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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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変装

 扉が叩かれる音に準備は出来たかとクエリは席を立つ。その恰好は、いつものドラゴンが描かれた派手な制服ではなく、臙脂色の制服で、街でよく見かけられるものを身につけていた。

 目的の場所へとたどり着いたクエリだが、今回の同行者を頭の天辺から足の爪先まで眺め、顎に手を当てて考え込む。その沈黙をどう受け取ったのか、慌てた大吾に落ち着けと諭す。


「し、しかしやはりおかしいのではないだろうか」

「大丈夫ですよ。チェルスさんの腕を信じてください」

「確かに牢番殿は美しかったが、私は」

「ご心配なく。チェルスさんも男性ですよ。他の方々も大吾さんのことを褒めていたではないですか」


 あれは絶対面白がっていると大吾は思った。変装と称してやけに楽しそうな牢番に女装させられたのが数刻前。待機するようにと一旦戻されたのだが、その時に部下達に散々からかわれたのだ。彼の一生の汚点である。


 彼同様、女装している隣の少年と視線が合い、感嘆を含んだ息を漏らした。中性的な顔立ちは、衣装を替えれば凛々しさを美しさへと変える。まるで違和感のない装いに自分との差を呪いたくなった。


 鬱々と考え込んでいると、先程やってきた竜騎士が懐から何かを取り出す。彼はリトルを自分の前に立たせ、何事かし始めた。眼鏡のフレームが光り、手が目にも留まらぬ速さで動く。目を白黒させていると、最後にぱちんという音がして終わった。振り返ったリトルを見た時、少し違和感を感じる。


「ああ、気づきました?クエリさんの趣味なんですよ」


 ほらと見せられた袖口にはレースが二重に重ねられていた。確かにその方が可愛い。

 思わず和んでしまった大吾は我に返った。クエリの冷徹な瞳が今度は大吾を見ている。嫌な予感がする。


「そう言えばその服もクエリさんの手作りなんです。彼は皇都でも人気のお針子さんでもあるんですよ」


 後ずさる大吾を視界に入れると、再び眼鏡が煌めいた。そこは防音が完璧な尋問室だったため、男の悲愴な叫び声は幸い届くことはなかった。




「では改めて紹介を。こちらは僕と同じく竜騎士のクエリさんです。彼は皇都の警備隊隊長なので、今回は彼に協力をお願いします」


 腕を組んで頷くクエリに、大吾はようやく彼が着ているものが警備隊の制服だと判った。なぜ女装なのかといえば、探し人が警備隊詰め所にいるとの情報を得てやってきた令嬢とその付き人、案内人という役柄らしい。道中で見られてもおかしくないようにという配慮だった。やり過ぎではないのかと思ったが、竜騎士の顔は一部を除いて大々的に知られており、それぞれに熱烈なファンもついているので容易に気づかれないためということらしい。大吾も名前までは知らないが、彼等の活躍を噂で聞いていたので納得した。


「探し人は令嬢がたまたま拾った異国の人間で、彼は礼を言うなり何処かへ消えてしまった。怪我もしているのに放ってはおけない令嬢は彼を捜しているというのが肩書きです」


 探し人は下町に潜伏しているとあって、極秘に捜索するのは至難を極める。ということで、大々的な人海戦術を使うことにした。不法入国者を取り締まるという名目の元、片っ端から怪しいトートスの人間を捕まえることにしたのだ。そうすれば、こちらが王子を探しているのも気づかれにくく、王子を狙っているだろう不法入国者を牽制しやすい。双方を捕まえることが出来れば最上といったところ。今回は竜騎士直属の部下も混ざっているので前回のような失態はないだろう。


 皇都でも一番大きな詰め所へとやってきた三人は、予め偽の知らせを受けているせいかすんなり奥に通された。事情を知る(と言っても探し人がいるとだけ)所長自らが出迎えて応接室へと入る。


「状況は?」

「現在南ブロックを捜索中ですが、やはり予想以上に反発が大きいです。既に負傷者が二四名。内重傷者一名です」

「予想はしていたが、怒るのも当然だろうな。捕らえた者は?」

「全員地下牢に。暴れる者だけ拘束中です」

「引き続き頼む。例の物は?」

「こちらに用意してあります。お戻りはいつ頃になるでしょうか」

「ひとまずは陽が落ちるまでだな。こちらも用意ができ次第出る。後から応援を回すからそれまでは任せた」

「了解しました」


 扉が閉じられるのを待って、三人は顔を合わせた。


「強引なやり方だな。言えた義理ではないが、他国の評価が落ちるぞ」

「ご心配なく。今はそうでも事が終わればそこまで非難されないと思いますから。馬鹿な貴族のお騒がせ騒動は、国民達の娯楽になるでしょう」

「それでは貴族と警備隊の評判が悪くなるだろう」

「あながちそう言いきれないんです、実は」

「気になるなら街の皆さんに聞いてみるといいですよ」

「いいのか?」

「ええ」


 苦笑する竜騎士二人に、大吾は目を点にした。が、これ以上他国に口を挟むのも良くないと追及をやめた。


長いので一旦区切ります。

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