牢屋にて
短めでさらっと流しちゃいます。文章が短いので後から付け足すかも。
「……んちょう!大吾団長!」
誰かが自分の名前を呼んでいる。夢と現の世界を渡り歩いていたのだが、ぴちょりと冷たいものが頬に落ち、一気に意識が浮上した。目を開けて最初に飛び込んできたのは、涙と鼻水を垂らしてくしゃくしゃに顔を歪める部下の汚い顔。
嫌な予感に頬に手を当てれば、ねちょっとした感触がした。即座に顔を洗いたい欲求を抑えて、状況確認も含めて辺りをゆっくり見回す。
「お前は蓮、だな。ここはどこだ?」
「俺ですよ。目が醒めたんですね、団長~」
素早く飛びかかってきた蓮を避け、落ち着けと諭す。見事に玉砕した蓮は勢い余ってベッドから転げ落ちていた。決まり悪げに笑うその姿は、一月合わない間に多少痩せたようだが、痛みつけられた様子はない。
「酷いですよ、団長。あんなに熱い汗を流しあった仲だったのに」
「それはお前だけだ、未熟者。いかがわしい事を言うんじゃない!」
「ええ~。本当なのにな」
「いいからさっさと本題に入れ」
「了解です!って、俺も詳しくは良く判らないんですけど」
姿勢を正すと、蓮はこれまでの経緯を全て話した。
「……すみません」
「仕方がない。それより後遺症はないんだな?」
頷くのを確認して、大吾はようやく強張りを解いた。自白剤を使われて、訓練をまともに受けてない人間が対抗できるはずもないので仕方ないだろう。それよりも今こうして生きて会えたことに感謝する。用無しになった人間は始末されてもおかしくない。しかしそれが無い、どころか牢屋に入れられているが、それなりに好待遇なことを考えると今のところ相手に殺す気はないのだろう。
そして自白剤や牢の規模から考えて、それなりに力を持つ者に捕らえられたと考えられる。少なくとも地方の警備隊などではない。
「相手はロクロの手の者ではないようだ。他の者達も生きているんだな」
「はい。状況説明のために僕だけ団長の牢屋に入れて貰えたんです」
「そうか。ひとまず脱出する手立てを考えねば」
「やめておいた方がいいと思いますよ」
大吾と蓮が振り向くのと牢屋の扉が開かれるのは同時だった。入ってきたのは気を失う前に出会った少年。そして、大吾が更に驚いたのは彼が着ている制服だった。見間違えるはずもない。このバーリアス帝国の象徴である生物を自在に操り、戦場では一騎当千を誇るその騎士団は他国から畏怖の象徴とされ、自国では圧倒的な人気を持つ。その存在を。
「バーリアスの竜騎士団……」
呆然とした呟きに、精緻なドラゴンの刺繍を施された、派手な玉虫色の制服に身を包んだ少年はふわりと微笑んだ。
「初めまして。トートス第七近衛隊隊長、大吾=ナナカ殿。僕は竜騎士のリトル・ゾア・グルテアと言います」
「私の素性まで調べ済みか」
これまでの扱いにようやく合点がいった。ここでバーリアス帝国の力を借りることが出来れば、こちらとしても助かる。口を開きかけた大吾を制するようにリトルが手を上げた。
「先日、トートスからの不法入国者が侵入したとの報告を国境から受けています。貴方がたの素性が漏れたかと。第七王子に危害が加えられる前にこちらで保護したい。教えてくれますか?」
「牢屋に入れられて、しかも敵かもしれない相手にわざわざ教えるとでも思っているのか」
「牢屋にあなた方を連れてきたのはここが最も安全だからですよ。騎士団の寄宿舎地下であるここなら城の間者ですら入れません」
「俺達をどうするつもりだ?」
「陛下は隣国との戦争を望んではおりません。それが答えです」
真意を問うように黒と蒼の瞳が絡み合う。先に逸らしたのは大吾だった。
「判った。その代わり我々も同行を」
「勿論です。準備も用意してますから、食事を食べ終えたら上に来てください」
「上に?」
閉じこめられているのにどうやって?と思ったが、答えは簡単に見つかった。捕らえるつもりは本当に無いようで、牢に鍵はかかっていなかったのだ。牢の外に出れば、捕まったはずの部下達が待っており、大吾は驚いた。
そして、指示通りに上に行けばそれを上回る驚きが待っていた。