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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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偽りの探し人

 両者の思惑を乗せて馬車は目的地へと止まる。辿り着くまでにヴァリアスを念入りに変装させて、四人は警備隊の詰め所へと入った。

 裏口では、既に連絡を受けていたクエリが所長を従えて待っていた。ヴァリアスを見て、リアナ同様こめかみを押さえている。第三者の登場に、所長に怪しい者ではないとだけ説明して、先程着替えた部屋へと連れてこられた。


「なぜ貴方までがここに?」

「俺は……」

「ヴァリーは非番で、偶々趣味の甘味巡りをしていたようです」


 被せる様に言葉を発したリトルにクエリが一瞬目を見開き、成る程と相づちを打った。リトルが主君であり直属の上司であるヴァリアスを人前で、しかも愛称で呼ぶことなどあり得ない。それはつまり、正確な素性を知られたくないと判断したからだろう。恐らく途中でヴァリアスが一人歩きしているところを見つけてしまったのだろう、本来護衛の立場であるリトルがやむなく連れてきたのだろう、とそこまで推測し、クエリはあくまで一介の竜騎士として扱う。


「非番といえど、今は緊急事態。協力していただきますよ」


 有無を言わせず断定したクエリに、しかしヴァリアスが反論することはなかった。正しくは、しても無駄なのでしなかったのだが。隣から発せられる無言の圧力には逆らえない。頷くに留めたヴァリアスを確認して、クエリは細い二本の指で眼鏡を押し上げる。室内のランプの光が反射して眼鏡が煌めいた。


「抵抗した者は地下三階に収容。内ネズミが3。目標は地下一階に」

「どれだけ入り込んでいるか判りますか?」

「確認できるだけで8だ」

「一人だけ狙ったにしても少ないですね」


 眉根を寄せるリアナにクエリも頷く。大吾の話では、三年前に彼が率いていた一個小隊丸ごと逃げてきたらしい。つまり、第七王子の護衛は最低でも二十五人はいることになる。それに対していくら手練れといえど、8人ではあまりにもお粗末すぎる。本来の目的は王子ではなかったのか、それとも小隊自体を確認されていないのか?当時の資料では、六年前から第七王子の姿は公に見せていない。そして、三年前から”青海の山賊”が目撃されるようになる。三年の間、王子は何をしていた?


 情報が足りなさすぎる。ひとまず思考を遮断して、目先のことを考える。今をどう切り抜けるかが先だ。


「とりあえずあの方をお連れしましょうか。あまり暗くならないうちに家へ帰らないといけませんもの」

「畏まりました、お嬢様。ではご案内いたしましょう」


 小さく手を合わせて微笑む姿は可愛らしい令嬢そのもので、それが防音の魔術を解いた証だった。あまりにも自然すぎて判りにくいが、少しでも魔術を囓ったものならそれがどれだけ難しいことなのか判るだろう。相変わらずの腕に舌を巻きつつ、ヴァリアスは慣れない制服の詰め襟を正した。



 

 陽が一切届かないその場所は染み一つ無い白い壁で作られており、牢屋というよりも研究所と言った方がしっくりくるだろう。等間隔に照らされた灯りを壁が反射して、地下であるはずなのにどこか明るい。

 階段を降りて直ぐの牢屋に、その男は入れられていた。薬が効いているせいか、未だ目覚める様子はない。万一のためにヴァリアスを鉄格子の外に置いて、クエリとリアナ、大吾が手早く着替えさせる。最後に鬘を被せて完成だ。どこか草臥れた青年風の仕上がりに満足してクエリも外に出た。


 懐から出した気付け薬を嗅がせれば、心底嫌そうに男の顔が顰められる。あまりにも強烈すぎる香りなので、その効果を知っているリアナは予め全員に鼻を摘むよう指示している。それでも完全に回避できるわけではなく、慣れていない所長や大吾に至っては直ぐにでも回れ右をして新鮮な空気を吸いたいはずだ。

 暫く待っていると蒼色の虚ろな視線が無機質な白い天井を彷徨う。頭を押さえながら上体を起こした男は、漸く直前にされた仕打ちを思い出し、声を出しかけた。が、それを察したリアナが即座に口を覆い、静かに、と諭す。男は大吾に視線を移し、それを受けた大吾が頷き渋々ながらも声を上げるのを止める。落ち着くのを待って、リアナは男の両頬に手を置いて、潤んだ瞳で見上げる。そのたおやかな外見も手伝って、演技を見ていた男達は庇護欲を掻きたてられた。お強請りされれば思わず頷いてしまうだろう。勿論間近で見せられた男も例外ではない。


「ああ、探しましたのよ。こんなに窶れてしまわれて。さあ、屋敷に戻りましょう?」

「あ、ああ」

「私の自己満足だと判っております。けれど、どうか屋敷で安静になさってください。酷い怪我なのでしょう?」

「ああ」

 

 良かった、と安堵するように胸を押さえ、次には花が綻ぶような笑顔が現れる。男は暫しその美しい笑顔に魅入られ、次の瞬間には鳩尾に衝撃を受けてリアナに被さるようにして気を失った。演技だということを忘れていた男達も、牢内に響くリアナの半狂乱の声で我に返る。


「きゃあ!?どうしましょう?傷がきっと開いたんだわ。早く屋敷に連れていってお医者様に見せないと」

「所長。私がお嬢様とこの者を送っていっても?」

「ああ、頼む。彼だけでは人手が足りんだろう。お前も一緒に運んでやれ」

「わかっ……えー、了解した」

「ささ、お嬢様。参りますよ」

「ええ。そうっとね、そうっと」


 五人の遣り取りは聞こえているだろう。当然捕まっているはずの三人の不法入国者も聞いたはずだ。同じトートス人が運ばれる理由もこれならば不自然ではないはず。これはあくまで演習で、政府に他意はないのだと見せつけるために。これで少しは時間稼ぎが出来ればいいのだが。


 行きと違い、令嬢が拾った男と、男を運ぶ警備隊員の一人を増やして馬車は王城へと向かった。


正直今回の話は判りづらいのではないかと(特に最後)。

どなたかアドバイスくださると嬉しいです。

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