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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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演習

 倉庫街へとやってきた二人とすれ違った警備隊に住民の声援が飛ぶ。宿屋の女将から差し入れを貰っている警備隊の姿に、大吾は首を捻った。それを目敏く見つけた女将がやってくる。


「あんた、うちの国にきてまだ日が浅いのかい?」

「え?まぁ」

「じゃあしょうがないねぇ。珍しいだろ、あれ。大規模な演習って名目で、ああやってよく訓練してるのさ」

「訓練、ですか」


 実際は本番なのだが。それにしても訓練とは……。


「そうさ。定期的に国民から犯人役が選ばれて、それを捕まえるんだ。ああ、勿論日程は公開されてるよ。あたしの旦那も前々回が犯人をやらされてね。確か暴力団に金を横流しする役、だったかな?早々に捕まったもんだからあの人一日、あの地下牢に入れられたんだよ。羨ましい」

「牢屋に入れられたのが羨ましいんですか?」

「当たり前だよ。ああ、地下牢っていうのは表通りにある立派な宿屋のことさ。捕まったらその日は一日あの豪華な宿屋に拘留されるんだ。当に至れり尽くせりってんで、人気なんだよ」


 大吾は言葉も出ない。リトルの悪戯っぽい顔を見れば、それが本当だということが判った。なんて非常識且つ、大規模な演習なんだと思ったが、国民受けはかなり良いようだ。不定期に開催されるようだが、一生に一度は順番が回ってくるので納税者達も楽しんでいるらしい。当人達には悪いが、街中はちょっとしたお祭り騒ぎだ。

 実戦を想定しているので、街の住人達がどちらに荷担しても良いというルールまであるので、警備隊にしてみればかなり鬼畜な訓練であった。


 その後二、三遣り取りを交わして気の良い女将と別れた。頃合いを見計らって、売り子の少年と話していたリアナはお兄ちゃんと声をかけながら駆け寄る。真っ赤な顔をして頭を下げる少年に手を振り返し、大吾の腕に手を絡めた。

 予め大吾が心当たりのある宿をいくつか提示し、二人はそこに向かっているのだ。

 今回の演習は急な話であったが、実際にトートス人の幾人かの協力を得ており、通常の演習と何ら変わらない。ただ、その裏の本当の目的が警備隊には知らされていないだけだ。演習を利用して、リアナの部下や一部の竜騎士の部下が警備隊として紛れ込み、怪しいと思われる人物や今回の目的人物を捜索している。こちらが絞り込んだ場所は、正規の警備隊が入り込まないよう各地の警備隊に配されているクエリ直属の部下が巧妙に探索区域を外しているためだ。


「今更ながら貴殿らの国は型破りだな。成る程、これならば怪しまれることもない」

「入国の際に他国の方々からも許可を頂いてますから、非難される憶えはありません。実際十二年前に西のローラン王国の人間をターゲットにしたこともあるようです」

「その時も裏があったのか?」

「これ以上は秘密です。……さて、次に行きましょうか。お兄ちゃん」


 人差し指を唇に当てる仕草があまりにも蠱惑的で、兄と呼ばれた大吾は思わず怯む。意識してやっているのだろうが、男だと知っている大吾ですら、本気で迫られたら陥落しそうだ。


 いや、迫られるって私は一体何を考えている!今は任務中だ。


 煩悩退散も込めて頬を叩く大吾の気も知らず、リアナは無邪気に次の目的地へ向けて歩いていた。




「リアナ嬢!?」


 背後から呼ばれた名前に、天を仰ぎたくなるのを抑えてリアナは振り返る。声の持ち主と、その隣に立つ人物を認め、溜息をついて見せた。釣られて同じように振り返った大吾は、殿下!と声を張り上げて駆け寄って行こうとして思いきり転ぶ。野球選手も真っ青なスライディングぶりに、一同唖然。態と足を引っかけたリアナだけが涼しい顔をしていた。


「きゃあ?!お兄ちゃん、大丈夫?駄目よ、捕まえるのは警備隊の役目なんだから。ヴァリーさんもお兄ちゃんの言うこと聞かないでよ。隊員さんのお仕事の迷惑になるでしょ。……警備隊さーん、怪しい人発見です!」


 大吾を助けるふりをしてさり気なく、上から押さえつける。角に身を潜めていた部下に目配せすれば、何食わぬ顔をした警備隊の制服を着た部下達が、ヴァリアスの隣に立っているトートス人を囲んだ。


「失礼だが、貴方を麻薬密輸の疑いで逮捕する。大人しくついてきてくれれば手荒な真似はしない」


 ぽかんと口を開けた男は、慌てて懐から身分証を探す。


「言いがかりだ。俺は何もしとらん。身分証もあるで」


 ほら、と出した腕に無情にも縄がかけられる。一瞬だが向けられた視線に大吾は首を横に振った。


「ちょ、放せや!」

「おい暴れるな。くそっ」


 腕を噛みつかれた隊員が後ろに下がり、反対側で連行していた隊員が布を口元に当てた。数秒もしないうちに男の身体ががくりと落ちる。一連の鮮やかな動きを住人達は囃し立てていたが、やがて日常生活へと戻っていく。警備隊の真似事をするのも程々にな、嬢ちゃんも困った兄さんを持ったねぇ、と大吾やリアナの肩を叩いて去っていく。それらに一つずつ反応を返し、人がいなくなるのを見計らって、それまでのはにかんでいた少女から一変して厳しい顔つきになる。

 逃亡できないようヴァリアスと手を繋ぎ、その反対側には大吾を連れて、一軒の酒場へと入った。




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