えればリアナも成人と見なされる年だ。合わせて正装もこれまでのどちらかと言えば可愛らしいものから、大人っぽい、落ち着いた雰囲気のものへとなっている。斬新な黒のサテン生地で作られた衣装にはリアナの白い肌がよく栄え、所々あしらわれた白いレースが大人らしい中に甘さを残している。アクセサリーは全て白と黒の真珠で統一されており、少しだけ施された薄い口紅が艶やかさを出していた。
「良くお似合いですわ、お嬢様」
「今回は公爵様が半年も前からお嬢様のために用意されたものなんですよ」
「黒のドレスなんてどうかと思いましたが……さすがはレティエナですわね」
レティエナとは、数年前までスフェンネル公爵家で働いていたお針子の名である。とある出来事を切欠にリューグが後援して店を構えることになり、現在は若手デザイナーとしてその名を馳せている。彼女の作るドレスはどれも斬新で、全てオーダーメイドだ。仕事も数年先まで予約が入っているらしいのだが、リアナのドレスだけはそれに当てはまらない。
「ええ、とても素晴らしいわ。でも本当に変ではないかしら?前が開きすぎのような」
「大丈夫ですわ、お嬢様なら!」
「そうです。その見えそうで見えないところが男心をくすぐるのです!」
困惑するリアナに、拳を揃えて高らかに叫ぶ侍女達。勢いに呑まれ、そういうものなのかと何度も頷く。
「お嬢様ならきっと素敵な殿方に出逢えますわ」
「そもそも、お嬢様を無視する殿方など殿方ではありません」
侍女の気合いが入るのも仕方ないのだろう。貴族の成人となれば結婚に直結する大事な時期だ。貴族令嬢ともなれば十代で婚姻を結ぶのが当たり前。幼い内に婚約を結ぶことはほとんど無いが、その代わりに頻繁に社交へ出るなりして将来の相手を見つけなければならない。尤もリアナの場合は”一般”に当てはまらないので、結婚は義務ではないのだが、複雑な事情を侍女が知る由もない。
この手の話題がこの先増えるのかと思えば憂鬱になるが、彼女らは思いやってのことで決して悪気はない。それだけに無碍にも出来ず、曖昧に濁して話題を打ち切った。
別邸では新年の祝いということで、今日ばかりは無礼講で、この別邸で働く者全てが祝いの席に参加する。年末にかけて丁寧に磨き上げられたホールは開放され、食事や酒がふんだんに用意されていた。乾杯の音頭を取った後は、リューグとリアナは程々にして自室へと引き上げる。どちらかと言えば使用人達を労うために開いているので、彼等が何時までも居ては邪魔だろうという配慮だ。
「では、お兄様行って参りますね」
「もう行ってしまのかい?別に挨拶なんて明日でも……。当の主だってまだ仕事かもしれないよ?」
「きっと終えていますよ。あれでやる時はやる方ですから」
「日頃からそうであってくれると嬉しいんだけどね。今回なんて特に」
折角帰ってきたのにまた出かけてしまう義妹をなんとか引き留めようとリューグは重ねるのだが、リアナは頑として譲らない。行くなと言えばきっとリアナは諦めるだろう。けれど結局許してしまう自分は相当彼女に甘い。
「……気をつけて。適当に帰ってくるんだよ」
「はい」
兄の頬に唇を落として、リアナは別邸を出た。向かうは皇都中心にそびえ立つウイングパレス。その名が示す通り、中央入口を中心として左右対称に横に広がるように建てられている。王宮も例に漏れず、今日という日は侍女が侍従達のために王宮の一角が解放されており、皇族の住まう宮は最低限の護衛を残して閑散としている。
暇だから気軽に遊びにおいで。との誘いが来たのは、昨日だったか。恐らく断ってもいいとは思うのだが、最後のご飯を作ってくれると嬉しいというのは一体どういう事なのだろう?
とりあえず食材片手にやってきたリアナは、護衛達に挨拶をしてプライベートスペースへとやってきた。
「いらっしゃい、リトル君。待っていたよ」
皇帝自ら扉を開けて迎えてくれた。それに恐縮しつつも、素直に談話室へと足を踏み入れる。暖炉の前にはジェラルドとキエリファが陣取ってボードゲームをしており、ソファではヴィエッタが編み物を、机を挟んだ向かい側ではヴァリアスがソファに寝転がっていた。護衛を少なくするためとこうして皇族全員が一箇所に集まっているのだが、やっていることはバラバラだった。
「待っていたわ、リトル。貴方はこちらへいらっしゃい」
ぽんぽんとヴィエッタが自分の隣を叩く。ソファの上には本が置かれており、恐らくそれはリュディアスのものだろう。
「陛下」
「ああ、気にしなくていいよ。ソファは十分広いから」
本を退けてどうぞとリュディアスに譲られれば仕方がない。皇族と同席するなど以ての外だが、今は完全にプライベートの時間だ。変に遠慮するよりも従った方がいいだろうと判断して、素直に腰を下ろす。それでいいんだよとでも言うようにリュディアスが頭を撫で、彼もまたリアナの隣に座った。
「実は今手袋を編んでいるのだけど、ここの編み目がどうしても上手くいかなくて」
「そこはこうしてこうやってですね」
「成る程ね。そうよ、毛糸も余っていることだし、貴方も誰かに作ったらどうかしら?」
「ええ?」
「どうせ夕食まで暇なんだもの。ね、そうしましょう」
流されるまま編み棒をとったはいいが、誰に作ればいいのだろうか。困った挙げ句、とりあえずマフラーでも作ることにする。マフラーならサイズを気にすることもないだろう。早速手を動かした。
「ねぇ、リトル」
「はい。何でしょうか?」
「リアナ嬢は今年成人ね」
「そうですね」
「決まった相手はもういるのかしら」
「……はい?」
一心不乱に動かしていた手を止めリアナは顔を上げた。ゲームをしているはずの二人も、眠っているはずのヴァリアスも、そして隣で本を読んでいるリュディアスもこちらを注目しているのが判る。
「お嬢様、ですか?さぁ……公爵様のお考えは知りませんので」
「じゃあ君から見てどうなんだい?」
リュディアスの問にリアナは眉根を寄せた。あくまでリトル、リアナ本人の意志を聞きたいということなのか。
「お嬢様は日頃本邸の方におりますので、僕では何とも……申し訳ありません」
上手い逃げ方だ、男達は内心舌を打つ。ヴァリアスの手前、リアナとして問い質すことも出来ない。
「そうだったわね。貴方は公爵家縁の者ではあっても、一員ではないもの」
ヴィエッタが上手く言葉を繋げる。
「ところで、どうしてそんなにお嬢様のことをお知りになりたいのでしょうか?……あ、いえ。差し出がましい口を利いて申し訳ありません」
「いいのよ。どうせ数日もしたら判ることだもの。ねぇ、リュド」
「そうだね。……これはまだ内密の話なんだけど、リアナ嬢を引き取りたいと思っているんだ」
子供たちは驚愕に目を見開いた。リアナも動揺こそ面に表すことはなかったが、一瞬頭が真っ白になる。
「……なぜ、それを僕に」
「既にスフェンネル公爵には打診してるんだよ。今は返事を待っているところだ」
冗談だろう?と聞き返すことは出来なかった。リアナの存在を知られた時点でこうなることも予期していたはずだ。
「聡い貴方なら理由も判るでしょう?世間にはリュドの隠し子として公表することになるわね。亡くなった愛人の子供を密かに公爵家に預けていた、とでもしておくつもりよ」
「ヴィエッタ様はそれでいいのですか?」
自分よりもまずヴィエッタの心配をするリアナに、思わず頬が緩む。
「優しい子ね。でも私が提案したことなの。大丈夫よ、私は真実を知っているから。それにリアナ嬢が娘になるなら大歓迎だわ」
二人の息子達の反応を確認して、ヴィエッタとリュディアスはほくそ笑む。さて、彼等がどう動くのか楽しみだ。
ほのぼのにするつもりが伏線ばかりの内容に。うーん、まぁこれは本編よりもう少し後の話ということでご了承ください。少なくとも、今の三章が終わった辺り、かなぁ。