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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
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お茶会 前編

 今更ながら、ドレスを着て接見するのは存外恥ずかしいものだ。仮装舞踏会で一度見せたことがあるとはいえ、あの時は変装していた。

 つまり何が言いたいかというと、リトルしか知らない人間に、リアナとして会うのはなぜか気恥ずかしい。


「お招きいただき光栄です、皇后殿下。お初にお目にかかりますリアナ・レイス・スフェンネルと申します」


 惚けていた表情は一瞬にして、柔らかな微笑みにすげ変わる。お淑やかな所作で一礼したリアナに、顔を上げさせたヴィエッタは私の茶会へようこそ、とリアナの手を軽く取った。内緒話でもするように小声で遣り取りする。


「とっても良くお似合いよ、リトル。きっとジードも貴方に目を奪われるわね」

「皇太子殿下も出席なさるのですか?」


 出席者の名前は全て頭に叩き込んである。その中にジェラルドの名前は記載されていなかったはずだ。


「ええ。仕事の合間に顔を出してくれる予定なの。今回はあの子のために開いたようなものですから当然ね」

「ジード様も大変ですね。でしたら尚更、私は場違いではありませんか?」

「心配しなくても貴方にも関係あることだから。顔合わせに呼んだけれど、実際にお相手は決まっているのよ」

「そうなのですか?では近いうちにお祝い申し上げなければなりませんね。ヴァリアス様にもそろそろ身を固めて欲しいものです」


 どこまで鈍いのだか。扇で溜息を押し隠しながら、ヴィエッタは横目でリアナを見た。


 まさに究極美といっても過言ではない完璧な美しさは呼吸しているのが不思議なくらいだ。動かなければ精緻な等身大人形と間違えかねないが、裏切っているのはその瞳の輝きと表情。浮かべる軟らかい表情が、ともすれば人形のような冷たさを払拭しているのだ。


 肩書きでなく、一個人として見てくれるから傍にいて安心できる。大なり小なり重責を担う者、特に皇族に括られた者達にとって、それがどんなに難しいことか本人は気づいていないだろうが。その愚かなまでの素直さが惹きつけてまないのだ。

 近頃、息子がリアナを見る目が変わったことにヴィエッタは気づいている。以前は好奇心の方が勝っていた様だが、ある時からそれが変わった。両親が変化を歓んでいるなど、息子は知らないだろうが、リアナの娘発言は二人にとって本気だった。

 噂に聞いていた外見を直に目にして、それは決定事項に変わる。政治的にも反対する余地など、ない。


「そうね。わたくしも楽しみにしているわ」


 見えないように何十もの糸を操って、気づけば獲物は絡め取られているだろう。その時が待ち遠しい。

 隠れた口元には笑みが浮かんでいた。




 皇妃のお茶会に招かれていたカタリナは、皇妃が連れてきた彼の人物を目にして絶句した。髪色を変えていようと、忘れるはずもない。仮装舞踏会で会った、あのウサギ女ではないか。


「皆様新しいお客様を紹介させていただくわね。こちらスフェンネル公爵令嬢リアナよ」

「初めまして。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」

「まぁ。では貴方があのスフェンネル公爵の掌中の珠と噂の……」


 フォンベル侯爵令嬢レアナシアの呟きを拾ったカタリナも、その噂を知っていた。数年前に公爵家の養子になったその娘は、血筋を何よりも重んじる貴族社会では嘲笑の的にもなっていたはず。それを払拭したのが、本人と直に会った貴族達と、引き取った公爵一家だった。その溺愛ぶりは有名なのだが、公爵の隠し子という噂が流れなかったのが不思議だったほどだ。


 成る程。本人を前にすれば嘲ることなど出来るはずもない。最も高貴とされる、混じり気のない紫の瞳を持つ者を侮辱するのは皇族を侮辱するのと同じだからだ。


「お久しぶりね、リアナ。最近手紙が来ないから心配してたのよ?」


 片手にクッキーを摘んだまま挨拶をするこの不作法者はデーリン伯爵令嬢リディアン。こんな身分の低い者と同席するのは嫌なのだが、彼女はあのキエリファ皇女のお気に入り。昔からそりの合わない皇女とは極力接触を避けたいので、表面上は適度に距離を保っている。


「リディアンと知り合いだったなら早いわね。リディアンの向かい側に座るのがフォンベル侯爵令嬢レアナシア。私の姪に当たるわ。彼女の隣に座っているのがランズディ公爵令嬢カタリナよ。カタリナはよく皇城に遊びに来ていたから、いろいろ訊くと良いわ。宮中のしきたりにも詳しいわよ」

「そんな。皇妃様程ではありませんわ。わたくしなどまだまだ足元にも及びませんもの」

「そう言って下さると嬉しいわね。リアナは来年デビュタントがあるの。わたくしではうんと前の話になってしまうもの。だから若い貴方達の話を聞かせてやってちょうだい」


 デビュタントがまだ?


 それはつまり、社交界のデビュー前ということだ。先日開かれた宴を思い出し、人違いだったのかとカタリナの瞳が揺れる。あれは社交デビューしていないと招待状が届かないからだ。


「私達の体験談でよろしければ」

「んー。でも正直面倒くさいだけよ、あれは。一族総出でやらされるから大変。あんなのに夢見る女を尊敬するわね」


 それは貴方だけでしてよ、猿女。


「あら。わたくしはとても楽しみでしたわ。ドレスや装飾品をあれだけ取り揃えるのを許されるのは、一生に二度しか経験できませんもの。最初で最後の機会かもしれませんから、存分に楽しむと良いですわ」

「二度?」

「そうね。成人を認められるデビュタントと結婚式だけだもの。まさに一生の思い出なのよ」

「素敵ですね」


 おっとり頷くリアナ。溢れんばかりの笑顔を直視してしまったカタリナはうっと引いてしまった。嫌味で言ったつもりなのに、全然通じていない。計算か天然か。侮れない。

 落ち着ける意味を込めて、お茶を口に運ぶ。薔薇のエキスを抽出、濾過を繰り返して作られる稀少な薔薇茶の甘やかな芳香が口に広がる。


「カタリナ様のドレスはどんな仕様でしたか?咲き初めのような初々しい薔薇色もお似合いでしょうね。それとも、今着ていらっしゃるような、瞳に合わせた朝露をたっぷり含んだ緑色かしら?」

「え、ええ。わたくしのドレスはロジエッタに頼んだ萌葱色のドレスでしたわ」

「ロジエッタ!さぞ素晴らしかったでしょうね」


 ほぅと熱い溜め息さえついて見せるリアナに気をよくしたカタリナは、当然とばかりに頷いた。その様子を見て、ほくそ笑んでいたヴィエッタに気づいたのはリディアンだけだった。


「レアナシア様はどのような?」


 女達の話題は尽きることなく、穏やかな時間が流れていく。



ジェラルドさんのキャラはいまいち掴みにくいです。さてさて、これから動き出すわけですが、エンドをどう終わらせるかで悩み中。

最悪二つ考えるのもありかと、構想練ってます。

近々アンケート作るかも。

その時が来ましたら、ご協力お願いします。


後半部分を削りました。下書きを消し忘れたようでして、すみません。

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