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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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お茶会 中編

 すっかりリアナが打ち解けた頃に彼等はやってきた。


「全く、母上も人が悪い。手錠まで持ち出すのはいくら何でも反則だと僕は思うよ」

「とばっちりを受ける俺の身にもなってくれないか、本当に。俺は関係ないだろう?」

「いやいや、叔父上は僕より先でしょう、やっぱり」

「こんな時だけ叔父扱いするな。大体俺より年上だろうが」

「毒を食らわば皿まで。死なば諸共」

「頼むから巻き込むな」


 薔薇の生け垣を越え、物々しい雰囲気で、囚人よろしく近衛兵に囲まれて手枷をかけられたジェラルドとヴァリアスが現れた。


「あら、いらっしゃいジード、ヴァリー。後で話したいことがあるから覚悟してらっしゃい。……ご苦労様。下がって良いわ」

「はっ」


 鈍い音を立てて枷が外される。そこに施された文様を見てリアナの目が僅かに開かれる。


 見間違いでなければあれは魔術師専用の手錠だ。魔術塔の許可なく使用できなかったはずだ。


 手錠の後をさすりながら、ジェラルドがヴィエッタの手を取って口づける。


「三日ぶりですね、母上。今日はいつにも増して美しいですよ」

「ご無沙汰しております、皇后殿下。仕事があるのでこれで失礼します」

「今日は仕事がお休みなことはリトルから聞いて承知ですよ、ヴァリー。ジード、それを言うべき人は他にいるでしょう?」


 逃げ道を封じられ舌打ちするヴァリアスと、嫌々ながらに出席者へと視線を移したジェラルド。見回した双方ともがある一点で視線が固定される。


「まさか……」

「あの時の妖精……?」


 は?とヴァリアスには似つかない単語が飛び出してきたことにジェラルドの眉が寄せられる。悪戯が成功して鼻歌でも歌いそうなヴィエッタは二人の前に、一人の少女を差し出した。ジェラルドは愉悦に染まり、ヴァリアスはぽかんと口を開けたままその姿を凝視する。


「こちらはスフェンネル公爵令嬢リアナ。今年デビュタントを控えてる令嬢よ。こっちがわたくしの息子で、間抜け面してるのが甥のヴァリアス」

「お初にお目にかかります、両殿下。リアナと申します」


 伏せた面を上げれば、曇り無い鮮やかな紫眼が覗く。誰もが驚く双眸を、しかし二人は動じなかった。


「ようこそ皇城へ。リアナと呼んでも?」

「構いませんわ、皇太子殿下」


 両者共に挨拶を交わして隣を見る。が、いつまでも呆けているヴァリアスをジェラルドが脇を突いて挨拶を促した。


「す、すまない。ヴァリアスだ。よろしく」


 ぎくしゃくと手を差しだしたヴァリアスに、(本来なら手の甲にキスを落とすのが挨拶だ)やや驚きながらもリアナは握りかえした。挙動不審すぎるヴァリアスに、内心気づかれたかと冷や汗を掻きつつも差し出されたジェラルドの腕に掴まる。


 男達はそれぞれリアナとリディアン、カタリナとレアナシアの間に座る。改めて侍女達が全員分のカップに新たにお茶を注いだ。先程とは違い、清涼感を感じさせるすっきりとした味だ。


「噂の姫君に会えて光栄だな。実際は公爵の話に聞いた以上だったけど」

「どのような話か、よければお聞かせ願えますか?どうせ、お転婆とかじゃじゃ馬とか聞かされたのでしょうけれど」

「おや、君はお転婆だったのかい?僕が公爵から聞いたのは、目に入れても痛くないほど可愛い娘がいるってことだけなんだけどね」


 自分の失言にしまったと頬を染めるリアナ。普段でもぐらっと来るのだが、きちんと女性の姿でこれをやられると凶悪なほど可愛い。猫可愛がりする、あの一家と知っているであろう両親の気持ちがよく判るジェラルドだった。


 当然そんな二人を面白く思わないのが、対面に座るカタリナとヴァリアスだ。時折口を挟めば、ジェラルドにあしらわれる。ジェラルドがリアナに興味を持っているのは明らかだった。


 他の花嫁候補達とは普通に会話に興じているのに、なぜかカタリナはやんわりと避けられていた。


 一体なぜ?


 これまでは自分の優位性を信じて疑わなかった。公爵令嬢という高い地位。それに見合う整った容姿。徹底的に教え込まれた礼儀作法。その名に恥じぬだけの行いをしてきたつもりだ。だからこそ皇太子の花嫁筆頭候補とまで目されるようになったのだから。しかし、この少女が現れたことによって、全てが水泡に帰している。公爵家の中でも筆頭のスフェンネルを抱き、容姿端麗は言うに及ばず、何より皇后のお気に入り。欠点といえば血筋だが、皇家直系にしか継がれないはずの純粋な紫の瞳を持つ限り、誰も彼女を貶めることなど出来るはずがない。これまで築いたものが崩れ落ちる音がした。


「カタリナ様?お顔が真っ青ですが御気分でも悪いのですか」


 耳当たりの良い、涼やかな声に現実が戻ってくる。冷たくなった指先は、暖かな陽射しで感覚を取り戻す。演技ではなく気を遣っているのだろう、いつの間にか注目されていることに狼狽した。


「本当だわ。具合でも悪いのかしら」

「あ、いえ……。その気分があまり優れませんので。申し訳ありませんが失礼いたしますわ」


 中座する非礼を詫びて、侍女に支えられながら屋内に入っていく。それを見届けて、ヴィエッタは空を見上げた。太陽の位置が大分傾いている。


「あらもうこんな時間なのね。風が少し冷たくなってきたわ。そろそろお開きにしましょうか」


 その言葉を皮切りに、ヴィエッタによるジェラルドの花嫁候補達の顔合わせが終わった。



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