囚われの身
長らくお待たせいたしました!!
ほんっとーに、遅くなって申し訳ない。
「……だろう?……ろよ」
「貴方は……ですか。……ません」
何者かが口論する声で、彼は目覚めた。はっきりいって目覚めはとても悪い。彼にいち早く気づいたのは口論をしていたうちの一人で、それは見覚えのある顔だった。けれど、意識を失う前は丁寧に結われていた栗色の髪が、今は簡素に一本で結ばれている。耳たぶにぶら下がる銀の紋章が貴族であることを示していた。
「あーっと、お嬢さん?あんたが捜してんのは別やと思うねんけど」
「いいえ。僕が探していたのは貴方で間違いないですよ。”青海の山賊”頭領殿。それとも理経様とお呼びした方がいいですか?」
にこりと微笑む令嬢、いや男なのか?に彼は警戒を強めた。一つ目はともかく二つ目の名前は知られていないはずだ。
「あー、落ち着いて聞いて欲しい、理経殿。ここは……」
「あんたも敵やったんか?俺やと知っていて近づいたんかいな」
腰に差した短刀を出そうとして、しかし何もないことに気づく。迂闊だった。服装も全て替えられているようで、隠し武器の類は全て取り除かれている。
「だからヴァリーは邪魔だと」
「仕方ないだろう。俺だって責任者だぞ」
「この事件に関しては全て僕が任されているはずですけど?誰かの采配で」
「う…それはだな」
「まさか、これも憶えてないなんて言いませんよね?クレハさん特製の栄養ジュースのお世話になりましょうか」
「あれだけは勘弁してくれ!」
「効き目は抜群ですよ~?あれを飲めば、徹夜明けでもあら吃驚!ですから」
「確かに吃驚だがな」
いきなり始まった仲違いに、彼はそろりそろりと唯一の退路である扉へと近づいた。ドアノブを回すが、すかっと空回りするだけで開かない。少年がちらと一瞥した。
「ああその扉、実は偽物ですから。開ければ見事飛び降りれます。本物は別にありますよ。……兎に角、最近集中しなさ過ぎです。決裁の内容を憶えてないなんて重傷ですよ」
「判った。判ったから落ち着け……」
「今日の昼食後からお茶の時間までは時間を空けてますから、ヴィエッタ様のところへ行ってください」
「なぜ義姉上のところに行かねばならんのだ」
「何かをお悩みのようですから、この際早期解決していただこうと思いまして。僕には話せなくてもヴィエッタ様なら話せるでしょう?貴方の親代わりですし」
「はぁ……。義姉上に話せるはずがないだろう?せめて兄上にしてくれ」
「リュディアス様は良くてヴィエッタ様には相談できないのですか?まさか、俗に言う男同士のあれですか」
リトルの「あれ」がよく判らないが、ヴァリアスはとりあえず頷いた。思いやってのことなのだろうが、少し苛立つ。
「でしたらそこに適役がいるじゃありませんか。ささっ、彼ならきっと経験豊富でしょうし、どんとお世話になってください。そういうわけなので暫くヴァリーをお願いしますね、理経様」
ひらひらと手を振って絨毯を捲れば、何とそこには扉が。唖然としているヴァリアスを置いて階段を降りると、ご丁寧に外側から鍵をかけられる。
隙を逃さず扉に取り憑いた理経に無駄だと、近くの木箱に腰を下ろしたヴァリアスが告げた。
「それは外側の鍵でしか開けられない。あいつもその内戻ってくるから大人しく待っていたほうがいいぞ」
「そうですかと納得できるとでも?ヴァリー、あんた何もんや」
どさりと寝台に腰を下ろした理経が、ヴァリアスを睨む。しかし、ヴァリアスは首を横に振った。
「俺はあいつに全てを任せた。そのあいつが明かさないと決めたなら俺は言えん。すまんな」
他人の前では必ず、ヴァリアス様と呼ぶリトルが敢えてヴァリーという愛称を使った。つまりは、まだ彼が”ヴァリアス”であると知られたくないらしい。
「あいつってさっきの嬢ちゃん、いや坊ちゃんか?」
「ああ。外見だけは綺麗だが、あれは正真正銘坊ちゃんだから手を出そうなんて考えるなよ?」
「出したら?」
「殺される」
あれの保護者に。
何度も襲撃者を送られた身としては、十分その恐ろしさが骨身に染みついていた。それを困った若様の悪戯で済ませてしまうリトルもどうかと思うが。因みに撃退は全てリトルが行っている。一応、あれは俺の護衛だからだ。それがまた更に怒りを煽ることになるのだが、二人は生憎と気づいていない。
中途半端ですが、一旦切らせて頂きます。今日中にもう一本投稿します。