表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
33/72

竜騎士の日常


 なんの変哲もない扉の前に立ち止まったリアナは、大きく息を吸って気合いを入れてからノックをする。なんせ、死体の一つや二つ、転がってないのが不思議な部屋だ。今日こそ、死者が出てその始末に追われることになってもおかしくない。竜騎士全体の雑用を一手に引き受ける身としてはごめん被りたいところだ。


 ここの住人がノックを聴かないのはいつものことなので、無断でドアノブを捻って扉を開けた。


「クレハさん。分析は進みました?」

「やぁいらっしゃい、リトル。そこにでもかけて待っててよ~」


 足の踏み場もない部屋の、唯一の空間である寝台に腰掛けたリアナはぐるりと部屋を見回す。何に使うのか、怪しげな動物の剥製からがらくたのような欠けた壺まで置いてある。予想していたものはなかったのでほっと一安心。


 それにしても……。


 つい一ヶ月前の大掃除を思い出し、頭が痛くなった。

 竜騎士にはクレハのような生粋の研究者も多く、執務室と呼ばれる彼等の仕事部屋のほとんどは似たり寄ったりな感じで散らかっている。整理も兼ねて、時には実験体から助手までさせられる彼等の部下達を総動員して一月に一度、大掃除を行っているのだ。


 その都度、本人を無視してこちらが不必要と判断したものは容赦なく廃棄しているはずなのだが、なぜ一月でこうも仕事に関係なさそうなものが増えているのだろうか。部下達は何をしているのかと問いつめてやりたい。


 久しぶりに抜き打ち掃除でもしようかと計画を立てているところで、ようやくクレハがお盆を持って現れた。いかにも不健康そうな顔には隈が定着し、よれよれの白衣は様々な染みがこべりついている。

 掃除の前に必要なことがあるようだ。


「洗濯に食事、ですね。後で部下を向かわせます」

「や~、いつも悪いね~。ほい、リトル。どっちか選んでよ~。一つは手違いで隊長に盛っちゃった新種の神経麻痺の改良版で、もう一つは旧来のアメラナの根を二倍にしてみました~」


 アメラナの根とは、自白を促し、幻覚作用を及ぼす毒草のことだ。二倍、つまり通常に使われる量の二倍をお茶に入れたらしい。クレハ=ミドウ、皇城の一級薬師でもある彼だが、趣味は毒薬開発とやや危ない人だ。一級薬師の称号を持つだけあってその腕は確かなのだが、誰彼構わず毒を勧めるので竜騎士でも5本の指に入る要注意人物に当たる。


 因みに受け取り拒否はほぼ不可能。実験に対する熱意は凄まじく、彼から逃げ切れるのは同じ竜騎士くらいのものだ。室内に足を踏み入れた瞬間ロープで捕らえられ、有無を言わせず飲まされることもあるのでクレハを訪ねる者はほとんどいない。リアナが来てからは、主に彼女が窓口として間に入っていた。


「また新しい実験ですか?毒薬の経過に付き合うほど時間に余裕がありませんよ」

「君なら大丈夫だよ~。過去に僕の毒を制した生物なんて君くらいだからね~」

「だったら今回も無駄なことは判るでしょう?」

「ん~?だって、僕の部下達み~んな寝込んじゃってるんだよね~。実験体がないからつまんないんだよ」

「ぞろ目隊は?」

「前回、2週間ほど病院送りにしちゃってゼイスに禁止されてるんだ~。だからいいでしょ~?」

「解毒薬は?」

「きっと大丈夫だよ」


 作ってないのか。確かに自分以外に飲ませるわけにはいかない。ここで逃げても新たな犠牲者が出るだけだ。流石に、この忙しい時に解毒薬など調合する暇はない。

 ねぇねぇとお願いされて、リアナは腹を括った。仕方なく片方に口を付ける。期待の目で見られても居心地が悪い。


「微かに舌の痺れを感じますね。味は甘いのでしょうか?シロップの代わりに使えそうです」

「……即効性の薬なんだけどな~。今回も失敗か~」


 けろっとしたまま、有用性を語るリアナに悄然と肩を落とすクレハ。彼の最大の目標はリアナにも効く毒を生成する事だそうだ。創造神の子供であるために、この世界から作られたものがリアナを害することは決してない。ようするに、毒の類は一切効かない身体だ。

 努力するだけ無駄とは言えなかった。解毒不能の毒を作ることは有益だったので。




 毒薬仕込みのお茶と一緒にお盆に乗せられた書類を受け取り、目を通す。それは先日解析に回した薬成分の更なる詳細だった。薬の元となる植物がどこの地方で採れるかなどが書かれている。

 特筆すべきはその主成分である植物が極めて温暖な地方に自生している植物であること。道端の雑草でしかないそれは、ある植物を条件にすると、驚くべき効力を発揮するのだ。

 ”青海の山賊”が、危険を冒して国境付近で活動していることも関係しているのかもしれない。


「ご苦労様です、クレハさん。くれぐれも僕の部下達に差し入れしないでくださいね?」

「努力するよ~」


 生返事に、部下の冥福を祈りながらリアナは哀れな部下という名の子羊を探すべく、待機室へと足を向けた。


現在、番外編でジュード兄ちゃんの話を書いてます。暫くは小ネタを載せたいですね。

予定では、前回拍手御礼で1位を取ったにも拘わらず出てこなかったジュード兄ちゃんとヴァリアスさんを書こうと思ってます。

あくまで予定なので期待しないで長い目で待ってやってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ